玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第3章 ダーコラ国国境紛争

第3章第025話 戦後処理

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第3章第025話 戦後処理

・Side:ツキシマ・レイコ

 もう来週は新年祭!というころ。再度伯爵邸にお呼ばれしました。
 伯爵邸で待っていたのは、カステラード殿下、ネタリア外相、マラート内相の三人連れでした。…この国の上層部なのに、フットワーク軽いですね。いいんですか?

 「レイコ殿、申し訳ない!」

 いきなりカステラード殿下に謝られました。控えている侍従の人たちも驚いています。

 「母上にも叱られたよ。あのバッセンベルの五百人が北の位置で"止っている"という時点で、対抗策を出して置くべきだったとね。しごくもっともだ」

 ネタリア外相が話を引き継ぎ、淡々と続けます。

 「ダーコラ国とのその後について簡単に。本来はあのカプチャという軍監がやらかしたことで、その後の交渉も有利になるところでしたが。停戦後の略奪を不問にすることで相殺されました。ただ、街の方には賠償として金銭と食料などの物資を送ってあります。これで、街の復興と来年の秋までの生活には、問題ないでしょう」

 「…ありがとうございます」

 まぁ、私が謝られることでも感謝することでも本来無いのでしょうけど。

 「カプチャはダーコラ国で爵位剥奪…というよりは放逐ですな。本当は一族郎党諸共処刑という話もあったのですが、オルモック将軍が話を付けてくれたようで、妻子は実家に戻ったそうです。本人がその後どうなるかは知ったこっちゃ無いですが」

 はい。連座でないのならかまいません。あとは本人の責任です。

 「ダーコラ国では、オルモック将軍の評価が急上昇のようで。当初は一戦も交えず逃げ帰ってきたと言われてましたが。カプチャの失態を相殺した上で、赤竜神の巫女様と誼を繋げた功績…というところですな」

 「お互いに馬鹿には苦労させられるな…的なことをちょっと話しただけですよ。ただまぁ、信用できる人物だなとは思いました」

 「ふむ。向こうの立場に影響ない程度で、多少なりとも繋ぎをつけておいた方が良さそうですな。」

 確かに、オルモック将軍なら話が通じそうですので、損は無いでしょう。
 マラート内相が話を引き継ぎます。

 「バッセンベル関係ですが。アトラコムは、来年春に処刑となります。まぁダーコラ国との内通もですが、カステラード殿下を狙っていたってのは、もう言い訳のしようが無いですな」

 モンテスの方は、結局ネイルコード国には帰って来れないようです。支払う身代金を用意しようにも、全財産が差し押さえですしね。

 「さらに、襲撃した部隊のやつらがですな、これがバッセンベル領の貴族の次男三男の集団でして。こやつらも同罪となります。彼らの家は、爵位剥奪となり、妻子は実家に戻されます。レイコ様の恩赦で連座は無し…と伝えております」

 「私の恩赦ですか?」

 「連座で無くても、単に処罰しただけでは妻子の怨嗟がレイコ殿に向く可能性がありますからな。本来は連座で処刑というところを、レイコ様たってのお願いで恩赦となった…ということにしております」

 襲撃に参加しなかった人たちは、比較的まともな貴族に率いられていた…ってことらしいですが。ただ、停戦後の越境は安易に無罪には出来ないとのことです。

 「船乗り病の対策の話、覚えておられますかな? 現在、対策に使えそうな保存食をいろいろ作らせておりましてな。その実験に参加することを持って、赦免ということとなりました」

 エイゼル市の沖のボルト島。この西端の海軍基地…の沖の草木もない島。ここに兵舎を建てて。通常の船員食だけ、陸上の兵員食だけ、対策に効くのではと試作された保存食を追加、等の条件を変えて、五十人ずつ位を班分けして四ヶ月の隔離実験を一年かけて三回することになったそうです。

 人体実験?と言われそうですが。海の上と違って壊血病の症状が出たらすぐに治療して貰えます。地上で過ごせば治ることは分っているのですから、さほど問題にはならないでしょう。
 こういう大規模な比較実験は前例がないそうで。王都の賢者院…まぁアカデミーみたいなもんですが、そこも興味を持っているそうです。
…実は賢者院の人たちが私の所に来たがっているようですが。王命でもって必死に抑えているようです。ただ、来年には一度会ってみていただきたいと言われました。…どんな人たちでしょうね? 私も一応科学者の端くれです。話が合えば良いのですが…



 「バッセンベル辺境候ジートミル・バッセンベル・ガランツは、先週亡くなりました。もともと病床にあったとのことですが、今回の件で精根尽き果てたようで。…報告を色々付き合わせると、毒ではないか?とも考えられています。ほら、アイズン伯爵が毒を盛られたことがあったでしょ? おそらく似たような物かと」

