玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第3章 ダーコラ国国境紛争

第3章第024話 一人じゃないのかも

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第3章第024話 一人じゃないのかも

・Side:ツキシマ・レイコ

 「まぁ、長い人生そんなこともあるさ」

 …実際にとんでもなく長くなりそうな私の人生ではありますが。はぁ…
 ここに来て一年経っていないのに、この体たらく。もっと"異世界だひゃっはー"とはしゃげれば良いんだけど。根が小市民だからなぁ…
 "私のせいじゃない" …この一言で納得できるほど脳天気だったら、どんなに楽だったか。
 因果は絡んでいる。糾える縄の如し。はぁ…。

 宿のカウンターのカーラさんの隣に座って、ボーとしてます。カーラ三は、物静かに特に何も聞いてきたりしませんが。レジ横のちょっとしたお菓子なんかを振舞ってくれます。なにげに気を使われているようです。
 いつもはカーラさんの膝を陣取っている通い猫達がやってきて。竹篭の上でレッドさんと絡まってます。季節的にはもう冬ですので、レッドさんが人気になるようですね、わざと体温高めにしているようですし。
 なかなか気持ちの整理が付かないな…と思っていたら、通りが茜色に染まっていきます。あっという間に夕方ですか。

 バタン!

 宿の入り口が唐突に開かれます。

 「レ…レイコちゃん!レッドさん!、二人はここに来てる?!」

 あ、エカテリンさん。すっかり忘れてた。何も言わずに軍の宿営地は飛ばして来ちゃったんだっけ。

 「ああ!レイコちゃんが居た! …よかった~っ!」

 へなへなと入り口のところでへたり込むエカテリンさん。ずっと馬に乗って来たのでしょう、足がガクガクしてます。

 「あ…えーと。途中の村で乗り換えた馬だから、世話しないと。モーラちゃん、裏の馬停め借りるね! あとカヤンさん!すぐに食べられるものを…えっと二人前! 途中殆ど食べられなかったんだ!」

 すたっと立ち上がり、私の所に歩いてくる。

 「レイコちゃん!何があったか聞いているけど。うーん、気にするなと言っても無理かもしれないけど。レイコちゃんが悪い事なんて何もないから!ねっ!ねっ!」

 と、私の頭をわしゃわしゃして、ぎゅーとしてきます。

 「…よかった~。レイコちゃんが居なくなるんじゃないかって、ホント心配したんだから」

 「…エカテリンさん、心配かけてごめんなさい。」

 まぁ無事なら良かったよと。馬に水飲ませて、カヤンさんが作ったサンドを飲み物で流し込むように食べて。
 これからアイズン伯爵のところへも伝令に走る必要があるとかで、すぐに出ていきました。

 その日の晩は、モーラちゃんが添い寝してくれました。ありがとね。



 次の日、朝食の時間帯が終わって食堂もすこし暇になった頃。アイズン伯爵からお呼びがかかりました。
 エカテリンさんとダンテ隊長が馬車で迎えに来ています。

 伯爵家に着くと、アイズン伯爵だけではなく、ブライン夫人メディナール様に、クラウヤート様、バール君も出迎えてくれました。
 失踪と言っても、黙って向こうを出た夜の次の朝にはファルリード亭に居たのですが。みなさんに心配かけたようですね。

 「話はエカテリンから聞いた。…いろいろ難儀じゃったの」

 「…はい」

 「わしは、レイコ殿よりまだ"実"人生は長いからの。レイコ殿が何を悩んでいるのかは分るつもりじゃ。まぁ、巫女様にいうことでもないかもしれんが」

 私は首を振る。

 「後悔しているのか? 国境に行ったことを」

 「…結果として戦争を止められた、そういう自負はあります。ただ、そもそも私がいなければダーコラ国も攻めてこなかったんじゃ…」

 「ふんっ。ダーコラ国との因縁なぞ、今に始まったことじゃない。そもそも王妃のローザリンテ殿下がダーコラ出身じゃぞ。うちがダーコラより豊かになってからと言うもの、何かにつけて嫌がらせしてきておる。レイコ殿のことは口実の一つに過ぎん」

