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湯場
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「うん、読み通り。明日の朝には、お天気、回復するかな?」
湯場へ向かうために軒下を歩きつつ美月が空を見上げれば、すごい勢いで雲が流されていくのが見えた。雨はもうほとんど止んでいる。
「この分なら、露天風呂でも良さそうだね?クロ」
と、クロに話しかけると、クロは嬉しそうに尻尾を振って美月に応えた。
この家は、美月の祖父星野辰巳が病弱な伴侶珠子を思いやり、自らの趣味やこだわりをこめて設計し建てたもの――場所こそ辺鄙な山奥だが、建物の至る所に伴侶や家族への愛情が込められている。
街の空気が合わなかったのか、気管支の弱かった珠子のために辰巳はこの山の一部を買い取り、妻子のため、そして自分もまた楽しみながら、若い時分からこつこつと自らの手で作り上げていったのがこの家だ。
通勤の不便さを苦ともせず、週末ごと、そして休暇の取れる時ごとに、少しずつ妻子の要望を自分のこだわりと共に形と成していった祖父辰巳の想いの込められたこの家は、祖母珠子にとってかけがいのない住処だ。
そして、今は美月にとっても――――
居心地の良い古民家風の我が家の西角を曲がれば、辰巳が執念で掘り当てた、我が家自慢の湯場が見えてくる。
「クロ、おいで?先に汚れを落としてあげる」
美月はクロを手招きし、多少の雨でも露天風呂を楽しめるように作られた庇の下で、今はクロ専用となりつつある浅瀬のぬるま湯を木桶で汲んだ。
そして、クロの耳や目に入らぬよう、丁寧にお湯をかけて泥等の汚れを落としていく。
「クロ、きれいになったよ?」
美月が声をかけると、クロはひと際嬉しそうに大きく尻尾を振った後、彼専用となった浅瀬に飛び込んで行った。
「さあて、わたしも入ろっと」
美月は手早く庇下の籠の中に衣服を脱いで畳むと、石畳を歩き、浅瀬の隣のゆったりとお湯につかれるスペースへ向かう。
クロと同じくかけ湯をしてから、お湯に浸かると、美月はふぅっと大きく息をついた。
そして、そのまま頭を縁にもたれさせ、空を見上げると、雲の切れ間から星が見える。
「クロ、結局、明日も晴れそうだね~」
呑気に美月が声をかけると、クロは浅瀬から頭を伸ばし、美月の頬をぺろぺろ舐めた。
「クロ、くすぐったいよ!」
一人と一匹で戯れていると、西角の通路から珠子が着替えを持って現れた。
「美月ちゃん、今日は大変だったわね。クロちゃんもお疲れ様。着替えとタオルはここに置くね。……風邪をひかないように、しっかり温まってからいらっしゃい」
「おばあちゃん!ありがとう。出たらすぐ、ご飯のお手伝い、するね!」
美月の申し出に珠子は、あら、うふふ。よろしくね、と意味ありげに笑いながら、戻って行った。
湯場へ向かうために軒下を歩きつつ美月が空を見上げれば、すごい勢いで雲が流されていくのが見えた。雨はもうほとんど止んでいる。
「この分なら、露天風呂でも良さそうだね?クロ」
と、クロに話しかけると、クロは嬉しそうに尻尾を振って美月に応えた。
この家は、美月の祖父星野辰巳が病弱な伴侶珠子を思いやり、自らの趣味やこだわりをこめて設計し建てたもの――場所こそ辺鄙な山奥だが、建物の至る所に伴侶や家族への愛情が込められている。
街の空気が合わなかったのか、気管支の弱かった珠子のために辰巳はこの山の一部を買い取り、妻子のため、そして自分もまた楽しみながら、若い時分からこつこつと自らの手で作り上げていったのがこの家だ。
通勤の不便さを苦ともせず、週末ごと、そして休暇の取れる時ごとに、少しずつ妻子の要望を自分のこだわりと共に形と成していった祖父辰巳の想いの込められたこの家は、祖母珠子にとってかけがいのない住処だ。
そして、今は美月にとっても――――
居心地の良い古民家風の我が家の西角を曲がれば、辰巳が執念で掘り当てた、我が家自慢の湯場が見えてくる。
「クロ、おいで?先に汚れを落としてあげる」
美月はクロを手招きし、多少の雨でも露天風呂を楽しめるように作られた庇の下で、今はクロ専用となりつつある浅瀬のぬるま湯を木桶で汲んだ。
そして、クロの耳や目に入らぬよう、丁寧にお湯をかけて泥等の汚れを落としていく。
「クロ、きれいになったよ?」
美月が声をかけると、クロはひと際嬉しそうに大きく尻尾を振った後、彼専用となった浅瀬に飛び込んで行った。
「さあて、わたしも入ろっと」
美月は手早く庇下の籠の中に衣服を脱いで畳むと、石畳を歩き、浅瀬の隣のゆったりとお湯につかれるスペースへ向かう。
クロと同じくかけ湯をしてから、お湯に浸かると、美月はふぅっと大きく息をついた。
そして、そのまま頭を縁にもたれさせ、空を見上げると、雲の切れ間から星が見える。
「クロ、結局、明日も晴れそうだね~」
呑気に美月が声をかけると、クロは浅瀬から頭を伸ばし、美月の頬をぺろぺろ舐めた。
「クロ、くすぐったいよ!」
一人と一匹で戯れていると、西角の通路から珠子が着替えを持って現れた。
「美月ちゃん、今日は大変だったわね。クロちゃんもお疲れ様。着替えとタオルはここに置くね。……風邪をひかないように、しっかり温まってからいらっしゃい」
「おばあちゃん!ありがとう。出たらすぐ、ご飯のお手伝い、するね!」
美月の申し出に珠子は、あら、うふふ。よろしくね、と意味ありげに笑いながら、戻って行った。
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