玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第10章 レイコさんは自重しない

第10章第002話 眼鏡と花

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第10章第002話 眼鏡と花

Side:ツキシマ・レイコ

 馬車はファルリード亭につきました。
 カヤンさんは今日も働いているそうですが。朝の繁忙期が終わってお昼までは間がある時間帯。お客さんは少なめですね。

 「マーリアちゃんっ、おかえりっ! 無事で何よりだよ…って あれ?」

 「おおっ!マーリアちゃんっ! 元気そうだな! ん? レイコちゃんはまだ馬車…んんん?」

 カヤンさんとミオンさんが奥から出てきました。

 「ふふふ。やっぱり戸惑うわよね」

 一緒に入ってきたアイリさん達が、なんかニヤニヤしていますよ。

 はい。二人ともすぐに私だと分からなかったようで。それでもマーリアちゃんの隣にいる見覚えのある風貌に気がついてくれたようですが。
 ウマニ君とベールちゃんは、カウンターに座っていましたが。こちらを見てすぐに私だと分かってくれたようです。

 「レイコママ! マーリアママ! アライママ! セレブロさん、レッドさん、みんなおかえり!」

 「レイコママ、少し見ないうちに背が伸びたね~っ ああっレッドさんもっ」

 ベールちゃんのは、大人に言われるのを真似したんでしょうね。まぁ今回はぴったりなセリフなのですが。

 「…レイコ…ちゃん?さん? なのかい?」

 「うんうんっ…確かにレイコちゃんだっ。けど… ちょっと見ない間に大きくなって。何があったの?…と言うより、海の向こうで何かかがあったからこうなったんだよね。レッドちゃんも、なんか一回り大きくなって…」

 ミオンさんがハグしてきて。腰元にはウマニ君とベールちゃんが。…皆、匂いで分かるんですか?
 何にしろ、話が早いのは助かります。

 「…海の向こうの飯は、そんなに栄養があったのかい?」

 「はは…新しい食材とかについては、また追々お話しします。いろいろありましたので。」

 …ネイルコードに着く前は、大人になったネタでいろいろ面白いことをと考えていたのですが。
 セレブロさんはさっそく、ファルリード亭での定位置であるフロントそばに寝そべり。子供達は、久しぶりのセレブロさんモフモフを堪能しに行きました。

 「セレブロさん、なんか海の匂いがする… あとでフェンちゃん連れてこないと」

 セレブロさんの娘のフェンちゃんは、家の方でお留守番だそうです。


 「みんなただいま… あの…カーラさんが」

 「ああ。…もう二ヶ月になるか…」

 「レイコちゃん、マーリアちゃん、アライさん。こちとらはもう落ち着いているけど。あなたたちはびっくりしたでしょうね…」

 「……っ」

 カーラさん。カヤンさん曰く、享年六十五歳。日本だとまだ早い感じですが。こちらだと平均寿命以上でした。
 カヤンさんは、大きく息を吐いた後、

 「うん…事故や事件で死んだわけじゃ無い。病気ともなれば、誰かを恨むこともできない。運命だったと諦めるしかないよな」

 すっかり達観されたかのようです。…突然の死別は理不尽ですが。死因が理不尽で無いだけ、マシだとばかりに。

 「残念だし。悔しいし。もっと孝行できたんじゃ無いかと後悔もあるけどね。そもでも…レイコちゃんのおかげで、たくさんの孫達と快適な家で楽しく暮らせたんだ。悪い人生じゃ無かったはずさ…まぁ知っている人にはそう思ってもらえると。身内としてはありがたいな」

 「カヤンさん…」

 カーラさんは、モーラちゃんに、ウマニ君とベールちゃんだけではなく。アイリさんらの子であるハルカちゃんやターダ君も区別無く世話してくれていました。…もしかして私やマーリアちゃんも孫枠だったのでしょうかね?

