結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

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第2章~逃げ出したい気持ち~

見えない彼の気持ち

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「たしかに俺は葉菜と付き合ってた。でも、それは過去の話だから」


「……うん」


「いま、俺は誰がなんと言おうとお前のものだ。お前も俺のものだ。それだけは忘れるな」



もう1度ぎゅっと抱きしめられる。



「でも、二人で帰って来たり……ご飯食べてきたり」



待っていたのはあたしの勝手だけど。
待つなと言われたのはあたしだけど。

でも、家族ができたのに1人でご飯を食べるなんてそんなのいやだから。



「ごめんな……ご飯は社食で食べようとしたらあいつがきただけで、どこかで食べてきたわけじゃないよ」


「そっ……かぁ」



葉菜さんに気持ちがあるのかと思った。
あたしは捨てられるんじゃないか。
そんな気持ちでいっぱいで胸が張り裂けそうだった。



「泣くなよ」



学くんが困った顔であたしの涙を拭う。



「安心したらつい……」


「本当に俺のこと好きだな。お前」



意地悪そうな瞳であたしのことを見る。



「うん、好きだよ」


「……っ」



あたしが素直にこう言えば、学くんは絶対に言葉を失う。
顔が赤くなる。

だから、いつだって言ってやるんだ。



「好きだよ」って。



「素直になると途端に可愛くなるよな」


「え?普段可愛くないってこと?」


「顔がとかじゃなくて……」



困ってる学くんはいつもの俺様な感じが抜けて、とっても可愛くなる。
普段見れない姿に胸がきゅうっとなるんだ。



「あはは、なんか困ってる」


「うるせーぞ」



グイッと引っ張られて体はすっぽりと学くんの腕の中。



「お前さ、今日……」


「今日?」


「霧島に抱きしめられてたろ」


「あっ……」



まずいと思ったんだ。
もしも、学くんに見られてたらって。



「なんでそんなことになってんだよ。浮気か?」


「ち、違うよ!あたしが泣いちゃったから……」


「泣いた……?」



あたしの言葉に顔を覗き込んでくる。



「ちょ、ちょっとね……」



学くんの瞳がなんだか優しい色をしていて。
見つめ返すことができなくて、目をそらす。



「葉菜のこと?」


「う、うん……」



あたしの返事に盛大なため息をつく。



「なんでそういうこと、俺に言わねぇの?」


「うっ……」



いい気はしないだろう。
自分が絡んでることなのに、ほかの人に言われるのは。

でも、学くんの気持ちも見えないのに言うことなんてできない。



「お前、昔から霧島のこと頼ってるよな」


「そりゃ唯一の理解者だから」


「……んで、霧島なんだよ」



学くんがあたしの体をベッドに押し倒す。
そして、あたしの上にまたがる学くん。



「学くん……?」


「お前は高校の頃からずっと霧島のこと頼ってた。俺に少しくらい分けてくれてもいいのに本当に悔しかった」



ポンッとあたしの体に頭を乗せる。



「……学くん」



前にも言ってたよね。
燿くんはそこまで、学くんを苦しめる存在だった?



「俺には気づけねぇこともあいつは気づくんだよな」


「それは、燿くんとはあたしが高校入学してからずっと一緒だから」


「ムカつく」



「学くん?」


「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」



そう言い放ったあと、貪るようにキスを落とす。
学くんの唇は、どんどんと下へ下降してく。



「……まな、ぶくん」



学くんの名前を呼んで、覚悟を決めたとき。
ハッとしたように学くんがあたしの体から離れる。



「学くん?」


「悪ぃ、葉菜の様子見てくる」



頭をかきながら、そう告げて寝室のドアを開ける。



「ま、学くん!」



このまま行かせたくなくて、追いかけて学くんの服の裾を引っ張る。



「ん?」



こっちは決して振り向かない。



「一緒に寝ようね?」



なんて言ったらいいかわからなくて、とりあえずそう言う。



「仕事残ってるから、終わったらな」



振り向くことはせず、あたしの手を服から話して部屋を出た。




「……なんだろう」



急に様子が変わった……?

途中で気持ちもないあたしの体を操るのが嫌になった?

あたしの体は、学くんの温もりを残したまま。
熱く火照ったままだったのに。

結局、その日は仕事が終わらないのかあたしの隣で学くんが寝ることはなかった。
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