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……そんなの、決められないよ 3
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三つ目の言葉により、打って変わって今度は異様な静けさに取り包まれたこの場で、その言葉の真意を分かっていないのは、美月と小さなツキのみだった。
美月は首を傾げながら、右手を握ってくれていた三つ目を見上げる。
「――――どういうこと?」
それに対し、三つ目は穏やかで優しい目で見つめるのみ。
けれども、美月は徐々に自分の身体が軽くなってくるのを感じた。
試しに一歩を踏み出せば、先程あれ程苦労したのがウソのように、難なく一歩を踏み出せる。
慌てて、左腕の中に抱きしめていたツキを視れば、何重にも縛られていた闇の鎖はほとんど消え失せていた――――その代わりに、……今度は自由であった三つ目の足元にその闇の鎖は出現し、早くもその足は幾重にも取り囲まれている。
「どういうことっ――――?!」
状況がつかめず狼狽えだした美月とツキの頭を、三つ目はゆっくり、ゆっくりとやさしく撫でた。
(――――良い。これで、良いのじゃ。我は、長う長う生きた故――)
まるでお別れのようなその言葉に混乱した美月は、答えを求めて周囲を見渡す。
こちらを注視しているあやかし達は、その目に何とも言えない思いを湛えつつも、先程の騒めきがウソのように、一言も発しない。
困り果てた美月を見かねて、ふぅっと重い息を吐き出しつつも、霖雨教師は口を開く。
「…………仕方がありません。知らなかったこととはいえ、あなたはソレに名を渡し、絆が出来てしまいました――そうなってしまえば、もはや此処と無関係ではいられない。最悪、あなたもまたソレと共に此処へと囚われる。それを避けるには、誰か若しくは何かを身代わりとする――狭間の核の入れ替えを行うしかありません」
霖雨教師はそこで言葉を切り、一角鬼の三つ目を指し示した。
「――――この御方は、それを自ら買って出てくれたのです」
美月は衝撃のあまりよろめき、ツキを抱えたまま、その場に膝をついた。
「……そんな、……だって、わたし、――――!」
そのまま蹲り小さく震えて言葉がうまく出てこない美月を案じた三つ目は、美月の両脇を抱えてひょいと持ち上げる。
(やあやあ、巫女殿は軽いな――!やっとやっと、巫女殿をつ~か~ま~え~た~ぞ~~~!…………楽しかった鬼ごっこも、これで終わりよのぅ?)
そういって、やはり明るくガハハハッと笑い、ぽんっと美月が両足で立てるように、やさしく足を着かせる。
(よしよし、これで大丈夫。――――我は、身命を賭して巫女殿を救うと誓ったのでな、これで良いのじゃ)
そして、三つ目はツキの頭をもう一度やさしく撫でる。
(……この狭間の主がこのような幼い山の子じゃったとはな。――今まで辛かったろう。よいよい、後はこの三つ目が引き継ぐ故、其方、……ツキと申したか?良い名をもらったな、大事にせい。――ツキ、其方は巫女殿を頼むぞ?)
ツキは金色の瞳を真ん丸に見開き、…………やがて、ミャーと精一杯の声で鳴いた。
(さてさて、……となれば、この様なところに長居は無用!ほれ、巫女殿、行きなされ!――なぁに、この三つ目、まだまだ余力はあるでな、巫女殿の一行が狭間を抜け出す間位は、余裕で持ちこたえてみせようぞ!…………とはいえ、さっさっ、お早く!)
視れば、三つ目を縛る闇の鎖は、今や三つ目の腰のあたりにまで到達しようとしていた。
内心、密かに焦っていた三つ目は、助けを求めるように、周りのあやかし達に声をかける。
(――――皆のモノ、分かっておるな?巫女殿を、巫女殿を頼むぞ?)
その声色にはっとしたあやかし第十班は、口々に話し出す。
(――――言われずとも、分かっておるわっ!)
(ささ、巫女様。早う、こちらへ――!)
(…………一角のは、深山のあやかしの中でも最強なのでな、きっと大丈夫じゃ)
(そうじゃ、そうじゃ!きっと、……すぐに、此処に馴染み、一角色に染めなおしてくれるわ――!)
(…………一角鬼が此処の主となれば、この狭間もかなりハチャメチャになろうな?)
(違いない――――!)
祈るように、信じるように言葉を紡ぐ第十班に背を押され、美月は顔を上げた。
「なら、わたし、……わたし、また此処に、あなたに会…………!」
けれども、その言葉は、途中でほかならぬ三つ目の手によって塞がれる。
三つ目は嬉しそうに目を細め、しかし、ゆっくりとその頭を振った。
(巫女殿、その気持ちは嬉しいが、…………言葉はもっと、大事にな?特に此処みたいな狭間や異界、あやかし相手ではな?)
