224 / 384
第6章 エイゼル市に響くウェディングベル
第6章第036話 ヤーダーさん一家、ファルリード亭にご招待
しおりを挟む
第6章第036話 ヤーダーさん一家、ファルリード亭にご招待
・Side:ツキシマ・レイコ
今日は、私がご招待した方々がファルリード亭の方に来ます。
旧ファルリード亭が焼かれた報復とばかり正教国にカチ込みに行くとき、ダーコラ国境近くの野営地でお世話になったキャラバンのヤーダーさん達カレスケン御一家です。
私もダーコラ国との国境の三角州の工事にはまだ定期的に通っていますが。国境の街サルハラに寄ったとき、ヤーダーさん達には何度かお会いしていますが。ファルリード亭の銭湯の方も完成し、宿は食堂も含めてフル営業となりましたので、そのときにご招待しておいたのです。銭湯+食事付きで一泊コースですよ。
とはいえ。ヤーダーさん達は運輸ギルドからさほど離れていないところに商会の拠点を構えていますので。ちょっと近くに泊まりに来た感覚ですね。
「今日はお招きありがとうね、レイコちゃん。あとそれにマーリアちゃんもお久しぶり。ここがレイコちゃんが言っていた宿屋なのね!」
「レイコおねーちゃん、マーリアおねーちゃん。今日はお招きありがとうございます」
ぺこりとご挨拶するメルケちゃん。良く出来ました。
娘のメルケちゃん、だいぶ前に六歳になったそうです。
「こんな立派なところにご招待、感謝いたします。レイコ様」
「様は止めてくださいよオウシさん」
「いやしかし、アイズン伯爵どころか王様とも懇意にされている方に…」
「それはアイズン伯爵や陛下が偉いのであって、私が偉いわけじゃないですよ」
「レイコも十分偉いと思うけどね…」
腰が低いオウシさん。腰を折るマーリアちゃん。
基本的に私の能力や知識は他の人から貰った物ばかりなので。便利に使わせては貰いますが、あまり自分で自惚れたくは無いのです。
まぁ商人の方は大抵礼儀正しいのですが。ここは毎度の"殿"で妥協してくれました。
「ともあれ。カレスケン家の皆さん、ようこそいらっしゃいました。今日はゆっくり楽しんでいって下さいね」
簡単に、今日のおもてなしの説明を。お風呂に食事に款談。キープしてあるお部屋で御一泊。明日は朝食にご希望なら朝風呂も。ってな感じですね。
「ファルリード亭はいろいろ評判になっているからね。今から楽しみですよ」
立地は街の外れですので、交通手段の限られるこの世界では街から人が押し寄せるなんて事はありませんが。それでも街の方からわざわざ食べに来たという人は増えていますし。王都に行き来する途中で寄ると言う人も多いです。まぁ暗くなってから帰ることを考えると、夕食時は近場の人が多いですけど。
さて。まず最初に銭湯に行きましょう。
ヤーダーさんとメルケちゃんには私が付き添います。
オウシさんは男性ですので男湯ですが。簡単に銭湯のルールなど説明ましたし、壁にマナーとか掲示してあるので多分大丈夫だと思いますが、しばしお別れ。
手ぬぐいはレンタル。石けんは小さいのを販売ですが。もちろんここはおもてなし。
ヤーダーさんとメルケちゃんをまず洗い場に連れて行きまして体を洗います。石けんを使って手ぬぐいを泡立てて。私がメルケちゃんの背中を流しますので、メルケちゃんはヤーダーさんの背中を流してあげて下さいね。
「…石けんも、ここのは物がすごく良いわね」
「獣脂ではなく植物油使ってますので」
灰汁と獣脂を使った初歩的な石けんは今までもありましたが。
苛性ソーダ、水酸化ナトリウムですね。このへんもユルガルムでいろいろ実験しましたが、マナから電気が作れるので海水からいくらでも取れるようになりました。劇薬ですので、きちんと理解した人だけの試験段階ですが。やはり洗剤を作るには効率が良いですね。
副産物で塩素と塩酸も作れます。こちらも劇薬。用途も色々。強酸があるだけでいろいろ出来ます。
体を洗い終えたら、お待ちかね湯船に浸かりましょう。
皆が揃って、つま先からそろっと入ります。
「「「「はぁふぅ~」」」」
やっぱり声がでちゃいますね。お二人も同じく。湯加減も丁度良いですね。
