レプリカは、まだ見ぬ春に恋を知る。

朱宮あめ

文字の大きさ
20 / 52
第4章・降り積もる違和感

第20話

しおりを挟む

 そして、日曜日がやってきた。
 約束の時間になって、僕は紫之宮神社へ向かった。
 すっかり青々とした葉に彩られた参道を進み、桜の木がある能舞台へ向かうと、そこには白いワンピースの女の子の姿。
 さらに、足元には小さな黒い影。千鳥さんと黒猫だ。
 青葉となったみずみずしい桜の木の下で、黒猫とじゃれ合う彼女は、相変わらず浮世離れした美しさを放っている。制服でないから余計そう思うのだろうか。それとも、ほかになにか理由があるのだろうか。
 僕は足を止めて、絵画のようなその光景に魅入った。
 風が彼女の髪やワンピースの裾をさらうたび、光がこぼれるように白い肌がちらつく。
 柔らかな光に包まれたその横顔に見惚れていると、おもむろに桜が振り向いた。目が合う。
「あっ、汐風くんみーつけたっ!」
 千鳥さんは僕に気付くと、嬉しそうに僕を指さした。その瞬間、心臓が大きく脈を打った。
 桜の木が揺れ、木の葉が音を立てる。一瞬、なにかが脳裏を掠めたような気がして、動きを止める。
 なんだ、今の。なんか、覚えがあるような……。
「おーい、汐風くん?」
 ぼんやりしていると、桜がもう一度声をかけてくる。我に返った。
「あ、うん。今行く」
 形の見えない違和感のようなものが気になりつつも、僕はそれを頭の隅に追いやって、一歩先の砂利を踏んだ。
「今日はネコ太郎もいますよー」
 僕が行くのが待ちきれなかったのか、桜の木の下にしゃがみ込んでいた彼女が、黒猫の前足を握って僕に手を振る仕草をする。可愛い。
 ……というかちょっと待って。
「ネコ太郎って……いつのまにコイツ、そんな名前がついたんだ?」
「今付けた!」
 弾ける笑顔で彼女が答える。
「……え、じゃあせめてネコはとってあげたら?」
 言われなくてもこいつ、猫だし。
「えっ! なんで? ネコ太郎可愛いじゃん。ねぇ? ネコ太郎?」
 桜は黒猫――もといネコ太郎に問いかける。ネコ太郎はにゃあと鳴いた。
「いや……猫にネコって。というかその子、メスじゃない?」
「えっ!? うそ!?」
 その驚愕した顔が面白くて、僕は耐えきれずに噴き出した。
「ふふっ……うそ。知らない」
「えー! なんだよー!」
 桜が笑う。彼女が笑うと、まるで周囲の光が弾けるようだと思う。不思議なひとだ。いつ見ても。
「まぁいいや。それより今日、晴れてよかったね」
「ねっ! 晴天! 嬉しい!」
 無邪気な笑顔を向ける彼女につられて、僕も微笑む。
「じゃあ、行く?」
「うん!」
 僕たちはネコ太郎をひと撫ですると、神社を出て駅方面へと向かった。
 今日はこれからJR宇都宮うつのみや線を使って、宇都宮駅へ向かう。そして、市内の映画館でデート予定の涼太と志崎さんの様子を見守るといったものだ。
「……で、ふたりの援助って具体的になにするの?」
「うん! それはまぁこれから話すけど。……あ、でもその前にちょっと喉乾いたから、カフェ入ろうよ。行ってみたいところがあるんだ。駅前のお店なんだけどね、大正時代に銀行だった建物をそのまま使ってるんだって!」
 話題を逸らされてしまった気がするが、まぁ彼女が楽しそうだからいいか、と僕はそれ以上追求することなく、彼女を追いかけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

熱のない部屋で

中道舞夜
ライト文芸
合鍵預かってくれない?から始まる同期との恋。もどかしい純愛ラブストーリー

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

鳥籠の花嫁~夫の留守を待つ私は、愛される日を信じていました

吉乃
恋愛
美しさと華やかさを持ちながらも、「賢くない」と見下されてきたカタリーナ。 格式ある名門貴族の嫡男との結婚は、政略ではないはずだった。 しかし夫はいつも留守、冷たい義家族、心の通わない屋敷。 愛されたいと願うたび、孤独だけが深まっていく。 カタリーナはその寂しさを、二人の幼い息子たちへの愛情で埋めるように生きていた。 それでも、信じていた。 いつか愛される日が来ると──。 ひとりの女性が静かに揺れる心を抱えながら、 家族と愛を見つめ直しながら結婚生活を送る・・・ ****** 章をまたいで、物語の流れや心情を大切にするために、少し内容が重なる箇所があるかもしれません。 読みにくさを感じられる部分があれば、ごめんなさい。 物語を楽しんでいただけるよう心を込めて描いていますので、最後までお付き合いいただけたら光栄です。

処理中です...