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第4章・降り積もる違和感
第20話
しおりを挟むそして、日曜日がやってきた。
約束の時間になって、僕は紫之宮神社へ向かった。
すっかり青々とした葉に彩られた参道を進み、桜の木がある能舞台へ向かうと、そこには白いワンピースの女の子の姿。
さらに、足元には小さな黒い影。千鳥さんと黒猫だ。
青葉となったみずみずしい桜の木の下で、黒猫とじゃれ合う彼女は、相変わらず浮世離れした美しさを放っている。制服でないから余計そう思うのだろうか。それとも、ほかになにか理由があるのだろうか。
僕は足を止めて、絵画のようなその光景に魅入った。
風が彼女の髪やワンピースの裾をさらうたび、光がこぼれるように白い肌がちらつく。
柔らかな光に包まれたその横顔に見惚れていると、おもむろに桜が振り向いた。目が合う。
「あっ、汐風くんみーつけたっ!」
千鳥さんは僕に気付くと、嬉しそうに僕を指さした。その瞬間、心臓が大きく脈を打った。
桜の木が揺れ、木の葉が音を立てる。一瞬、なにかが脳裏を掠めたような気がして、動きを止める。
なんだ、今の。なんか、覚えがあるような……。
「おーい、汐風くん?」
ぼんやりしていると、桜がもう一度声をかけてくる。我に返った。
「あ、うん。今行く」
形の見えない違和感のようなものが気になりつつも、僕はそれを頭の隅に追いやって、一歩先の砂利を踏んだ。
「今日はネコ太郎もいますよー」
僕が行くのが待ちきれなかったのか、桜の木の下にしゃがみ込んでいた彼女が、黒猫の前足を握って僕に手を振る仕草をする。可愛い。
……というかちょっと待って。
「ネコ太郎って……いつのまにコイツ、そんな名前がついたんだ?」
「今付けた!」
弾ける笑顔で彼女が答える。
「……え、じゃあせめてネコはとってあげたら?」
言われなくてもこいつ、猫だし。
「えっ! なんで? ネコ太郎可愛いじゃん。ねぇ? ネコ太郎?」
桜は黒猫――もといネコ太郎に問いかける。ネコ太郎はにゃあと鳴いた。
「いや……猫にネコって。というかその子、メスじゃない?」
「えっ!? うそ!?」
その驚愕した顔が面白くて、僕は耐えきれずに噴き出した。
「ふふっ……うそ。知らない」
「えー! なんだよー!」
桜が笑う。彼女が笑うと、まるで周囲の光が弾けるようだと思う。不思議なひとだ。いつ見ても。
「まぁいいや。それより今日、晴れてよかったね」
「ねっ! 晴天! 嬉しい!」
無邪気な笑顔を向ける彼女につられて、僕も微笑む。
「じゃあ、行く?」
「うん!」
僕たちはネコ太郎をひと撫ですると、神社を出て駅方面へと向かった。
今日はこれからJR宇都宮線を使って、宇都宮駅へ向かう。そして、市内の映画館でデート予定の涼太と志崎さんの様子を見守るといったものだ。
「……で、ふたりの援助って具体的になにするの?」
「うん! それはまぁこれから話すけど。……あ、でもその前にちょっと喉乾いたから、カフェ入ろうよ。行ってみたいところがあるんだ。駅前のお店なんだけどね、大正時代に銀行だった建物をそのまま使ってるんだって!」
話題を逸らされてしまった気がするが、まぁ彼女が楽しそうだからいいか、と僕はそれ以上追求することなく、彼女を追いかけた。
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