いつもならば、それに付けこんで言質を取り、思いっきり好き勝手するのが我らあやかしの専売特許よ~!と、三つ目はまたガハハハッと豪快に笑った後、真剣な眼差しで美月に別れを告げる。
(狭間の代替わりは滅多にないが、……聞いたところによると、同化にはそれなりに時間がかかるようじゃからな。そして、同化が終わるまで、狭間はいったん閉じられる。然れば、人である巫女殿と我との道の交わりは、恐らくこれで最後になろう――――)
三つ目は眩しいものを見るかのように目を細めて美月を見つめ、それから、……そっとその身体を自分の手の届く限りの、闇の外へと押しやった――――
(さらばじゃ、巫女殿――――鬼ごっこ、……楽しかった、な――――)
美月は首を傾げながら、右手を握ってくれていた三つ目を見上げる。
「――――どういうこと?」
それに対し、三つ目は穏やかで優しい目で見つめるのみ。
けれども、美月は徐々に自分の身体が軽くなってくるのを感じた。
試しに一歩を踏み出せば、先程あれ程苦労したのがウソのように、難なく一歩を踏み出せる。
慌てて、左腕の中に抱きしめていたツキを視れば、何重にも縛られていた闇の鎖はほとんど消え失せていた――――その代わりに、……今度は自由であった三つ目の足元にその闇の鎖は出現し、早くもその足は幾重にも取り囲まれている。
「どういうことっ――――?!」
状況がつかめず狼狽えだした美月とツキの頭を、三つ目はゆっくり、ゆっくりとやさしく撫でた。
(――――良い。これで、良いのじゃ。我は、長う長う生きた故――)
まるでお別れのようなその言葉に混乱した美月は、答えを求めて周囲を見渡す。
こちらを注視しているあやかし達は、その目に何とも言えない思いを湛えつつも、先程の騒めきがウソのように、一言も発しない。
困り果てた美月を見かねて、ふぅっと重い息を吐き出しつつも、霖雨教師は口を開く。
「…………仕方がありません。知らなかったこととはいえ、あなたはソレに名を渡し、絆が出来てしまいました――そうなってしまえば、もはや此処と無関係ではいられない。最悪、あなたもまたソレと共に此処へと囚われる。それを避けるには、誰か若しくは何かを身代わりとする――狭間の核の入れ替えを行うしかありません」
霖雨教師はそこで言葉を切り、一角鬼の三つ目を指し示した。
「――――この御方は、それを自ら買って出てくれたのです」
美月は衝撃のあまりよろめき、ツキを抱えたまま、その場に膝をついた。
「……そんな、……だって、わたし、――――!」
そのまま蹲り小さく震えて言葉がうまく出てこない美月を案じた三つ目は、美月の両脇を抱えてひょいと持ち上げる。
(やあやあ、巫女殿は軽いな――!やっとやっと、巫女殿をつ~か~ま~え~た~ぞ~~~!…………楽しかった鬼ごっこも、これで終わりよのぅ?)
そういって、やはり明るくガハハハッと笑い、ぽんっと美月が両足で立てるように、やさしく足を着かせる。
(よしよし、これで大丈夫。――――我は、身命を賭して巫女殿を救うと誓ったのでな、これで良いのじゃ)
そして、三つ目はツキの頭をもう一度やさしく撫でる。
(……この狭間の主がこのような幼い山の子じゃったとはな。――今まで辛かったろう。よいよい、後はこの三つ目が引き継ぐ故、其方、……ツキと申したか?良い名をもらったな、大事にせい。――ツキ、其方は巫女殿を頼むぞ?)
ツキは金色の瞳を真ん丸に見開き、…………やがて、ミャーと精一杯の声で鳴いた。
(さてさて、……となれば、この様なところに長居は無用!ほれ、巫女殿、行きなされ!――なぁに、この三つ目、まだまだ余力はあるでな、巫女殿の一行が狭間を抜け出す間位は、余裕で持ちこたえてみせようぞ!…………とはいえ、さっさっ、お早く!)
視れば、三つ目を縛る闇の鎖は、今や三つ目の腰のあたりにまで到達しようとしていた。
内心、密かに焦っていた三つ目は、助けを求めるように、周りのあやかし達に声をかける。
(――――皆のモノ、分かっておるな?巫女殿を、巫女殿を頼むぞ?)
その声色にはっとしたあやかし第十班は、口々に話し出す。
(――――言われずとも、分かっておるわっ!)
(ささ、巫女様。早う、こちらへ――!)
(…………一角のは、深山のあやかしの中でも最強なのでな、きっと大丈夫じゃ)
(そうじゃ、そうじゃ!きっと、……すぐに、此処に馴染み、一角色に染めなおしてくれるわ――!)
(…………一角鬼が此処の主となれば、この狭間もかなりハチャメチャになろうな?)
(違いない――――!)
祈るように、信じるように言葉を紡ぐ第十班に背を押され、美月は顔を上げた。
「なら、わたし、……わたし、また此処に、あなたに会…………!」
けれども、その言葉は、途中でほかならぬ三つ目の手によって塞がれる。
三つ目は嬉しそうに目を細め、しかし、ゆっくりとその頭を振った。
(巫女殿、その気持ちは嬉しいが、…………言葉はもっと、大事にな?特に此処みたいな狭間や異界、あやかし相手ではな?)
いつもならば、それに付けこんで言質を取り、思いっきり好き勝手するのが我らあやかしの専売特許よ~!と、三つ目はまたガハハハッと豪快に笑った後、真剣な眼差しで美月に別れを告げる。
(狭間の代替わりは滅多にないが、……聞いたところによると、同化にはそれなりに時間がかかるようじゃからな。そして、同化が終わるまで、狭間はいったん閉じられる。然れば、人である巫女殿と我との道の交わりは、恐らくこれで最後になろう――――)
三つ目は眩しいものを見るかのように目を細めて美月を見つめ、それから、……そっとその身体を自分の手の届く限りの、闇の外へと押しやった――――
(さらばじゃ、巫女殿――――鬼ごっこ、……楽しかった、な――――)
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