《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

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卒業パーティーの顛末

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 静かだった広間に、その甲高い声は大きく響いた。


「え? え? どーいうこと? アルベルト?  ブルーノ? マルクス? 私は……貴方達の恋人、よね? その女達と別れて私と結婚してくれるってことなのよね?」


 セイラは自分の思っていた展開とは少し違う彼らの様子に混乱し、焦って痺れを切らしたらしい。

 セイラは3人がこの卒業パーティーに婚約者ではなく自分をエスコートしてくれたことで、これで婚約者との決別は確実! と確信しほくそ笑んだ。……そして皆に聞こえるように王太子に『いつ婚約破棄するって公爵令嬢に言うの?』と甘えてねだった。

 そこからの最初の王太子の発言。

 セイラにしてみたら、『愛するセイラと一緒になりたいから婚約者と別れる』という流れになると信じ込んでいたのだ。
 ……あれ程最初にアルベルト達からきちんと契約条件を示されていたにも関わらずに。

 せめて彼女はそのまま黙ってこの状況を見守っておくべきだった。……そうすれば、いくらセイラがそれまで王太子達との約束を破り勝手な行動を取り続けていたとしても、この計画に協力をしてくれた恩から王太子達は彼女を『友人』として守る事は出来た。



「王太子殿下の名を呼び捨てとは、なんと無礼な……!」

「いや、それとも殿下はあの娘を愛妾になさるおつもりなのか?」


 周囲が騒ついたので、アルベルトはそれに答えた。


「私達とセイラ嬢は学園内での、ただの『友人』。彼女と我らはそのような男女の関係では一切ない。我らはいつも友人として4人で行動していた。護衛達に確認してもらっても構わない」

「な……っ! だって、ずっと私と一緒にいて婚約者を相手にしないで私のこと可愛いって……、そう言ってたじゃない! ……私は、アルの恋人だよ?」


 最後、上目遣いで可愛くねだるようにセイラが言った。いつもはこれで王太子達はセイラに微笑み返すのだが。


 ──しかし王太子は眉を顰めた。


「セイラ嬢と恋人関係になった事は一度もない。好きだと言った事もない。2人きりになった事もない。……それで『恋人』だと?」

「しかもセイラ嬢は私たちにも『2人きりになりたい』と言った。『殿下の恋人』だったなら、それは問題ではないのですか?」

「我らは勘違いされないように、いつも学園では3人で行動していた。誰1人セイラ嬢と2人きりになった者は居ない」


 王太子、侯爵令息、マルクスの3人からそう言われて、セイラは愕然とした。ついさっき、パーティー会場に入った時にはあんなに優越感に浸れていたというのに。


 そして周囲の人々は、セイラが普段から他の高位貴族にも迫っていた事を見て聞いて知っている。そして確かに彼らと2人きりの所を見た者はいない。……であるから、人々はこれは王太子達の言っている事が本当なのだろうと確信を持ってこの流れを見ていた。



「……酷い! 3人して、私のこと弄んだのね!」


 侯爵令息とマルクスはそれを聞いて言った。


「貴女をある程度特別扱いしていた事は否定しませんが、それは貴女も同じですよね? いつも貴女から我々の側にやって来て、他の女性を牽制しそして殿下の王家の威光を利用していた。そして私達は貴女には我らと共にいる事を許し色々便宜を図って来たつもりですが」

「……そもそも『友人』と、そういう約束だった。最初に恋と勘違いされてはいけないからと言った我らに、『自分なら勘違いしないから大丈夫』と言ったのはセイラ嬢ではないか」


 セイラは震えながらそれを聞き、崩れ落ちて泣き出した。……卒業までの一年を一緒に過ごせば、セイラの美しさ愛らしさにいつかは彼らは想いを寄せてくれると思っていたのだ。


 セイラがあくまでも王太子達の学生時代の友人として慎ましくこの一年を過ごしていたのなら。
 ……貴族達に多少のの軋轢は残ったかもしれないが、『王太子殿下達の友人』としてそれなりの立場を確立出来たかもしれないし、王太子達もそんな彼女に多少の配慮はしただろう。

 ───しかしこの場で『王子の恋人』を語った事が決定打となってしまったのだ。

 セイラは王太子達は自分に夢中だと思い込んだが結局は誰も振り向いてくれず、男爵令嬢が高位の貴族に付き纏い他の高位の貴族達に対し身の程知らずな態度を取って顰蹙を買っただけ。
 これでは良い縁談など望めるはずも無く、更に今までの勘違いな態度からこれから他の貴族達に嫌厭されていくことだろう。



 そんなセイラに背を向け、アルベルト達3人は当初の計画通りそれぞれの婚約者達に向き直った。


 周囲はゴクリと息を呑む。

 そしてツツェーリアも表面上は冷静をよそおってはいたが内心緊張していた。


 ……なんだか思っていたよりも話が複雑になってしまったけれども、ここからはいよいよ私の出番ね。


 ツツェーリアは静かに前に進み出た。

 そして、感情を感じさせない完璧な淑女としてアルベルトに言った。


「王太子殿下。長きに渡り婚約者としてご一緒出来た事。私の誉にございます。
……婚約の解消を、お受けいたします。これからも殿下の未来が輝かしいものであるよう、心からお祈り申し上げます」


 ツツェーリアは、そう言って洗練された美しいカーテシーをした。

 アルベルトは少し切なげに彼女を見ていた。


「私も、婚約の解消をお受けいたします。あなた様の未来に幸あることをお祈り申し上げます」

 侯爵令息の婚約者も計画通りそう言って美しいカーテシーをした。


 ……そして。

 まだ少し、青い顔をしたマリアンネもマルクスの前に進み出た。


「……私も。……お受け、いたします……。
マル……ハルツハイムさま。今まで、ありがとうございました……」


 マリアンネは涙ながらにそう言って、震えながらもカーテシーをした。

 マリアンネは本当は解消などしたくなかった。しかし父からも彼を諦めるよう強く言われ、しかも王太子の婚約者である公爵令嬢や侯爵家嫡男の婚約者が受けているのに自分だけがゴネる訳にはいかなかった。



 ツツェーリアはマリアンネをチラリと見た。
 ……彼女だけは最後までどう動くかは分からず、この場面でも抵抗するかもしれないと皆が心配していたのだ。


 ……けれど、先日会ったシッテンヘルム侯爵もマリアンネの学園での愚かな行動にショックを受け、この婚約を継続する事は難しいと悟ったのだろう。そしてこんな事になってやっと強引に婚約話を進めてしまった事を悔やんだ事だろう。……しかもそれはこの国のほぼ全ての貴族、そして王族にも知られていると分かったのだから。

 侯爵はおそらくマリアンネにこの婚約を諦めるように伝えたはずだ。今日このパーティーの迎えにも来なかった婚約者に、見切りをつけるよう強く言いきかせた事だろう。




「……ありがとう。我々も、貴女方のような美しく気高い女性と一時でも婚約者となれていた事を誇りに思う。貴女達の未来が幸せである事を心から祈り、そしてこれからその助力もしていくつもりだ」


 アルベルトはそう言って苦しげにしながらも、結果彼らの本願である婚約の解消を叶えたのだった。


 ……第一段階は上手くいった。


 ───しかしここから国王への報告と説得という、アルベルトとツツェーリアにとっての一番の難関が待っているのだ。




 ───そうして、始まりから不穏な卒業パーティーは、かなりの後味の悪さを残しながらも無事に終わったのだった。


 
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