「…こりゃ天国だね…」
「気持ちいいね、お母さん…」
『はふぅ~』
男風呂とは壁の上で繋がっていますので。男湯の声が聞こえます。今のはオウシさんですね。
「あ~お父さんっ! お風呂入っているぅ?」
「ああ、浸かっているよ。河原の時の風呂も気持ちよかったが。ここはさらに凄いな。こんな広い湯に浸かれるなんて…なんて贅沢なんだ… あ、私カスケレン商会のオウシと申します。あはは今回はたまたま招待されましてな。いや素晴らしいですな、風呂というものは…」
なんか居合わせた他の客とお話を始めたようですね。
ファルリード亭の銭湯に来たというのなら、運輸協会に何かしら関係がある人の可能性は高いです。顔を繋いでおくのも営業の一つでしょう。
「うふふ。お父さんったら」
うんうん。こんな時も家族のために働くお父さん。よいですね。
「…太陽が降り注ぐ、風がそよぐ、私達を乗せてキャラバンは進むよ、ラララララ…」
メルケちゃんが歌い始めます。
「神の御座が昇る、焚木が爆ぜる、私達を囲んでキャラバンは眠るよ、ラララララ…」
ヤーダーさんも歌います。
「雲は高く、麦が実る、街の人がキャラバンを待ってる、ラララララ…」
…隣の男湯からも、二人分の歌が聞こえてきますね。 うん、いい湯ですねぇ。
十分お湯に浸かった後、サウナも試してもらいましたが。初めての人には五分くらいが限界ですね。どうしても我慢大会っぽくなってしまいますが、我慢するのが主旨ではないですよ。ぬるま湯を頭から被って、出ましょうか。
食事には、食堂脇の個室をキープしてあります。個室と言っても、部屋として区切られては居ますが、貴族室と違って入り口に戸はありません。居酒屋にもあったようなグループでの宴会用に作られた区切りって感じですね。
さて。何を饗するのかメニューには悩みました。ヤーダーさん達はエイゼル市に拠点を持っている商人ですからね、流行の食べものは体験済みかも…と思いましたが。やはりここはファルリード亭名物で揃えるべきでしょう。
飲み会コースメニューとして、揚げ物、煮物、包み物など、ファルリード亭の名物品を細かく出していますが。メルケちゃんは子供なのでお腹の容量が少ないですから、一品まるごとは厳しいでしょう。
そこでカヤンさんにお願いして作って貰いました、お子様ランチっ!
エビフライ!、ハンバーグ!、ポテトフライ!、スパゲティー、オムレツ、コールスロー。チキンライス…はまだお米の入手が無理だったので、ミニサイズのしょうが焼サンド!。フルーツジュースも付きますよ。ネイルコード国の国旗を描いた小さい旗も刺します。少量ずつまんべんなく楽しめるお楽しみセットです。
あと忘れていないのがデザートのプリン! バニラと冷蔵庫が使えるようになったので、パーフェクトプリンです! これは食後に出すことをお知らせしておきます。
ピザも焼きたてが来るように頼んでありますので、もし足りなかったらそちらも摘まんで下さいね。
「ひゃー。おまちとうさまです」
おお。アライさんがワゴンを転がし注文品を持ってきてくれました。
…モフモフな給仕がわくわくなメニューを持ってきてくれる、なんかもうテーマパークですか?という気分ですが。ヤーダーさん達はアライさんを見てびっくりしていますね。
「この子は海のずっと東向こう、多分南東の方向だと思うんですが、そこの大陸に住んでいる種族です。ネイルコードではラクーンと名付けました。見た目は動物っぽいですけど、言葉も喋れますし。クライスファー陛下から人として扱うという御触れは出していただいています」
「ラクーンのアライてす。よろしくおねかいします」
ぺこりと頭を下げるアライさん。
ゴルゲットは見えるように下げていますね。真ん中にネイルコード国公認のロゼットが付いています。
オウシさんに、別の国でこの子の同族が同じように漂流して来た結果、掴まって動物扱いされているのではと心配している旨を伝えると。
「なるほど。確かに動物扱いすべき方では無いようですね。商人の伝手でどこかでそういう話を聞いたら、伝えておきます」
