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第2章・君がくれたきっかけと、後悔の意味
第5話
しおりを挟む『個性』という言葉を聞くたび、僕はいつも疑問を抱いた。
だって、どこまでを個性と呼ぶのだろう。
じぶんの意見をはっきり言うことは、一般的には美徳とされているけれど、社会ではそうではない。
右にならって、『みんなと同じ』ほうがぜったいに生きやすい。
じぶんの意志を持ち、『ひとと違う』ことは、否定されがちだ。
だから、右にならう。
だけどそうしてしまったら、個性は消える。
個性を消したらつまらないと言われ、自我を通したら変わり者と罵られ。
ならば、『なに者』であればいいのか教えてほしい。
なに者であるべきなのか、それさえ教えてくれたら、僕だってちゃんと、社会に適応してみせるのに……。
***
蝶々さんの家に来てから、半月が過ぎていた。
春休みは荷解きをしているうちにあっという間に過ぎていき、いよいよ高校が始まった。
これから三年間通うことになるさくらの森高校は、共学の私立高校だ。偏差値はそこそこ高いが、ばりばりの進学校というほどでもないためか、入学式の新入生の雰囲気はどこかのんびりとしていた。
中学を卒業してからずっと気が重かった高校生活。しかしそれは、始まってみれば案外静かで淡々としていた。
部活に入らず、クラスのなかで必要最低限の関係を築いてしまえば、高校生活はそれほど居心地が悪いものではないのかもしれない。
僕自身のことを、クラスメイトがきらうほど知らないから、というのもあるかもしれないが。
「しおちゃん、新しい学校はどう?」
同居人且つ叔母である寿蝶々さんに声をかけられ、僕は味噌汁が入ったお椀をかき混ぜていた手を止めた。
「まぁ、ふつうです」
お椀を置いて答えてから、あさりの炊き込みご飯が入った茶碗を持ち直す。出汁のいい香りがする。
「新しい友だちはできた?」
「……いえ、べつに。てゆーかいらないですし」
はっきり答えると、蝶々さんは苦笑した。
「またしおちゃんはそんなこと言って」
「……僕はひとりでも大丈夫ですから」
本心だった。
僕はこの街に、ひとりになるために来ている。
地元神奈川の高校を選ばなかったのは、知り合いがいる確率が高かったから。
高校は、僕を知っているひとがひとりもいない場所で、一から始めたかった。ただしそれは前向きに楽しい高校生活を送りたいというわけではなく、完全にひとりになるためだ。
友だちは作らない。彼女もいらない。人間関係は最低限で、三年間なにごともない高校生活を送り、卒業する。卒業後は都内の大学に進んで、そのまま無難な企業に就職する。
神奈川を出た僕は、もう二度とあの街に帰るつもりはない。
たとえ蝶々さんに小言を言われたとしても、この意思は決して揺らぐものではない。そう思っている。
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