23 / 69
第2章~逃げ出したい気持ち~
突きつけられたモノ
しおりを挟む
「ねぇ」
朝。
身支度をしていたあたしを後ろから可愛い声が呼び止める。
「はい?」
学くんは、重役会議があるからと早くに出てしまい家には葉菜さんとふたりきり。
学くんが家を出るところにあたしも起きて、顔を合わせたのだけど彼は普通だった。
普通すぎるくらいに普通で。
あぁ、これ
──距離を置かれてる。
このことに気づくまでに時間はかからなかった。
本当なら、なぜあのまま部屋にこなかったのか。
あたしが隣にいないと寝れないのではないか。
本当に仕事をしていたのか。
聞きたいことは山ほどあった。
でも、何も聞くなと言われてるような瞳に逆らうことはできなかった。
昨日の夜、トイレにいったときに、学くんの書斎の前を通ったけど、そこには人の気配はなくて。
反対にあたしたちの隣の客間からは二人の笑い声が聞こえてきたんだ。
同じ家にいるのに1人を感じて、すぐに布団にはいって目を閉じた。
近づいたと思えばすぐに離れる。
手を伸ばしても心には触れることができない。
そんなもどかしさを感じていた。
「昨日、二人で何してたか聞かないの?」
ニヤリと葉菜さんが微笑む。
「聞きません。あたしは自分の目で見たものしか信じませんから」
「強気ねー。じゃああなたの目で見たものってなに?」
「婚姻届です」
「は?」
あたしの言葉に葉菜さんが怪訝な顔になる。
「学くんと結婚しているのはあたしだという事実です」
この事実があれば、あたしはこの人よりも立場上で勝っている自信があった。
学くんの妻が武器になる。
「へー。そうきたのねー」
面白そうに笑いながら〝ちょっと待ってて〟と学くんの書斎へと入っていく。
「そこは……」
「いいのよ。付き合ってた頃から変わらないんだもの」
慣れたように、なんの躊躇もなく学くんの机の引き出しに手を触れる。
葉菜さんと付き合ってた頃からここに住んでいるのはわかっていた。
だから、以前から葉菜さんがここに来ていたのは当然。
それでも、嫌だと思ってしまうのはどうしても欲張りになってしまうから。
あたしに気持ちも向けられてないくせに、何言ってんだって話だけど。
欲張りになる前に学くんに好きになってもらうのが先なのに。
でも、何もかも順序のおかしいこの恋愛だから。
何もかも先とか後とかどうでもいい。
葉菜さんだって、たまたまあたしの前に付き合っていただけだ。
「あなた、結婚している事実とか言ったわね?」
「そうですけど?」
「結婚してなかったらどうするの?」
「はい?」
この人は何か夢でも見てるのだろうか。
結婚したという事実を認められないのか?
「ふふ、妄想とかで言ってるわけじゃないわよ?」
あたしの考えをすべて読み取るような雰囲気で。
あたしに1歩ずつ近づいてくる。
「葉菜さん?」
その顔がなんだか怖くて、見つめることができない。
「ちゃんと見なさいよ」
それでも彼女はあたしの顎を持ち上げて、自分に向けさせる。
目の前の彼女は絵になるようなとても綺麗な顔をしていて。
そのまま呆然と立ちすくしてしまいそうになる。
「これ、見なさい」
葉菜さんの声にハッとして、彼女の手元に目をやる。
「これでも自信あるの?」
「……!?」
彼女が手に持っていたもの。
それは、あの日。
学くんと一緒に出したはずの婚姻届。
紛れもなくあたしと学くんの直筆だ。
社長と専務の証人のサインもある。
「あなた結婚なんてしてないわよ?」
「……っ」
言葉なんて発することができない。
「現実がみえた?彼はあなたのこと必要となんてしてないの」
葉菜さんがあたしの手に乱暴に婚姻届を押し付ける。
「……なんっ」
「復讐のひとつじゃないかしら?」
「復讐……?」
そういえば、うちの高校に教育実習生としてきた理由も復讐と言っていた。
「この先はあたしが言うことじゃないわ」
「なんで、こんなこと……」
「そんなの決まってるじゃない。学を返してもらうためよ。元々あたしのなんだから」
「……っ」
やっぱり、この人は学くんのことがまだ好きだったんだ。
学くんはどうなのだろう。
でも、学くんのことだから葉菜さんの気持ちに気づいてないわけがない。
それでも遠ざけないってことは……。
そう考えて涙が出そうになる。
でも、この人はの前で泣くのは絶対にいやで。
必死に涙を食い止める。
「あなたのものじゃないって思い知らせられたようだし、帰るわ」
近くにあった自分のカバンを手に取って、そのまま玄関へと向かっていく。
いったいこのひとはなんのためにここに来たのだろう。
あたしに結婚していない事実を突きつけるため?