「しかし何というか、かわいらしいねぇ…」
ヤーダーさん、分かりますか。メルケちゃんも目をキラキラさせています。
アライさんがうずうずしているメルケちゃんに気がついて、側に来て手を広げます。すぐに分かるジェスチャーの意味。メルケちゃんがアライさんに抱きつきます。
「うわー、もふもふ~っ! 尻尾すっごいもふもふぅ~っ!」
「ひゃー。ここのヒトたち、すくたきつきたかりますね」
アライさんのハグは、日常的なサービスになっているようです。女性に多いですが、たまに男性もいるそうです。女性子供に抱きつくのは見た目アウトですが。アライさんなら許される感じがします。
ヤーダーさんも混ざります。メルケちゃんとアライさんをハグハグします。
「ヒャー。くすくったいてす」
さて。最初のおもてなしがもふもふになってしまいましたが。せっかくの料理です、冷める前にいただきましょう。
「これは楽しい御膳だね、メルケ」
「うわ~、どれから食べようか迷っちゃう…」
うんうん。お子様ランチを前にしてうきうきしているメルケちゃん。かわいいですね。
まぁファルリード亭で日常的に出せるようになったメニューをトレイに並べただけですが。子供には細かい注文は無理ですし、一人前は量が多いですからね。こうやって少量ずつ種類を揃えて出した方がいいでしょう。気に入った物があったらそりをおかわりしても良いですしね。
…美味しそうに食べるメルケちゃん。ニコニコと眺めるオウシさんとヤーダーさん。
なんか子供の頃に家族で出かけて、ファミレスでお子様ランチ食べたの思い出しました。旗は集めませんでしたけど、おまけに付いてきた小さいフィギュアは集めてましたね。そういうサービスを考えてもいいかもしれません。
食事しながら世間話です。私は、ピザとフライドポテトいただいてますよ。もちろんメルケちゃんにもお裾分け。
「いやもう商会の方は順調ですよ。仕事が途切れないのはありがたい限りです」
「パパ、馬車10台も増やしても、まだ足りないんだって」
オウシさんのキャラバンは、去年の三倍まで規模を増したそうです。
以前オウシさんのキャラバンが目的地としていたサルハラの街では、現在は果樹の植え付けが盛んで、将来的にはこれが主な産業となるだろうとか。麦畑は三角州の方に広げることになるそうです。
どうも最初は海軍で需要があると思われていたドライフルーツの方は、海軍の方からはキャンセルされたようです。ただ、それでもこういう保存の効く甘味は普通に需要がありますので、海軍関係なしに絶賛増産中だそうです。
ビタミンCは酸化に弱いのでドライフルーツにすると壊れてしまうというのは、ネタリア外相経由で伝えてあるはずですが。一応テストはしたんですね。
代わりに海軍の方からは、蜂蜜漬けとか野菜の漬物等の生産依頼が来ているそうで。正教国の方から養蜂の技師を招喚して蜂蜜生産を試みるそうです。
「行きと帰りで荷物を満載できるのはありがたいですな。片道空荷では勿体ないですからね」
「サルハラに移り住むって人も、毎度キャラバンに混ざっているわね。兵士さんだけじゃ土地が余るからね」
魔獣の領域からは離れていますし、ネイルコードならまだ治安は良いのですが。やはり領地間の移動となると、纏まって移動する方が安心だそうで。引っ越しの馬車がキャラバンに混ざることは、運輸ギルドの方で普通に斡旋している業務です。
新しい産業に三角州の開拓。その結果、サルハラの街にはダーコラ国側からも人の流入が続いていて順調に人口は増えているそうで。定期的な食品関係だけでは無く、日用品から家屋建築のための資材やらとキャラバンの往来が途切れることはないそうです。
今やっている三角州の河川整備が終わったら広大な農地が開けますし。それらのためにたくさんの村も作られるでしょう。ちなみに四輪作法、チート系小説ではおなじみのノーフォーク農法ですね、これも概念はマラート内相に伝えてあります。アイズン伯爵領の麦畑で実際に試してみるということで、領庁が主導して試験農場で統計を取りつつ試すそうです。…蜂蜜はシロツメクサのものになるかな?
