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第三章~真実~
1度でも母さんのこと見た事あったのかよ
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「あれ、危篤?」
病院についた俺たちが向かったのは、ICU
親父の話では、即死と聞いていたのに、ICUにいる母さんはベッドに横たわっていろんな器具が繋がれている。
「母さん!」
まだ生きてる。
握った手がまだ暖かいことがそれを証明している。
テンパった親父が即死と言ったと判断した。
「学……」
俺の肩に感じた温もり。
「……んで、母さんなんだよ!こんな目にあうのが!」
その温もりの原因を振り払って、俺は叫ぶ。
「すまない」
俺に対して頭を下げてくる目の前の親父。
「一緒にいたのがあんただったのにとか、そういうことを言ってんじゃねぇよ。俺は」
別に母さんが誰といたって、事故は起こる。
でも、どうしても許さないのが
こいつが1度も母さんのことをちゃんと見てやってないってこと。
「すまない」
俺がこんなふうに言ってる理由を聞こうともせず、母さんから目を背ける。
「目、逸らすなよ!」
横たわる母さんから背を向けた親父を引っ張って、母さんに向かせる。
「いまは、いまだけは許してくれないか?」
「いまだけ?」
「あぁ……こんな姿になってる愛美さんを見ることができない」
俯いたまま、そばにある椅子に腰をかける。
「1度も見てないだろ、あんた」
母さんのことなんで見たことがないくせに。
なにを綺麗事言ってやがる。
「え?」
「俺が何にも知らねぇとでも思ってんの?」
あの日、病室の前でみたことは決して口にしたことはなかった。
あのあとすぐに、環とちとせちゃんの母親は亡くなったし、亡くなってからその話題を出すのも気が引けた。
でも、亡くなってからもこいつがあの母親を想ってることは知っていた。
「なんの話かな?学」
親父は気づいてない振りをするように、俺からも目をそらす。
「あんた、1度でも母さんのこと見たことあったのかよ」
「あるよ。愛美さんのことちゃんと愛してたよ」
「……ふざけんなよ。ずっと、前の女のこと想ってるくせによく言うよ」
「……学」
俺が知らないと思っていたのだろう。
俺の言葉に親父の目が大きく見開かれる。
「……っ」
こういう目。
ちとせちゃんにそっくりで、脳裏に彼女の顔が浮かんで頭をブンブンと振る。
「それを知ったから、ちとせに手を出そうとしてるのか?」
「は?」
親父には言ったことはなかったし、プリクラだって見られてないはずだった。
「見たんだ。昨日、二人で歩いているところ」
「そ。いまちとせちゃんの話なんてどうでもいいだろ。こういう時くらい、母さんのことだけ見てやってくれよ」
さっき医者は今日、明日がヤマだと言っていた。
それを超えても目を覚ます保証なんてない。
もしかしたら植物人間かもしれないと。
だから、こいつが母さんのそばにいられるのはこれが最後の可能性もある。
「そうだな、愛美さんといられるのはこれが最後かもしれないんだよな」
親父がそう呟いて、横たわる母さんを見つめる。
「学、ごめんな」
母さんを見たまま、俺に謝る親父の目からポロポロと零れてくる涙。
「.......っ」
「父さん、泣いてる?」
遅れてICUに入ってきた環が父さんの涙をみて、びっくりしている。
俺だって、びっくりして声を失っている。
普段、仕事も真面目で鉄壁で。
表情を崩すこともあまりないから。
なのに、愛してもいない母さんのことで泣くとは思ってもいなかった。
「学、1度出ようか」
環が俺の肩を叩く。
「いやだ、母さんといる」
「少しだけ。父さん、泣いてるし。頼むから母さんと二人にしてあげて」
ニッコリと環が俺に微笑む。
「そんな洞察力あったっけ……」
環のこと、放浪者だとしか思っていなかった。
