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二人の日常
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「あの蝶はさ、」
「はい」
「好きな場所へ行けるんだね」
ふと、腕の中の重みが増した。骨ばったユリシスの背中が、逞しいキースの胸板に預けられている。
「ふふ、キースの胸、ふっかふかだ」
「男の胸のなにがいいんだか……」
「キースだからいいんだよ」
「……大きいのは兎も角、豆は汚いだけでしょう」
そう言うと、ぐるり、と翡翠の瞳がこちらを力強く見つめて、何かを探すようにしばらく留まった。思わずぐ、と手に力がこもる。
「やっぱり、いいよ。豆も。かっこいいじゃない」
「貴方様という方は、物好きな……」
相当無礼なことを言っているのは分かっている。だがユリシスはキースが何を言おうと怒ったことはない。それに甘えているわけではないが、ユリシスに望まれたので、なるべく親しみを込めて話すようにしている。
「お茶にしましょう、ユリシス様」
「わーい。今日のおやつは?」
「薔薇のクッキーです」
「僕の好きなやつだね」
「そうですね」
すると、ユリシスが少し拗ねたような顔をする。珍しい。何かこの方の機嫌を損ねることがあっただろうか、とキースは思う。あるのならば全力で排除したいが。キースはそろりと、主人の頬に指を滑らせた。目が合う。
「毎日毎日、僕の好きなお菓子ばかり出して……太ってしまう」
「そんなことですか」
「そんなことじゃない」
この可愛い主人は、ただでさえ少食のくせをして、太る心配をしているのだ。
(お可愛らしい……)
「僕から顔を取ったら何も残らない」
「残ります」
「残らない」
そろそろと目線を彷徨わせていたユリシスは、ぱちりとキースと目を合わせると、
「キースは、太った僕は嫌いでしょ?」
こんなことを宣った。
キースは内心心臓がドキドキしていたし、なんなら爆発もしていたし、なんなら天使の矢が刺さっていた。だがそれらを一切顔に出さずに、
「……フッ」
と笑うにとどめた。これは国一番と謳われる剣の使い手の意地であった。
「私は、どんなユリシス様のことも、好きですよ」
「……ほんと?」
「神に誓って」
そう言うと、ユリシスはようやく、満面の笑みを浮かべた。
「はい」
「好きな場所へ行けるんだね」
ふと、腕の中の重みが増した。骨ばったユリシスの背中が、逞しいキースの胸板に預けられている。
「ふふ、キースの胸、ふっかふかだ」
「男の胸のなにがいいんだか……」
「キースだからいいんだよ」
「……大きいのは兎も角、豆は汚いだけでしょう」
そう言うと、ぐるり、と翡翠の瞳がこちらを力強く見つめて、何かを探すようにしばらく留まった。思わずぐ、と手に力がこもる。
「やっぱり、いいよ。豆も。かっこいいじゃない」
「貴方様という方は、物好きな……」
相当無礼なことを言っているのは分かっている。だがユリシスはキースが何を言おうと怒ったことはない。それに甘えているわけではないが、ユリシスに望まれたので、なるべく親しみを込めて話すようにしている。
「お茶にしましょう、ユリシス様」
「わーい。今日のおやつは?」
「薔薇のクッキーです」
「僕の好きなやつだね」
「そうですね」
すると、ユリシスが少し拗ねたような顔をする。珍しい。何かこの方の機嫌を損ねることがあっただろうか、とキースは思う。あるのならば全力で排除したいが。キースはそろりと、主人の頬に指を滑らせた。目が合う。
「毎日毎日、僕の好きなお菓子ばかり出して……太ってしまう」
「そんなことですか」
「そんなことじゃない」
この可愛い主人は、ただでさえ少食のくせをして、太る心配をしているのだ。
(お可愛らしい……)
「僕から顔を取ったら何も残らない」
「残ります」
「残らない」
そろそろと目線を彷徨わせていたユリシスは、ぱちりとキースと目を合わせると、
「キースは、太った僕は嫌いでしょ?」
こんなことを宣った。
キースは内心心臓がドキドキしていたし、なんなら爆発もしていたし、なんなら天使の矢が刺さっていた。だがそれらを一切顔に出さずに、
「……フッ」
と笑うにとどめた。これは国一番と謳われる剣の使い手の意地であった。
「私は、どんなユリシス様のことも、好きですよ」
「……ほんと?」
「神に誓って」
そう言うと、ユリシスはようやく、満面の笑みを浮かべた。
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