(あやかし御用達)民泊始めます~巫女になれ?!無理です!かわりに一泊いかが?

岬野葉々

文字の大きさ
41 / 80

手を伸ばせば

しおりを挟む
 押し迫って来る闇の声に対し、美月は激しく首を振って後ずさる。

 周りの暗闇よりもなお一段と暗い、凝った闇の塊――ソレがつたなく幼い声で嘆きと悲しみを伝えてきたときは、美月もまた同調し共感できた。
 いや、むしろ……囚われた。
 美月のその傷は、やっとふさがれたところで、癒されたわけではない。
 身をもって知っているその痛みを訴える幼い声を、美月が無視できるはずもなかった。

 だが、その声は一変し、今や激しく怨み辛み憎しみを訴え、まるで呪詛のような態を為してきたとすれば、話は別だ。
 まして、美月はもう、己が辛かった時にもずっと傍にいてくれた大切な存在や支えてくれた周囲を思い出し、正気に戻っている。
 
 何があっても、そちらへ行くわけにはいかなかった。

 そして、正気に戻った美月は、ソレ――闇の塊が呪詛めいた何かを吐き出す度に、ソレ自身ますます暗くなり、また宙に漂う極々小さな光の粒子を吸い込み、それを黒く染めているのが視えていた。

 美月は、それに対し、本能的に危機感を覚える。

 やがて、どうあっても動かない美月に、ソレは切れ、そのせいか、ソレの口調はまた幼くなった。

(――――どうして?!どうして、こっちにきてくれないの……?ひとりは、イヤだ!さびしくて、さびしくて……つめたくて、さむい。……おねえちゃ…ぁ…ん)

 独りの寂しさに怯え、温もりを求めるその声に、美月の心は痛くなる――――

「……ひとりは、辛いよね。寂しいよね……お父さんやお母さんが、恋しいよね。悲しいよね。それは、……わたしにも、よく分かる――」

 痛みと共感のこもった美月の声に、ソレはピタリと黙った。
 美月は、ソレがその後につのる憎しみを吐き出す前に、一変する前に、と急いで自分の想いを言葉に込める。

「……だけどね?恨んで、憎んで――その先に、何があるの?」

 今の自分の状態にどうか気づいて欲しい、という願いが込められた美月の問いに、ソレはじっと考えるように変わらぬまま――美月は、幼子に言い聞かせるように、心を込めて言葉を続ける。

「わたしはね、お父さんもお母さんもおじいちゃんも、……大好きだった。いなくなっちゃって、悲しいし、寂しい。それに、悪いヤツにだまされた時は、苦しくて、憎くて……きみの気持ちもよく分かるよ。だけど、わたしは自分が想っていたのと同じかそれ以上に、お父さんにもお母さんにもおじいちゃんにも大切に想われていたことを、知ってる」

 美月はそのまま、自分の想いを精一杯伝えようと、上手く言葉にならないことをもどかしく思いつつも懸命に言葉を紡ぐ――――

「ねぇ、きみ。……それだけ嘆き悲しむのだから、きみもきみの家族に大切に大切にされてきたんだよね?」

 美月の言葉に誘われたのか、ソレはたどたどしく昔のことを語り出す。

(……おとうさん、いつもいっぱいえものをかってきた。おかあさん、ぼくときょうだいたちを、いつもぺろぺろして、きれいにしてくれるの――)

 その声と共に美月の目は、ぼんやりと闇の中でうずくまる、小さな痩せた獣の輪郭を捉えていた。

(きょうだいたちは、いつもげんき。ぼくたち、いつもじゃれあってあそぶの――)

 闇の中で、長いしっぽが揺れ、うずくまっていた小さな頭が少し上がる。――――が、

(――――だけど!だけど、もう、いない!ぼくだけ、ぼくだけしか――!)

 闇を切り裂くような悲痛なその叫びに美月は胸を痛めつつも、今にも変調しそうなその気配に、鋭く割って入る。

「大切なきみの家族に、大切にされてきたきみ!きみの家族は、生き残ったきみに今のようになって欲しいと願ったと思う?」

 美月は凛とした眼差しで、真っすぐに闇を見つめる。

「闇の中でたったひとり、怨み憎しみに囚われて過ごして欲しいと願ったと思う?…………わたしは、そうは思わない。幸せに、どうか幸せに生きていって欲しいと願ったと思う」
(……しあわ、せ…………?)
「うん。……すっごいのじゃなくても、いいんだよ?美味しいもの、食べたり、とか、元気で健康が一番、とか。きちんと、食べて、寝て、自分の好きなこと、楽しいことを探すの」
(……すきなこと?……たのしい?)
「そう。なりたい自分を想像してみるのもいいかな!……あのね、憎しみや怨みを無理に捨てなくても、いいんだよ?わたしだって――!」

 美月はやおら握りこぶしを頭の上に振り上げた……。

「今度あの悪いヤツラを見つけたら、けちょんけちょんにしてやるんだからーーー!!そして、絶対に、二度とあんな手口に引っ掛かるもんか!――逆に、返り討ちにしてくれる!!」
(かえりうち……!)
「あ、でも、それに囚われるのは、ダメだよ?今のきみ、全然幸せそうじゃないもの」
(…………)
「あとね、わたし、返り討ち出来るような知識も含めて、いっぱい、いっ~ぱい勉強して、成長して、きちんと自立出来るようにするんだ~!おばあちゃんとクロと大好きな人達と一緒にたくさんお話して、美味しいもの食べて、嬉しいこと、楽しいことをいっぱい探して、幸せに生きていくって決めてるの!」
(……べんきょう。……せいちょう。……………………なかま)

 少しずつ起き上がった小さな獣の頭は、最後の言葉でがっくりとまた下に落ちた――

 美月のよく視える目は、闇の中の小さな獣を、もうしかと捉えていた。
 美月は、ふふっと笑って手を差し伸べる――――

「――――ねぇ、きみの方が、こちらへおいでよ?」

  
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...