ちなみに。ネイルコードでは訓練と称して兵士にも開拓を手伝わせています。工兵的な仕事はいくらでもありますし。体を鍛えるにしても何かやらせた方が無駄が無いと言うことらしいです。剣の素振りの代わりに鍬を穿つ。
さらに。軍では一定期間勤めれば恩賞付きで除隊出来ますが、希望者には開拓に寄与した分農地を格安で融通して貰えるんだそうで。農家出身の次男以降が従軍する理由の上位を占めています。
今回の三角州はまさに好条件。肥沃で治水も終わった農地。通商の要所として発展間違いない街が近くに発展途上。ここを選んで除隊する人、街で働いた稼ぎで農地を買う人。そういう人達が移動すれば、建築や商売をする人も集まるわけで。今がチャンスとばかりに人が集まりつつあります。
あと田んぼ。大切田んぼ。米の試験栽培も水が豊富な三角州で行ないます。
収穫はまた来年ですが。稲作がうまく言った暁にはお米布教のためにいろいろなメニューをファルリード亭で出したいところですね。カレー…は香辛料のコストがシャレにならないので、炒飯とか炊き込みご飯とかからですか。元日本人としては、炊いたご飯そのままとおかずという形式を推奨したいところですが。まずは米という食べものになじんで貰ってからと言うことで。
「ダーコラとの陸運が解禁されたら、そちらへも商売を広げようと思うんだ。サルハラに商会を開くための土地も買ってあるしね」
ダーコラ国へ続く街道と、そのために三角州の河々に橋もかけられつつあります。交易と農業の拠点としてサルハラの街は大きい街に成長することでしょう。
カスケレン商会もさらに大きくなりますね。お父さん頼もしいです。
・Side:ツキシマ・レイコ
今日は、私がご招待した方々がファルリード亭の方に来ます。
旧ファルリード亭が焼かれた報復とばかり正教国にカチ込みに行くとき、ダーコラ国境近くの野営地でお世話になったキャラバンのヤーダーさん達カレスケン御一家です。
私もダーコラ国との国境の三角州の工事にはまだ定期的に通っていますが。国境の街サルハラに寄ったとき、ヤーダーさん達には何度かお会いしていますが。ファルリード亭の銭湯の方も完成し、宿は食堂も含めてフル営業となりましたので、そのときにご招待しておいたのです。銭湯+食事付きで一泊コースですよ。
とはいえ。ヤーダーさん達は運輸ギルドからさほど離れていないところに商会の拠点を構えていますので。ちょっと近くに泊まりに来た感覚ですね。
「今日はお招きありがとうね、レイコちゃん。あとそれにマーリアちゃんもお久しぶり。ここがレイコちゃんが言っていた宿屋なのね!」
「レイコおねーちゃん、マーリアおねーちゃん。今日はお招きありがとうございます」
ぺこりとご挨拶するメルケちゃん。良く出来ました。
娘のメルケちゃん、だいぶ前に六歳になったそうです。
「こんな立派なところにご招待、感謝いたします。レイコ様」
「様は止めてくださいよオウシさん」
「いやしかし、アイズン伯爵どころか王様とも懇意にされている方に…」
「それはアイズン伯爵や陛下が偉いのであって、私が偉いわけじゃないですよ」
「レイコも十分偉いと思うけどね…」
腰が低いオウシさん。腰を折るマーリアちゃん。
基本的に私の能力や知識は他の人から貰った物ばかりなので。便利に使わせては貰いますが、あまり自分で自惚れたくは無いのです。
まぁ商人の方は大抵礼儀正しいのですが。ここは毎度の"殿"で妥協してくれました。
「ともあれ。カレスケン家の皆さん、ようこそいらっしゃいました。今日はゆっくり楽しんでいって下さいね」
簡単に、今日のおもてなしの説明を。お風呂に食事に款談。キープしてあるお部屋で御一泊。明日は朝食にご希望なら朝風呂も。ってな感じですね。
「ファルリード亭はいろいろ評判になっているからね。今から楽しみですよ」
