結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

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第2章~逃げ出したい気持ち~

好きな気持ちと疑う心

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──ピリリリ



天井を見上げていると鳴り響くあたしのスマホの音。



「あ……」



力なく声を漏らすけど、そのには自分ひとり。
応えてくれるものはなにもない。



「仕事……」



あまりの衝撃に時間を忘れていたけど、始業時間はとっくに過ぎている。

このままどこかに逃げ出してしまいたかった。
でも、仕事をサボるなんてそんなの社会人としてやってはいけないことだ。



「もしもし」



相手も確認せず、静かに電話をとる。



『ちとせ?まだ来てないみたいだけど、なにかあったのか?』



聞こえてきたのは心配そうな燿くんの声。

燿くんは毎日仮眠を取ってから仕事をするから、いつものように医務室にやってきたのだろう。



「よ、くん……」



燿くんの声をきいた途端、瞳から生暖かいものが流てくる。



『ちとせ!?』



あたしが泣いてることに気がついたのだろう。
燿くんが焦ったようにあたしの名前を呼ぶ。



「ど、しよ……もう逃げ出してしまいたい」


『どうしたんだよ……。仕事どうすんだ?』



もうあたしの心はズタズタだった。

ずっと、いつか振り向いてくれたらそれでいい。
もし振り向いてくれなくても、学くんはあたしと結婚してるから。
それだけで繋ぎとめておけるからって思ってた。



「……社長に電話する」



こんな状態で、誰かの面倒なんて見てる場合じゃない。
こんなひどい状態で白衣着て、にこやかになんて過ごせない。

でも、仕事をはじめて、責任感があるはずなのに、こうして仕事に行けなくなる自分も嫌だ。


『俺、今日は仕事ないからさ。車で迎えに行ってやるよ。ちゃんと話せ』


「……うん、ありがとう」



燿くんとの電話を終えたあたしは、社長の番号をスマホに表示させる。

社長のこと、義理のお父さんだと思ってたけど。
違ったんだ。

いや、社長は結婚したと思ってるのか。



『もしもし?ちとせちゃん?』



スマホから聞こえてくる優しい声色。



「社長……ごめんなさい、今日会社に行けてません……」




『ちとせちゃん?何かあったのか?』


「いまはまだ……ごめんなさい。本当にごめんなさい」



電話越しに頭を何度も下げる。

社長には見えてないけど。



『学か?』


「いまはなにも聞かないでください。勝手なことを言ってるのはわかってます。ほんとうにごめんなさい」


『わかった。落ち着くまでいいから。その様子だと今日休んで明日解決しますって問題じゃないだろう?』


「……社長」



学くんは社長のこと、よくは思ってないみたいだけど。
あたしには、どこか父親のような。
そんな暖かさがみえる。

あたしには物心ついたときに、母親しかいなかったから父親がどんなものなのか実際にはよくわからない。
もし、父親がいたらこんな感じなのかなぁとか思うこともある。



『医務室は元々はなかったんだ』


「え?」


『まぁ、そのうち話すよ。だから、ちとせちゃんの気持ちが落ち着いたら連絡くれればいいから』


「はい……」



社長の言葉にありがたく思いながら、電話を切った。




でも、元々医務室がなかったなんて知らなかった。
現にあたしが働く部屋にはきちんと医務室と札がかかってるし、ベッドや応急処置道具などは揃っている。

だから、あたしの前に働いてた人が辞めることになって募集があったもんだと思った。



「でも、たしかに前の人の痕跡はひとつもなかったなぁー」



ふと、そんなことを思いながら社長に電話を出来たことに安堵してその場に座り込む。



「ここにいられない……」



学くんがあたしと本当には結婚していなかった以上、あたしにはここにいる理由がない。
早く離れないと、あたしは学くんのことをやめられない。

どうしたって好きな気持ちが消えないんだから。
それなら1度離れてみるしかない。

無責任かもしれない。
それでも、あたしがいまここにいる理由はない。
そして、ここにいると心が死んでしまいそうだ。

学くんを好きな気持ちと学くんを疑う気持ちに左右されて。
どうにかなってしまいそうだ。



✱✱✱



「大丈夫か?」



燿くんに電話をすると、すぐに家に駆けつけてくれた。



「……うん」


「なにがあったんだよ」



座り込んでるあたしの横にしゃがんで、そっと頭を撫でる。



「これ……」



握りしめてぐちゃぐちゃになっている紙を床に置く。



「ん?」



あたしが床に置いた紙を拾い上げる。



「……え?」



拾い上げた紙を見て、あたしの顔を見上げる。



「笑っちゃうでしょ……?結婚すらできてなかったの」



自分で言って、本当に笑えてくる。



「笑うなよ!笑いたくもないのに、何笑ってんだよ!」



グイッと引っ張られて、力強い燿くんの腕に包まれる。



「だって、笑うしかないじゃん。結婚してるから何があっても耐えてきたのに……。そんなのなにもなかった」


「あいつ……」



あたしを抱きしめる腕が震えているのがわかる。

燿くんはいつもあたしの味方でいてくれる。
それがどんなに心強いか。
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