《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

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国王への謁見

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「───お父様!」


 王宮に到着しアルベルトとツツェーリアが謁見の間に向かっていると、その途中の廊下には父であるアルペンハイム公爵が待っていた。

 ツツェーリアは思わず父の所に足早に駆け寄った。


「───可愛いツツェ。パーティーは上手くいったようだね?」


 公爵はツツェーリアにさり気なくウィンクをしながら言った。


「……はい。殿下の『友人』の令嬢が自滅してしまいましたが……。他は概ね良いように運んだと思います」


「その『友人の令嬢』が自らその道を選んだのならば仕方ない。
……殿下。ひとまずは世間的な婚約の解消を成し遂げられた事、お祝いと……そして御礼申し上げます」


 公爵はツツェーリアの後ろからやって来たアルベルトに挨拶と礼をした。


「ありがとう。……これまで公爵にもツツェーリアにも大変な心配と迷惑をかけた。
そして、肝心なのはこれからだ。幾ら世間的に外堀を埋めた形になったとしても、陛下にこの婚約の解消を認めてもらわなければ何ともならないのだから」


 ───そして、口には出さないが国王の考え次第ではアルベルトの失脚も有り得る。そうなれば、エディット王女との恋は叶わない。アルベルトはキュッと手を握りしめ気を強く引き締めた。


 アルペンハイム公爵もツツェーリアも、当然ながらその可能性には気付いていた。


 ……そして全ては、ここからの話し合いで答えが出るのだ。


 ◇


「───すでに陛下のお耳に入っているかと思いますが、本日の卒業パーティーにて私はツツェーリアとの婚約の解消を宣言してまいりました」


 無表情で黙ってアルベルト王太子の話を聞く国王。
 ……ピリピリとした緊張感が部屋全体に漂っていた。

 国王への謁見を許可され、アルベルト王太子とツツェーリア、そしてアルペンハイム公爵が国王の前に立つ。国王側には古参の侍従、そして近衛兵の精鋭2名が部屋の隅に立つ。


「……アルベルトよ。私は今までにも何度も申してきたはず。この婚約を解消する事は許さない、と」


 やっと口を開いた国王から出たのは、……やはりというか今回の事に否定的な言葉だった。


「陛下。私も何度もお願いして参りました。この婚約を解消し、新たな道を歩む事を。そしてこの婚約を解消する事で損害を被る者はおらず、皆それを望んでいると」


「だからお前は何も分かっていないのだ。この先この国やお前を王妃として完璧に支えてくれると分かっている女性を手放して、新たな別の王妃がその役目を充分に果たせると思うのか?
……そして例え今この時点で被害を被る者が居ないとしても、これから先お前の新たな王妃は生涯完璧な王妃という名の亡霊に怯えながら過ごす事になるだろう」


「ッ。それは……」


 確かに優秀過ぎるツツェーリアという存在を人々が知る限り、これから先なにかとエディット王女と比較され彼女にとって大きな壁として立ちはだかる事だろう。


「そうでなくとも、周囲の者達が今のお前を未来の王として支持してくれると思うのか? 自ら評判を落とし婚約解消を皆の前で済ませて、その後もお前の王太子としての身分が保障されるとでも?」


 国王は厳しい言葉を投げかけ続けた。


「……陛下。私は全てを覚悟して、今日のこの日に臨みました。そして私は私の望む信じる道をやり通しました。愚かな行動であった事は勿論自覚しております。あとは陛下の御心のままに。……私はそれに従います」


 アルベルトは国王を強い意志を込めた目で見ながら言った。


 暫く、静寂が続いた。



「───陛下。発言をお許しいただけますか」


 ツツェーリアは、思わず言葉を発していた。

 本来ここはアルベルトに任せ、親子の話し合いで解決するべき事かもしれない。
 けれど、この道を選んだのはツツェーリアも同じ。いや、むしろアルベルトよりも熱意は高かったと思う。
 アルベルトは最初この道を選ぶ事を躊躇していた。それを説得したのはツツェーリアなのだから。


「───許そう」


「ありがとうございます。……陛下。アルベルト殿下と私は幼い頃からこの国を共に支える者としていつも共に切磋琢磨して参りました。誰よりも分かり合える同志であると、僭越ながら今でもそう思っております。
───けれど。殿下も私も、新たな譲れない道を見つけたのです。そして私達は『結婚』という繋がりがなくとも、これから先も別の形でこの国を守りより良くする為の同志として力を合わせていく事が出来ますわ」


「……そうですぞ。陛下。我がアルペンハイム公爵家は今代も次代も、王家に忠誠をお誓いいたす所存」


 アルペンハイム公爵も娘に力強く同意する。


「なんと。……しかしツツェーリアが公爵家を継ぐのか? お前にも好いた者が出来てのこの願いであったと記憶しているのだが……。今の養子を廃嫡にしてその好いた者を婿に取るというのなら、その養子がお前達の被害者となるではないか」


「いいえ! 陛下。……私が愛しているのは……義弟アロイスなのです。彼も、私と同じ想いだとそう言ってくれました」


「……我がアルペンハイム公爵家は2人の婚約を認め、これから先2人も王家に忠誠を誓いお支えしていく事でありましょう」


「……ッ!! ……そうであったか……」


 国王は暫く目を閉じて考え込んだ。



 
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