何にせよ、学くんからあたしを遠ざけようとしてるのは変わらない。
「結婚……してなかったんだ」
張り詰めていたものが一気に流れていった気がして、その場にヘタっと座り込む。
朝。
身支度をしていたあたしを後ろから可愛い声が呼び止める。
「はい?」
学くんは、重役会議があるからと早くに出てしまい家には葉菜さんとふたりきり。
学くんが家を出るところにあたしも起きて、顔を合わせたのだけど彼は普通だった。
普通すぎるくらいに普通で。
あぁ、これ
──距離を置かれてる。
このことに気づくまでに時間はかからなかった。
本当なら、なぜあのまま部屋にこなかったのか。
あたしが隣にいないと寝れないのではないか。
本当に仕事をしていたのか。
聞きたいことは山ほどあった。
でも、何も聞くなと言われてるような瞳に逆らうことはできなかった。
昨日の夜、トイレにいったときに、学くんの書斎の前を通ったけど、そこには人の気配はなくて。
反対にあたしたちの隣の客間からは二人の笑い声が聞こえてきたんだ。
同じ家にいるのに1人を感じて、すぐに布団にはいって目を閉じた。
近づいたと思えばすぐに離れる。
手を伸ばしても心には触れることができない。
そんなもどかしさを感じていた。
「昨日、二人で何してたか聞かないの?」
ニヤリと葉菜さんが微笑む。
「聞きません。あたしは自分の目で見たものしか信じませんから」
「強気ねー。じゃああなたの目で見たものってなに?」
「婚姻届です」
「は?」
あたしの言葉に葉菜さんが怪訝な顔になる。
「学くんと結婚しているのはあたしだという事実です」
この事実があれば、あたしはこの人よりも立場上で勝っている自信があった。
学くんの妻が武器になる。
「へー。そうきたのねー」
面白そうに笑いながら〝ちょっと待ってて〟と学くんの書斎へと入っていく。
「そこは……」
「いいのよ。付き合ってた頃から変わらないんだもの」
慣れたように、なんの躊躇もなく学くんの机の引き出しに手を触れる。
葉菜さんと付き合ってた頃からここに住んでいるのはわかっていた。
だから、以前から葉菜さんがここに来ていたのは当然。
それでも、嫌だと思ってしまうのはどうしても欲張りになってしまうから。
あたしに気持ちも向けられてないくせに、何言ってんだって話だけど。
欲張りになる前に学くんに好きになってもらうのが先なのに。
でも、何もかも順序のおかしいこの恋愛だから。
何もかも先とか後とかどうでもいい。
葉菜さんだって、たまたまあたしの前に付き合っていただけだ。
「あなた、結婚している事実とか言ったわね?」
「そうですけど?」
「結婚してなかったらどうするの?」
「はい?」
この人は何か夢でも見てるのだろうか。
結婚したという事実を認められないのか?
「ふふ、妄想とかで言ってるわけじゃないわよ?」
あたしの考えをすべて読み取るような雰囲気で。
あたしに1歩ずつ近づいてくる。
「葉菜さん?」
その顔がなんだか怖くて、見つめることができない。
「ちゃんと見なさいよ」
それでも彼女はあたしの顎を持ち上げて、自分に向けさせる。
目の前の彼女は絵になるようなとても綺麗な顔をしていて。
そのまま呆然と立ちすくしてしまいそうになる。
「これ、見なさい」
葉菜さんの声にハッとして、彼女の手元に目をやる。
「これでも自信あるの?」
「……!?」
彼女が手に持っていたもの。
それは、あの日。
学くんと一緒に出したはずの婚姻届。
紛れもなくあたしと学くんの直筆だ。
社長と専務の証人のサインもある。
「あなた結婚なんてしてないわよ?」
「……っ」
言葉なんて発することができない。
「現実がみえた?彼はあなたのこと必要となんてしてないの」
葉菜さんがあたしの手に乱暴に婚姻届を押し付ける。
「……なんっ」
「復讐のひとつじゃないかしら?」
「復讐……?」
そういえば、うちの高校に教育実習生としてきた理由も復讐と言っていた。
「この先はあたしが言うことじゃないわ」
「なんで、こんなこと……」
「そんなの決まってるじゃない。学を返してもらうためよ。元々あたしのなんだから」
「……っ」
やっぱり、この人は学くんのことがまだ好きだったんだ。
学くんはどうなのだろう。
でも、学くんのことだから葉菜さんの気持ちに気づいてないわけがない。
それでも遠ざけないってことは……。
そう考えて涙が出そうになる。
でも、この人はの前で泣くのは絶対にいやで。
必死に涙を食い止める。
「あなたのものじゃないって思い知らせられたようだし、帰るわ」
近くにあった自分のカバンを手に取って、そのまま玄関へと向かっていく。
いったいこのひとはなんのためにここに来たのだろう。
あたしに結婚していない事実を突きつけるため?
何にせよ、学くんからあたしを遠ざけようとしてるのは変わらない。
「結婚……してなかったんだ」
張り詰めていたものが一気に流れていった気がして、その場にヘタっと座り込む。
0
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる