何故か正妻になった男の僕。

selen

文字の大きさ
14 / 16
title 4

#28

しおりを挟む
「エリカちゃん、眠りましたよ。」
「そうか。」
彼女を寝かし付けた僕は寝室を出てリビングに居るルイスの元へ向かった。
ルイスは僕に暖かいレモンティーをいれてくれていた。
この肌寒い季節にはよくあたたまる。
一口それを飲んでから、ふう、と息を吐いて机にもたれ掛かるように寝そべった。
「……明日、エリカちゃんのご両親を探さないといけませんね……。」
いつも通りああ、とかそうだな、なんていう返答を待っていたけれど、いくら待ってもルイスは何も言わなかった。
僕は不思議に思って顔を上げた。
「ウィル、エリカの両親はきっともうこの世には居ない。」
「…… ……え?」
ルイスも僕と同じようにバツが悪そうにティーカップに口を付けた。
「世界的に感染症が流行ったのを覚えているか?」
覚えているも何も、忘れるはずがない。
その病は僕の母を殺したものだから。
「はい……覚えてます。」
「ここ北の島国、ライモンダ共和国では空気が比較的感染しているという条件に加え、島国が故に情報共有と適切な処置が遅れを取った。私が国王であったとき、それは大きな国際問題となった為、少し調べたんだが、
ライモンダでは、国民の3分の2が命を落としたそうだ。」
「3分の……2……。」
僕はその漠然とした数字に身を震わせた。
ルイスは話を続ける。
「大人ばかりが感染していく病の中、比例するように孤児が増え続けた。感染症の流行が収束した今、孤児たちを保護する教会が増えているが、対応は未だ間に合っていないようだ。」
この地では、そんな悲惨な事があったのか、と僕の気分は冷たい深海に沈んだような感覚に陥った。
「それを裏付けるのは、エリカが着ていたあの麻のような生地で織られたワンピースだ。あれはここの国教会のものだそうだ。」
残酷だけど、理解出来た。
国教会のワンピース。それは間違いなく孤児を表す。
あんなに小さな身体で、世界の残酷さを受け入れなければならないなんて、それは酷すぎると思った。
あの幼さにして、天涯孤独。
母は死んだけど、僕には親父もセレンも居た。それがどんなに幸せな事だったか、今になって痛いくらい身にしみた。
「…… ……エリカちゃんを僕達の家族にしませんか?」
反対されるかもしれない。
でも僕はエリカちゃんを見捨てることは出来ない。
「……お願い、ルイス。」
何故か僕の目には涙が浮かんできた。
「あの子をまた街に放り出すなんて……そんなこと……!!」
ポロポロとそれが零れ、木製のテーブルにシミを作る。
「ウィル。」
こっちへ来い、という仕草をしながら優しい声で僕を呼ぶ。
ガタン、と音を立てて僕は立ち上がりルイスに抱きついた。
広げられた両手の中に飛び込む。
「私は何も反対しようなどと考えてはいない。お前の意見と同じだ。」
「それって……?」
「エリカを家族に迎え入れる。」

・・・

それから何度か、3人で朝と夜を迎えた。
エリカちゃんの足の怪我も自分で家の中を歩き回れるくらいには回復した。あまり傷も残らないようで、僕とルイスら心の底から安心した。
朝になり、エリカちゃんは僕らよりもあとに目覚めた。
エリカちゃんの席となった僕の隣にも食事を並べる。
「おはよう、エリカちゃん。」
「おはよう、ウィル。今日の朝ごはんもいい香り。」
レタスとスライストマトを付け合せにしたベーコンエッグと、パン。それに、机に並べられたマーガリンとジャム。(僕はマーガリン派だけどルイスはジャム派なんだ)
ルイスの食卓に置かれたコーヒーの香りが漂う。
新聞を広げながらルイスは、「おはよう」と無難に挨拶をした。
最初は、「ルイスって怖い人?」なんて僕に質問してきたエリカちゃんも、今はもう緊張せずに、ルイスにおはよう、と自然に返して見せた。
まだなれない様子で椅子に腰をかけたエリカちゃんは、いただきます、と丁寧に手を合わせそう挨拶をした。
「食べ物っておいしいね……!」
そういって改まるように僕達2人に向けられた笑顔は、不純なものを一切感じられない、無垢なものだ。
この子の心と体だけは、絶対に守りたいと思った瞬間だった。
ぱくぱくとご飯を頬張り続け、エリカちゃんの食卓に置いてあった皿の中は綺麗に空になったのを見切り、僕はルイスに目で合図をした。
僕達は少しだけ見つめ合い、覚悟を決めるようにしてエリカちゃん、聞いて欲しいな。と話を切り出す。
彼女は手にしていたスプーンとフォークを静かにテーブルに置いた。
また住み始めて間もないこの家の中に、冬の香りと穏やかな沈黙が流れた。

「僕達とここで暮らさない?」

窓から差し込む朝日に照らされたローズピンク色の瞳が僕らを正面から捉える。
エリカちゃんは俯く。
「…… …… …… …… ……いい、です。」
「…… ……え?」
セミロングの金髪で顔が隠れて表情が読み取れない。
「何故だ。理由を言え。」
彼は無意識だろうけど、また少し昔のルイスのよう高圧的な口調がちらつく。
「……だ、だって、ルイスもウィルもわたしに優しくしてくれたから、迷惑かけたくないんだもん!わたしなんかが一緒に住んじゃったら、迷惑だもん!!」
ローズピンク色の両目は潤み、小さかった声は荒がった。
口を結んで、ふるふると体を小刻みに震わせついにはその目から涙が零れた。
こんなにも小さいのに、そんなこと……!!
幼い子にこんな事を言わせる世界が、酷いくらい恐ろしく感じた。
少なくとも、エリカちゃんよりは幸せで、人間らしくて真っ当な暮らしをてきた僕なんかに何が言える……?
…… …… …… …… …… …… ……何も、言えない。
「そんな事ないよ。」そう言ってあげればいいのに、僕の口も体も全く言う事を聞かなかった。
僕はそんなことをするには、存在が軽すぎると思った。
「エリカ、よく聞け。」
低くて、厚みのある声。
ルイスの声だ。
「……!」
僕とエリカちゃんの視線がルイスに注がれる。
さっきまでの威圧的な雰囲気は一切無く、心做しか表情は柔らかくて、声色も落ち着いていた。
「私もウィルも、お前のことを迷惑だなんて少しも思っていない。」
「……でも……。」
そう言うと、ルイスは立ち上がりエリカちゃんの側まで行ってしゃがむようにしてエリカちゃんと視線の高さを同じにした。
「それに、お前は幼い。」
ルイスの大きくてゴツゴツした手が、エリカちゃんの薄い金髪を優しく撫でた。
「エリカはまだ子供だ。存分に甘えるべき歳だ。幼いお前を、もう一度街へ戻すなんでことは出来ん。お前が大人になり、自分の進むべき道を自分の力で進めるようになればでて行くといい。」
ルイスは僕の腕を引いた。
僕もルイスと同じようにしゃがむような姿勢を取って、3人で一緒になった。

「私達は家族だ。」







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

続・聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』(完結)の続編になります。 あらすじ  異世界に再び召喚され、一ヶ月経った主人公の古河大矢(こがだいや)。妹の桃花が聖女になりアリッシュは魔物のいない平和な国になったが、新たな問題が発生していた。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

処理中です...