 あれをずっと盛られていたら、確かに長生きは出来ないでしょうね。

 「今回の件、トラーリ嬢の後見として専横していたアトラコムらの独断あることは明白ではありますが。事が反逆罪なだけに、領として監督責任が皆無とは見なされないのですが…」

 カステラード殿下が引き継ぎます。

 「レイコ殿。連座とかではなく、本来はバッセンベル領主としてトラーリ嬢も処刑…というところなのだ。ただ、私は彼女にはまだ見込みがあると思っている。彼女にもレイコ殿の名において恩赦を与えることを許して欲しい」

 カステラード殿下にお願いされました。
 ことがことなだけに、部下の不始末とか秘書がやったでは済まされないってことですね。彼女を許すには、やはり特別な配慮が必要なんだそうです。

 「はい。特に依存はありません」

 「…感謝する」

 カステラード殿下、トラーリさんを気に入ったようですね。
 トラーリさん。一度会った程度ですが、悪い人には見えませんでした。カステラード殿下が見込みがあるというのなら、私には異議はありません。…むしろ彼女死なせたら、連座とみなしますよ?

 「ガランツ辺境候家は伯爵に降爵。バッセンベルの領地もだいぶ減らされます。今回の紛争でネイルコード国側の街があったでしょ?あの辺がとりあえず、アイズン伯爵管轄となります。まぁ、今回の件で結構な数の貴族がバッセンベル領から消えることになりましたからな。調度良い所領の広さかなと」

 私が許すことは、もう織り込み済みなんですね、マラート内相。

 「トラーリ嬢ですが。使える人間をバッセンベル領の代官にして、喪が明ける来年春には、エイゼル市に来ることになりました。アイズン伯爵に為政を学ぶためというのと、バッセンベル領に残った貴族に対する牽制ですな。アイズン伯爵、鍛えてやってください」

 「ふふふ。こき使ってやるわい」

 アイズン伯爵が、怖い顔でニヤッとしますね。現国王も、いちどエイゼル市に文官として勤めていた時期があったとか。王族だろうが関係なくこき使ったんだろうなぁ…

 さらに。今回の件に関する報償の話になったのですが。私は大使として動いたに過ぎず、ネイルコード国から報償をもらうことは出来ない…ということで、辞退しました。どうしてもと言うのなら、国境の町やバッセンベル領への街道整備にでも使ってくださいと言っておきました。



 一通り、今回の国境紛争の事後の確認が済んだところで。

 「ところでレイコ様。レイコ様の宿泊されているファルリード亭ですか。帰りに寄ってもよろしいですかな? 庶民向けながら、なかなか美味しい食事の出来るところだと伺ってましてな。是非一度行ってみたいと…」

 …いきなり食い気のマラート内相に、周囲もちょっと退き気味です。いいんですか?



 ファルリード亭では、新年祭の飾り付けがされていて、なんとも賑やかな感じですが。
 皆さん、いきなりやってきた高位貴族に戸惑い気味ではありますが。

 「…俺、なんかけっこう慣れてきた。そもそも巫女様の定宿だしな」

 とはカヤンさんの言。
 何をお出しすれば…と戸惑っていたカヤンさんですが。お昼の煩雑な時間も過ぎた程度の時間で夕食の時間にも早いので。とりあえず、新年祭に供する予定の料理と、開発中の料理を試食していただくことになりました。
 押し出し機を使ったパスタとトマトソースを使ったミートソーススパゲッティ。冬で脂が乗っているぶりっぽい白身魚の照り焼き。挽肉多めのコロッケ。マグロそっくりでおなじみのクローマの油漬けを使ったツナマヨサラダ。
 …マラート内相、料理中に厨房にまで入ってきて、色々質問していますよ?

 「どれも素晴らしいですな!。ここから奉納に出すのは、このパスタとやらを作る機械だけで?」

 「まぁ特に難しい料理でもないですし、工夫もアレンジも各人いろいろ工夫してもらいたいと思っています。美味しいものは皆が食べられるようになる方が良いでしょ?」

 「ふーむ。実は王都の屋敷の方で行なう新年の宴の料理に、これらを是非使わせていただきたいのだが。レシピを教えていただけないだろうか? もちろん、権利とは関係なくご教示しただいた報酬はお支払いいたしますぞ」

 と、カヤンさんに持ちかれますが。肝心のカヤンさんは困ったように私の方を見ます。

 この街で手に入る材料でここまでレシピを仕上げたのはカヤンさんです。カヤンさんの好きにしてくださいな。

 さて。来週はもう新年です。

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