立地は街の外れですので、交通手段の限られるこの世界では街から人が押し寄せるなんて事はありませんが。それでも街の方からわざわざ食べに来たという人は増えていますし。王都に行き来する途中で寄ると言う人も多いです。まぁ暗くなってから帰ることを考えると、夕食時は近場の人が多いですけど。
さて。まず最初に銭湯に行きましょう。
ヤーダーさんとメルケちゃんには私が付き添います。
オウシさんは男性ですので男湯ですが。簡単に銭湯のルールなど説明ましたし、壁にマナーとか掲示してあるので多分大丈夫だと思いますが、しばしお別れ。
手ぬぐいはレンタル。石けんは小さいのを販売ですが。もちろんここはおもてなし。
ヤーダーさんとメルケちゃんをまず洗い場に連れて行きまして体を洗います。石けんを使って手ぬぐいを泡立てて。私がメルケちゃんの背中を流しますので、メルケちゃんはヤーダーさんの背中を流してあげて下さいね。
「…石けんも、ここのは物がすごく良いわね」
「獣脂ではなく植物油使ってますので」
灰汁と獣脂を使った初歩的な石けんは今までもありましたが。
苛性ソーダ、水酸化ナトリウムですね。このへんもユルガルムでいろいろ実験しましたが、マナから電気が作れるので海水からいくらでも取れるようになりました。劇薬ですので、きちんと理解した人だけの試験段階ですが。やはり洗剤を作るには効率が良いですね。
副産物で塩素と塩酸も作れます。こちらも劇薬。用途も色々。強酸があるだけでいろいろ出来ます。
体を洗い終えたら、お待ちかね湯船に浸かりましょう。
皆が揃って、つま先からそろっと入ります。
「「「「はぁふぅ~」」」」
やっぱり声がでちゃいますね。お二人も同じく。湯加減も丁度良いですね。
「…こりゃ天国だね…」
「気持ちいいね、お母さん…」
『はふぅ~』
男風呂とは壁の上で繋がっていますので。男湯の声が聞こえます。今のはオウシさんですね。
「あ~お父さんっ! お風呂入っているぅ?」
「ああ、浸かっているよ。河原の時の風呂も気持ちよかったが。ここはさらに凄いな。こんな広い湯に浸かれるなんて…なんて贅沢なんだ… あ、私カスケレン商会のオウシと申します。あはは今回はたまたま招待されましてな。いや素晴らしいですな、風呂というものは…」
なんか居合わせた他の客とお話を始めたようですね。
ファルリード亭の銭湯に来たというのなら、運輸協会に何かしら関係がある人の可能性は高いです。顔を繋いでおくのも営業の一つでしょう。
「うふふ。お父さんったら」
うんうん。こんな時も家族のために働くお父さん。よいですね。
「…太陽が降り注ぐ、風がそよぐ、私達を乗せてキャラバンは進むよ、ラララララ…」
メルケちゃんが歌い始めます。
「神の御座が昇る、焚木が爆ぜる、私達を囲んでキャラバンは眠るよ、ラララララ…」
ヤーダーさんも歌います。
「雲は高く、麦が実る、街の人がキャラバンを待ってる、ラララララ…」
…隣の男湯からも、二人分の歌が聞こえてきますね。 うん、いい湯ですねぇ。
十分お湯に浸かった後、サウナも試してもらいましたが。初めての人には五分くらいが限界ですね。どうしても我慢大会っぽくなってしまいますが、我慢するのが主旨ではないですよ。ぬるま湯を頭から被って、出ましょうか。
食事には、食堂脇の個室をキープしてあります。個室と言っても、部屋として区切られては居ますが、貴族室と違って入り口に戸はありません。居酒屋にもあったようなグループでの宴会用に作られた区切りって感じですね。
さて。何を饗するのかメニューには悩みました。ヤーダーさん達はエイゼル市に拠点を持っている商人ですからね、流行の食べものは体験済みかも…と思いましたが。やはりここはファルリード亭名物で揃えるべきでしょう。
飲み会コースメニューとして、揚げ物、煮物、包み物など、ファルリード亭の名物品を細かく出していますが。メルケちゃんは子供なのでお腹の容量が少ないですから、一品まるごとは厳しいでしょう。
そこでカヤンさんにお願いして作って貰いました、お子様ランチっ!