 ローザリンテ殿下がこの国に来るときも来た後も、いろいろあったという話は、カステラード殿下に伺いました。

 「それに。自分がいなければなんてこと、言うもんじゃない。自分が存在してきたことを無かったことに出来る者なぞおらん。確かに、その時々の決断は結果に影響しておるじゃろう。ただ、すでにした決断を変えることが出来ない以上、その後のことはなるようになっただけじゃ。後からクヨクヨしても、何も変わらん」

 伯爵が自分の頬の傷を撫でながら言う。

 「心が納得せんのじゃろ。わしもそういう経験は沢山ある。じゃが、これから出来ることとは、結果に向き合い、対処し。それらが済んでから反省し。前に進む。人に出来ることなど限られておる」

 「しかし…あの街での光景が頭から離れないのです」

 「赤竜神様も神様ではないのだろ? ならそれがレイコ殿の限界でもあるし、それによって助かった人も大勢おる。むしろ今は、そちらをきちんと見るべきじゃな」

 …私に手を振り返してくれたダーコラ国の兵士さん。今頃は、無事に国元に帰られることにホッとしているのだろうか。

 「忘れろとは言わん。気にするなとも言えん。飲み込みなさい。年寄りが言えることはこれくらいじゃ」

 「…ありがとうございます、アイズン伯爵」



 帰りは、歩きで一人で…と思ったけど。エカテリンさんも付いてきてくれた。

 「…私、戦争はあれが初参加だったし。戦況次第ではどうなるか分らなかったからね。まぁ相手は大して居ないけど、遺書も書いたぜ」

 今知りましたが。護衛任務で遠出する時にも、遺書は書かされるそうです。…最近は面倒で、以前書いた物を使い回しだそうですが。

 「武功をあげられないと憤慨しているやつらも多少は居たけど。私は、実際の戦闘無しで停戦となったのは、正直ホッとしたし。殆どの奴らがそう考えてると思うぜ。当然、敵さん側もな」

 エカテリンさんが、私の頭を撫でる。

 「ダーコラの街の話は聞いたけど。それでもレイコちゃんがネイルコード国に居てくれたのは、私達の幸運だと思ってるんだ。だから、そこのことで自分を責めるようなことはして欲しくない。…上手く言えないけど。」

 「エカテリンさんもありがとうね。」

 日本で言えばもう十二月くらい。曇りの空は、鉛色で重たい。
 城壁前の広場も、寒さで人出が少ない…かと思いきや。屋台街からは湯気が立ち上り、温かい昼食を買い求める人たちで賑わっている。
 私が行かなければ、最悪ダーコラ国とバッセンベル領の軍がここまで来ていたかもしれない。まぁ、ネイルコード国軍がそこまで弱いとは思わないけど。もしそうなったら、この街はダーコラのあの街より酷いことになったのは確かだろう。
 守れたという感慨と。犠牲を容認できない無念。

 自分は良いことをしたのだからと、自分を欺せたら楽なんだろうけど。
 ため息付きながら、空を見上げると。ぽつぽつと白い物が降ってくるのが見える。雪だ。

 「お…多分初雪だな。今年はちょっと早いかな?」

 エカテリンさん曰く、こちらでは冬至が新年だそうです。地球の冬至も十二月二十二日くらいなので、どのみち十日も違わないですね。昼が一番短い日が新年なら、むしろわかりやすくて合理的と言えるでしょう。

 もちろんこちらにはクリスマスみたいな日はありませんが。赤竜神がこの世界を作ったのが一月一日だそうで。年が明けると同時に宗教的にも大切な日となりますが。敬虔な日というよりは、徹夜で街を挙げて騒ぐみたいな日だそうです。

 「…年が明けたら、皆で教会に行くのが習わしなんだけど…」

 と、エカテリンさんが私とレッドさんを見ます。初詣のお誘いですか?

 「…ここで拝んでおけばいいんじゃね?」

 私の前で、こちらのお祈りのポーズを取ります。思わず苦笑してしまう私を見て、ニカっと笑うエカテリンさん。
 私を拝むのはやめてくださいね。でも、レッドさんなら御利益あるかも?

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