でも、まぁ昔から俺や母さんの感情にいち早く気づいていたのは環だったかもしれない。
病院についた俺たちが向かったのは、ICU
親父の話では、即死と聞いていたのに、ICUにいる母さんはベッドに横たわっていろんな器具が繋がれている。
「母さん!」
まだ生きてる。
握った手がまだ暖かいことがそれを証明している。
テンパった親父が即死と言ったと判断した。
「学……」
俺の肩に感じた温もり。
「……んで、母さんなんだよ!こんな目にあうのが!」
その温もりの原因を振り払って、俺は叫ぶ。
「すまない」
俺に対して頭を下げてくる目の前の親父。
「一緒にいたのがあんただったのにとか、そういうことを言ってんじゃねぇよ。俺は」
別に母さんが誰といたって、事故は起こる。
でも、どうしても許さないのが
こいつが1度も母さんのことをちゃんと見てやってないってこと。
「すまない」
俺がこんなふうに言ってる理由を聞こうともせず、母さんから目を背ける。
「目、逸らすなよ!」
横たわる母さんから背を向けた親父を引っ張って、母さんに向かせる。
「いまは、いまだけは許してくれないか?」
「いまだけ?」
「あぁ……こんな姿になってる愛美さんを見ることができない」
俯いたまま、そばにある椅子に腰をかける。
「1度も見てないだろ、あんた」
母さんのことなんで見たことがないくせに。
なにを綺麗事言ってやがる。
「え?」
「俺が何にも知らねぇとでも思ってんの?」
あの日、病室の前でみたことは決して口にしたことはなかった。
あのあとすぐに、環とちとせちゃんの母親は亡くなったし、亡くなってからその話題を出すのも気が引けた。
でも、亡くなってからもこいつがあの母親を想ってることは知っていた。
「なんの話かな?学」
親父は気づいてない振りをするように、俺からも目をそらす。
「あんた、1度でも母さんのこと見たことあったのかよ」
「あるよ。愛美さんのことちゃんと愛してたよ」
「……ふざけんなよ。ずっと、前の女のこと想ってるくせによく言うよ」
「……学」
俺が知らないと思っていたのだろう。
俺の言葉に親父の目が大きく見開かれる。
「……っ」
こういう目。
ちとせちゃんにそっくりで、脳裏に彼女の顔が浮かんで頭をブンブンと振る。
「それを知ったから、ちとせに手を出そうとしてるのか?」
「は?」
親父には言ったことはなかったし、プリクラだって見られてないはずだった。
「見たんだ。昨日、二人で歩いているところ」
「そ。いまちとせちゃんの話なんてどうでもいいだろ。こういう時くらい、母さんのことだけ見てやってくれよ」
さっき医者は今日、明日がヤマだと言っていた。
それを超えても目を覚ます保証なんてない。
もしかしたら植物人間かもしれないと。
だから、こいつが母さんのそばにいられるのはこれが最後の可能性もある。
「そうだな、愛美さんといられるのはこれが最後かもしれないんだよな」
親父がそう呟いて、横たわる母さんを見つめる。
「学、ごめんな」
母さんを見たまま、俺に謝る親父の目からポロポロと零れてくる涙。
「.......っ」
「父さん、泣いてる?」
遅れてICUに入ってきた環が父さんの涙をみて、びっくりしている。
俺だって、びっくりして声を失っている。
普段、仕事も真面目で鉄壁で。
表情を崩すこともあまりないから。
なのに、愛してもいない母さんのことで泣くとは思ってもいなかった。
「学、1度出ようか」
環が俺の肩を叩く。
「いやだ、母さんといる」
「少しだけ。父さん、泣いてるし。頼むから母さんと二人にしてあげて」
ニッコリと環が俺に微笑む。
「そんな洞察力あったっけ……」
環のこと、放浪者だとしか思っていなかった。
でも、まぁ昔から俺や母さんの感情にいち早く気づいていたのは環だったかもしれない。
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