エビフライ!、ハンバーグ!、ポテトフライ!、スパゲティー、オムレツ、コールスロー。チキンライス…はまだお米の入手が無理だったので、ミニサイズのしょうが焼サンド!。フルーツジュースも付きますよ。ネイルコード国の国旗を描いた小さい旗も刺します。少量ずつまんべんなく楽しめるお楽しみセットです。
あと忘れていないのがデザートのプリン! バニラと冷蔵庫が使えるようになったので、パーフェクトプリンです! これは食後に出すことをお知らせしておきます。
ピザも焼きたてが来るように頼んでありますので、もし足りなかったらそちらも摘まんで下さいね。
「ひゃー。おまちとうさまです」
おお。アライさんがワゴンを転がし注文品を持ってきてくれました。
…モフモフな給仕がわくわくなメニューを持ってきてくれる、なんかもうテーマパークですか?という気分ですが。ヤーダーさん達はアライさんを見てびっくりしていますね。
「この子は海のずっと東向こう、多分南東の方向だと思うんですが、そこの大陸に住んでいる種族です。ネイルコードではラクーンと名付けました。見た目は動物っぽいですけど、言葉も喋れますし。クライスファー陛下から人として扱うという御触れは出していただいています」
「ラクーンのアライてす。よろしくおねかいします」
ぺこりと頭を下げるアライさん。
ゴルゲットは見えるように下げていますね。真ん中にネイルコード国公認のロゼットが付いています。
オウシさんに、別の国でこの子の同族が同じように漂流して来た結果、掴まって動物扱いされているのではと心配している旨を伝えると。
「なるほど。確かに動物扱いすべき方では無いようですね。商人の伝手でどこかでそういう話を聞いたら、伝えておきます」
「しかし何というか、かわいらしいねぇ…」
ヤーダーさん、分かりますか。メルケちゃんも目をキラキラさせています。
アライさんがうずうずしているメルケちゃんに気がついて、側に来て手を広げます。すぐに分かるジェスチャーの意味。メルケちゃんがアライさんに抱きつきます。
「うわー、もふもふ~っ! 尻尾すっごいもふもふぅ~っ!」
「ひゃー。ここのヒトたち、すくたきつきたかりますね」
アライさんのハグは、日常的なサービスになっているようです。女性に多いですが、たまに男性もいるそうです。女性子供に抱きつくのは見た目アウトですが。アライさんなら許される感じがします。
ヤーダーさんも混ざります。メルケちゃんとアライさんをハグハグします。
「ヒャー。くすくったいてす」
さて。最初のおもてなしがもふもふになってしまいましたが。せっかくの料理です、冷める前にいただきましょう。
「これは楽しい御膳だね、メルケ」
「うわ~、どれから食べようか迷っちゃう…」
うんうん。お子様ランチを前にしてうきうきしているメルケちゃん。かわいいですね。
まぁファルリード亭で日常的に出せるようになったメニューをトレイに並べただけですが。子供には細かい注文は無理ですし、一人前は量が多いですからね。こうやって少量ずつ種類を揃えて出した方がいいでしょう。気に入った物があったらそりをおかわりしても良いですしね。
…美味しそうに食べるメルケちゃん。ニコニコと眺めるオウシさんとヤーダーさん。
なんか子供の頃に家族で出かけて、ファミレスでお子様ランチ食べたの思い出しました。旗は集めませんでしたけど、おまけに付いてきた小さいフィギュアは集めてましたね。そういうサービスを考えてもいいかもしれません。
食事しながら世間話です。私は、ピザとフライドポテトいただいてますよ。もちろんメルケちゃんにもお裾分け。
「いやもう商会の方は順調ですよ。仕事が途切れないのはありがたい限りです」
「パパ、馬車10台も増やしても、まだ足りないんだって」
オウシさんのキャラバンは、去年の三倍まで規模を増したそうです。
以前オウシさんのキャラバンが目的地としていたサルハラの街では、現在は果樹の植え付けが盛んで、将来的にはこれが主な産業となるだろうとか。麦畑は三角州の方に広げることになるそうです。
どうも最初は海軍で需要があると思われていたドライフルーツの方は、海軍の方からはキャンセルされたようです。ただ、それでもこういう保存の効く甘味は普通に需要がありますので、海軍関係なしに絶賛増産中だそうです。
ビタミンCは酸化に弱いのでドライフルーツにすると壊れてしまうというのは、ネタリア外相経由で伝えてあるはずですが。一応テストはしたんですね。
代わりに海軍の方からは、蜂蜜漬けとか野菜の漬物等の生産依頼が来ているそうで。正教国の方から養蜂の技師を招喚して蜂蜜生産を試みるそうです。
「行きと帰りで荷物を満載できるのはありがたいですな。片道空荷では勿体ないですからね」
「サルハラに移り住むって人も、毎度キャラバンに混ざっているわね。兵士さんだけじゃ土地が余るからね」
魔獣の領域からは離れていますし、ネイルコードならまだ治安は良いのですが。やはり領地間の移動となると、纏まって移動する方が安心だそうで。引っ越しの馬車がキャラバンに混ざることは、運輸ギルドの方で普通に斡旋している業務です。
新しい産業に三角州の開拓。その結果、サルハラの街にはダーコラ国側からも人の流入が続いていて順調に人口は増えているそうで。定期的な食品関係だけでは無く、日用品から家屋建築のための資材やらとキャラバンの往来が途切れることはないそうです。
今やっている三角州の河川整備が終わったら広大な農地が開けますし。それらのためにたくさんの村も作られるでしょう。ちなみに四輪作法、チート系小説ではおなじみのノーフォーク農法ですね、これも概念はマラート内相に伝えてあります。アイズン伯爵領の麦畑で実際に試してみるということで、領庁が主導して試験農場で統計を取りつつ試すそうです。…蜂蜜はシロツメクサのものになるかな?
ちなみに。ネイルコードでは訓練と称して兵士にも開拓を手伝わせています。工兵的な仕事はいくらでもありますし。体を鍛えるにしても何かやらせた方が無駄が無いと言うことらしいです。剣の素振りの代わりに鍬を穿つ。
さらに。軍では一定期間勤めれば恩賞付きで除隊出来ますが、希望者には開拓に寄与した分農地を格安で融通して貰えるんだそうで。農家出身の次男以降が従軍する理由の上位を占めています。