 「ふむ、そんな顔をなさんなレイコちゃん。母さんはまず、レイコちゃん達に悲しんで欲しくは無いと思うぜ。そういう人だったからな。気にするな…は違うか。あまり気に病まないでくれ」

 「そうよ。誰かが悪いわけじゃないんだから。…寂しいけど仕方が無いこと」

 カヤンさんとミオンさんを顔を見て。…お父さんが亡くなって、四十九日の後のお母さんの顔を思い出しました。愛しい人の死も…もう受け入れたという顔です。

 「はい… あの。今、モーラちゃんは?」

 「あの子は王都の方に行っているよ。タロウさんの実家、ランドゥーク商会の方に詰めながら、ファルリード亭の支店を出すんだって、いろいろ頑張っているところさ」

 モーラちゃん、今は…十五歳だっけ? もう独立考えていますか。

 「この店のようなのを、鉄道に沿ってね。今後、流行ると踏んでいるようだね。まずはテオーガル領の方に店を出すとか息巻いているよ」

 「店を切り盛りするというより。このファルリード亭と同じような店をあちこちに立てて。商会みたいに支店を出す形式にするとか言っていたな。その辺に必要な勉強を、ランドゥーク商会のタロウさんの親父のケーンさんから、あれこれを学んでいるところだ」

 なるほど。ホテルとレストランのチェーン展開ってところですね。確かに、鉄道が延びれば、旅行というものも庶民に広まるでしょう。
 護衛業向けの宿泊施設では無く。快適な宿泊に美味しい食事。目の付け所は良いと思います。…ランドゥーク商会も噛むつもりですかね?

 「旦那の弟子達も料理の腕は十分上がって、そろそろ独立させたいと考えていたところだから、丁度良いけど。我が娘ながら話が大きくなってきて、ちょっと怖いよ」

 以前、ファルリード亭を大きくしたいとか言ってましたが。モーラちゃんも、将来の夢が固まったってところですか。なんか精神的に追い越された気分です。


 …。
 洋食屋特有の食欲そそる香り漂う店内を見渡すように眺めます。半年ぶりなので。半年しか。それでもなんか懐かしく感じます。
 ふと、旅館のカウンターが目にとまりました。
 カーラさんはいつもそこに座っていました。カウンターのそばにはセレブロさんが寝そべっていて。カーラさんのとなりの椅子か膝の上が、レッドさんの定位置でした。地域猫もよく入り込んでいましたね。

 カウンターの後ろには小棚が据えられていて、アイズン伯爵や陛下から送られた記念品、壺やらパネルが飾られているのですが。
 その棚の一画に。見覚えのある眼鏡と。山盛りで花が刺された花瓶。

 「母さんを知っている常連さんがね。たまに花を持ってきてくれるんだ。」

 私が贈った眼鏡です。ユルガルムのアリの甲から削りだしたフレーム。私が研ぎ出したレンズ。カーラさんにモニターをお願いした老眼鏡です。
 最初は高価な物だと遠慮していたのですが。モニターとして使い心地を教えて欲しいとお願いした物です。
 文字が読みやすくなって、カウンターの業務が楽になったと喜んでました。

 あ。涙が…
 急に…カーラさんがいなくなったことが、実感として染みこんできました。

 …手を握られました。マーリアちゃんも眼鏡を見て。泣いています。

 堰が崩れたように涙があふれ、嗚咽が漏れてしまいます。

 「…う…えっく…カーラさん…」

 ミオンさんが、マーリアちゃんと一緒に抱きしめてくれます。

 「…二人とも。ありがとね。義母さんも、皆が揃ってくれてきっと喜んでいるわよ」

 うなだれているアライさんの頭をカヤンさんが撫で回します。ラクーンは、悲しみで涙を流すことはありませんが。彼女もカーラさんを悼んでいることはわかります。

 ミオンさんの胸を借りて、一頻り泣いた後。

 「…まぁせっかく店に来たんだ。昼飯にはまだちょっと早いし、丁度空いている時間帯だしな。顔洗うついでにここの風呂に入っていきなっ! 船だと身体拭うのが精一杯だったろ?。おいミオン、三人の着替えを家に取りに行ってくれ。ついでにフェンちゃんも連れてきてあげな」

 「はいよ。皆、先に入っててちょうだい。着替え取ってきたら、私も一緒に入るよ」

 「「「わたし」「ぼく」達も入る~っ!」」

 「あんたは男湯でしょ!いやらしい!」とハルカちゃんに言われたウマニ君の表情がくしゃっとなりました。三歳ならいいんじゃないかな?

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