何故か正妻になった男の僕。

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#29

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「……あ。」
机の引き出しを開けると、いつかバラードに貰った便箋が出てきた。
忙しくて手紙を書く暇もなかったけど、からもう2年が経つ時だ。生活も落ち着き、洗濯と皿洗いを終えた昼下がり、僕はに手紙を書くことにした。
便箋を一枚取り、羽根ペンを握る。
……手紙なんて書きなれないから、出だしになんて書けばいいのか悩むなあ……。
まずは、バラードに向けて書くことにした。



『 バラード・シュナイダー様へ


ウィルです。お元気ですか?
僕達があの港で別れた日から2年近くになるね。遅いようで早かったなあ。

ようやく生活も安定したので、バラードにお手紙を書こうと思います。……遅くなってごめん。
別れの日は、慌ただしくて、なにも伝えられなかったけどバラードは僕の一番の親友です。

バラードがあまりにもポジティブで社交的だったから、実は最初のころは苦手だったんだ。でもすぐにお前は良い奴なんだって分かった。
それからよく皿洗いを手伝ってくれてありがとう。僕はバラードと先輩に気づかれないようにヒソヒソ話しながら皿洗いするのが、大好きだったんだ。

僕が中央棟に行くって決まった日も、一番心配してくれたよね。
普段は平気なフリをしてたけど、そのとき家族がだれもいなかったから、不安な僕を心配してくれるバラードが居て、本当に僕の心は救われた。

それから

「好き」って言ってくれたのに、ちゃんと返事できなくてごめん。



なんか、謝ることばっかりで申し訳ないな。

でも、今の僕は幸せです。

あの時、バラードが僕とルイスを馬車で迎えに来てくれたから今がある。
本当にありがとう。それだけじゃない。
僕にたくさん気を使ってくれてありがとう、よく出かけに誘ってくれてありがとう、……なんて言ってもきっとバラードに貰った恩はまだまだ返せそうにないなあ。

死ぬまでには必ず返すのよ。
だから、僕たちは死ぬまで親友だよ。



話は結構変わるんだけど、フリード家には家族が増えました。
こんな書き方したら勘違いされちゃいそうだけどもちろん僕が産んだわけじゃないからな!!

孤児だったエリカちゃんを正式に引き取ったんだ。
5歳のエリカちゃん。昔のセレンみたいでとっても可愛いよ。

ルイスはライモンダ共和国の新聞会社でしっかり働いています。
王族だった頃に受けていた教育のおかげで、ルイスの文章力が認められて出世したんだ。
働き始めて2年半くらいかな。今では新聞会社の部長だよ。流石だなあ。

僕は、ルイスが仕事から帰ってくるのを待ちながら、エリカちゃんと掃除や料理をしています。
毎日が楽しいよ。

バラードはどうしている?
ちゃんと元気にしているかな?
バラードのことだから、きっと元気にしてるんだろうなあ。
暇だった時、よかったらお返事ください。




ウィル・フリード』



「ふう……。」
ペンを置いて、字が連なった4枚の便箋を眺めてから封筒に入れた。
そらからもう一枚便箋を取り出す。


ガチャッー

「……?」
玄関の扉が開く音がした。
不思議に思って壁掛け時計を見直すけど、時刻はまだ2時半。ルイスが帰ってくるにはまだ早すぎる。
それから足取りは迷いなくこちらに近づき、僕の居る部屋のドアも開けた。
「ただいま。」
いつもの仕事帰り、というように、一般的なスーツに身を包んだルイスが部屋に入ってきた。
「……る、ルイス?」
ペンを握ったままの手を置いて、僕は椅子から立ち上がる。
「今日、はやいんですか?」
「ああ。明日は休息日で早めに仕事が済んだ。」
ルイスの目にはメガネがかかっている。
片目が義眼ということもあって、今のルイスの視力の全てを担う右目にだいぶ負担がかかったらしく、最近視力が落ちたらしい。(僕はメガネ姿のルイスもかっこよくてすきだから嬉しい)
彼は王室にいた頃よりも書き仕事が格段に増えたせいでペンだこのできた手でスーツの上着をハンガーに掛けた。
「そうなんですね。……す、すいません、まだ食事の準備何も出来てなくて……。」
ルイスはお腹を空かせて帰ってきているだろうに、この家に今すぐ食べられる食品は……何も無い。
「当たり前だろう。まだ昼の二2過ぎだ。……エリカはどこに居る?」
キッチンへ向かおうとする僕を引き止めルイスは言った。
「エリカちゃんなら、寝室でお昼寝してますよ。起こしますか?」
ルイスの胸にきっちりと結ばれたネクタイを僕が解いて、スーツの上着が掛かっているハンガーと一緒になるように掛けた。
「ああ。そうしてもらおう。夕食の材料の買い出しに行きたいのだが良いか?」
「はい、行きましょう!」

・・・

「ウィル、何してるの?」
赤いワンピースの上から腰に巻いた白いリボンをなびかせながら、エリカちゃんが僕の服の裾を掴んだ。
「ん?お手紙出そうと思って。」
エリカちゃんが興味津々でこっちを見上げるから、僕は手紙を片手にエリカちゃんを抱っこした。
「出してみる?」
「うん!」
エリカちゃんに手紙を渡し、一つずつポストに投函していく。

「よく出来ました!」
 少し遠くから、行くぞ、と言うルイスの声が聞こえたから、僕達2人ははーいと返事をして行った。
今日は近場の市場ではなく、少し離れた街まで買い物に来た。だから少し帰路は長い。
夕方が終わりかけ、太陽の代わりに月が昇ってきた。
「あ……。」
「どうした?」
「エリカちゃん、寝ちゃったみたいです。」
そう言うと、ルイスは少し微笑んでそうか、と言った。
初めて僕達の家に来た頃からは想像できないくらいエリカちゃんは元気になった。
「さっき、エリカと2人で何をしていたんだ?」
「手紙を出したんです。」
「そうか。」
だんだんと僕らの家に近づき、大きな通りからは外れていった。
それに連なり街独特の騒がしさも遠のき、僕とルイス二人の足音だけが響くようになる。

「王室に行きませんか?」

ルイスの足が突然止まる。
「王室とは…… …… ……アルヴァマーの、か?」
純黒と、アメジストを思わせる宝石の様に輝く両目で僕を捕らえ、呟くようにそう言った。
心做しかその目は見開き、嬉しさが滲み出すようだった。
「はい……!」
ずっとルイスはアルヴァマーに行きたい、と嘆いていた。
僕はいつもルイスに、されてばかりだな、なんて申し訳なく思っていた。
だからこの機にサプライズをしようと計画した。
2年間おつかれちょっとの間、少しづつ食費やら光熱費やらを節約して、ルイスが稼ぎ僕が貯めたお金だ。
3の往復の交通費にも十分当てられそうなくらいに貯まった。
「行きたかったんだ。長い間。」
「僕もですよ。」
ルイスは、エリカちゃんが寝ていない方の僕の肩に顔を埋めた。
「なんだか、夢が叶ったような気分になるな。」
噛み締めるようにそう言ったルイスの言葉が、僕の心にし染みていった。

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