今回の三角州はまさに好条件。肥沃で治水も終わった農地。通商の要所として発展間違いない街が近くに発展途上。ここを選んで除隊する人、街で働いた稼ぎで農地を買う人。そういう人達が移動すれば、建築や商売をする人も集まるわけで。今がチャンスとばかりに人が集まりつつあります。
あと田んぼ。大切田んぼ。米の試験栽培も水が豊富な三角州で行ないます。
収穫はまた来年ですが。稲作がうまく言った暁にはお米布教のためにいろいろなメニューをファルリード亭で出したいところですね。カレー…は香辛料のコストがシャレにならないので、炒飯とか炊き込みご飯とかからですか。元日本人としては、炊いたご飯そのままとおかずという形式を推奨したいところですが。まずは米という食べものになじんで貰ってからと言うことで。
「ダーコラとの陸運が解禁されたら、そちらへも商売を広げようと思うんだ。サルハラに商会を開くための土地も買ってあるしね」
ダーコラ国へ続く街道と、そのために三角州の河々に橋もかけられつつあります。交易と農業の拠点としてサルハラの街は大きい街に成長することでしょう。
カスケレン商会もさらに大きくなりますね。お父さん頼もしいです。
39
あなたにおすすめの小説
異世界転生 剣と魔術の世界
小沢アキラ
ファンタジー
普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。
目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。
人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。
全三部構成の長編異世界転生物語。
異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです
青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。
混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。
もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。
「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」
思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。
その時、見知らぬ声が響く。
「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」
これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語
美化係の聖女様
しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。
ゴメン、五月蝿かった?
掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。
気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。
地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。
何コレ、どうすればいい?
一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。
召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。
もしかして召喚先を間違えた?
魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。
それでも魔王復活は待ってはくれない。
それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。
「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」
「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」
「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」
「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」
「「「・・・・・・・・。」」」
何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。
ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか?
そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!?
魔王はどこに?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
不定期更新になります。
主人公は自分が聖女だとは気づいていません。
恋愛要素薄めです。
なんちゃって異世界の独自設定になります。
誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。
R指定は無しの予定です。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)
緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。
夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。
壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。
異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。
異世界叙情ファンタジー、開幕──
※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。
挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる