虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

登録試験

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 傭兵の登録試験に呼び出した大男に付いて行き、扉を潜ったエリクが歩きながら感じたのは、地下へ降りていく感覚だった。
 微妙に降っていく床を感じつつ数分歩くと更に大きな扉があり、開かれた扉をエリクは潜っていく。
 するとそこには、広い地下空間が広がっていた。

「ここは……」

「ここが審査会場だ。ここで、お前の強さを見させてもらう」

「魔物と戦わせる為の場所か」

「ベルグリンド王国にそんな場所もあるらしいが、ここは道楽で作られた闘技場だったのをギルドで改装して作り直した、傭兵ギルドの審査会場だ」

 エリクは周囲を見回しながら、この場所の事を聞いた。
 そのまま歩いて中央まで歩き土と表面に砂が敷かれた円形状の審査場に立つと、案内してきた大男は下がり、黒い外套を羽織った男がその大男の影から出現した。
 驚いたエリクは即座に警戒したが、影から出て来た男はニヤけながらエリクに向かって告げた。

「それでは、これより審査を開始する。試験を担当するドルフだ」

「……そうか。俺はエリクだ」

「エリクか。さっきアリアという魔法師の娘が言っていたのは、お前の事だな」

「何か言っていたのか?」

「頼もしい相棒だと言っていた。審査を無事通過できる事を願おう」

 そう告げた試験官のドルフは、中央から端に移動しながら話しつつ説明した。

「今からお前には、俺が作り出す魔物と戦ってもらう。審査は俺と、会場の端で見ている他の試験官達が確認し、審査する」

 そう聞かされたエリクは改めて会場の周囲を見ると、幾人かの視線を感じた。
 元決闘場だけありリングとなる中央の周囲には、観覧席となる場所が存在するらしい。
 それを確認したエリクは疑問を口にした。

「お前が、魔物を作り出す?」

「俺は闇魔法の使い手だ。闇魔法には魔物を擬似的に形作り、生み出す事が出来る魔法がある。勿論、俺が魔法を解除すれば、魔物は消える」

「……そ、そうか」

「お前には、まずこの魔物と戦ってもらう」

 端に移動した試験官のドルフは、何かを小言で呟いた。
 すると周囲の魔力で魔法を形作り、ドルフの肉体を媒介に発現した。

「――……『陰影なる闇の怪物シャドウ』」

「!」

「……これが、俺の闇魔法で生み出した魔物だ」

 ドルフの影から生み出されたのは、狼の姿をした一メートル前後の魔物。
 樹海で出会ったワイルドウルフに近い姿の狼に黒い影が塗られたような魔物の姿に、エリクは驚きの視線を向けた。

「本当に、魔物を作り出せるんだな」

「お前、闇属性の魔法を知らないのか?」

「ああ」

「闇属性の魔法は基本的に、自分の影を起点に発動させる。自分や相手の影を利用して幻影を作り出したり、異なる形を模倣したりするんだ」

「……そ、そうか」

「俺の闇魔法の影の魔物は、俺が戦った事のある魔物や魔獣を模倣し作り出せる。消耗具合は模倣した対象の強さに比例するが、最下級の魔物程度なら何度も模倣できるんだ。この影の魔物と、お前には戦ってもらう」

「分かった」

「念の為に言っておくが、ここで怪我をしようが、傭兵ギルドでは一切の責任は負わない。自分で治療して自力で怪我を治せ。そこらへんは、加入用紙に書いてあっただろ?」

「……あ、ああ」

 ドルフの言っている事を上手く理解できないまま、試験として闇魔法で生み出された影狼を、エリクは倒す事になった。
 軽く首を動かして指示するドルフは、影の魔物を移動させてエリクと対峙させた。

「それじゃあ、そいつを倒してみせろ。――……始め!」

 ドルフの開始の合図と共に、エリクが素早く走り出した。
 その速度と反応の速さに驚くドルフは、作り出した影狼を思考で動かし迎撃させようとする。
 しかし背中から引き抜いた大剣が影狼を薙ぎ、数十メートル先の壁まで吹き飛ばした。

「な……っ」

「これで、いいか?」

 背中に大剣を戻したエリクは尋ねるように聞くと、驚きを含んだ視線で試験官のドルフは見ながら口元を微笑ませ、冷や汗を流した。

「……驚いたな。この影狼を一瞬で倒したのは、今日で二人目だ」

「一人目は、アリアか」

「そう、お前の相棒だ。まったく、どっちも凄まじい反応速度をしてやがる」

「次の試験は、試験官と一対一か」

「……そのつもりだったが、あの魔法師のお嬢ちゃん同様に、試したい」

「試す?」

「俺が生み出す影の魔物の中でも、最上級の魔物を生み出す。そいつを倒してみろ」

「いいのか?魔法は疲れるんだろう」

「ああ。コイツを出したら、俺はもう次の試験を担当できない。お前で打ち止めだ。まぁ、残りは他の試験官に試験を担当させればいいだけだ」

 そうしてドルフは影狼を地面へ沈めるように消滅させ、自身の影の中に戻した。
 そして次に唱える魔法を詠唱した。

「――……『暗き重いツヴァイ陰影なる闇の怪物シャドウ』」

「!」

「……ハァ、ハァ……」

「……リザードか」

「ああ。俺が生み出せる最も強い影の魔物。影の蜥蜴シャドウリザードだ」

 ワニを連想させる見た目の、黒い鱗肌に覆われた影で生み出されたリザード。
 体長は二メートルを軽く超え、危険指定が非常に高い魔物。
 それを生み出す為にかなりの消耗を見せる試験官のドルフは、先程と同じようにシャドウリザードを移動させた。
 そしてエリクと対峙させた。

「こいつは、お前の相棒でも少し手こずったな。だが氷の魔法で凍らせた上で、砕き割ったぞ」

「そうか」

「お前の大剣。頑丈そうだが、このリザードの皮膚も頑丈だ。今度は振った程度で吹き飛ばされる体格でもないぞ」

「早く始めよう」

「……余裕じゃないか。それでは、開始だッ!!」

 余裕のエリクに真剣な表情を浮かべたドルフが開始の合図をすると同時に、シャドウリザードにに指示を送った。
 口を大きく開けたシャドウリザードは、体内から熱量を生み出し炎を吐き出した。

「!」

「そいつはただのリザードじゃねぇぞ。フレイムリザード、炎を吐き出す蜥蜴だ!」

 魔物のリザードではなく中級魔獣に類されるフレイムリザードを生み出し、エリクを炎の火球で襲った。
 目の前に迫る火球を大きく横に跳び避け大剣を抜き放ったエリクと同時に、ドルフはシャドウリザードに命じて火球の追撃を行う。
 それを縦横に避けきるエリクに向けて、ドルフは声を張り上げながら伝えた。

「その火球を防ぐ為に、さっきのお嬢ちゃんは水の魔法を使ったんだ。だがお前さんは水魔法を使えない。防ぐ手立てはないな!」

「……」

「もし降参しても、あの影狼を一瞬で倒した腕前は認めて合格は出来る。どうする、倒せないと認めるか?」

「……いや、もういい」

「降参か!」

「もう、そいつの動きは覚えた」

「え……」

 避け続けていたエリクが大剣を構えたまま直立して立ち、そうドルフに向けて伝えた。
 ドルフはそれに驚きながらも口元をニヤリと歪ませて、シャドウリザードに火球を打ち出させた。

「そうか。なら一度、痛い目に遭っておくんだな!!」

 シャドウリザードが新たな火球を、同時に三個もエリクに向けて撃ち放った。
 正面と左右に打ち放たれ逃げ場の無いエリクだったが、それに対して突っ込むように突撃した。

「なに!?」

 ド三つの火球の間をすり抜け一気にシャドウリザードの間合いに入ったエリクに、ドルフは驚きを隠せなかった。
 咄嗟に屈強の顎を持つシャドウリザードに、大口を開けてエリクを噛ませようとする。
 しかしエリクはそれさえ跳び避け、抜き放っていた大剣を中空で大振りさせると、地面の落下を利用して大剣を振り上げ、体重と落下速度を加えて振り下ろした。
 大剣に直撃したシャドウリザードの頭は粉砕され、闇魔法で生み出されていた魔物の肉体は消失した。

 ドルフは驚きを隠せず、周囲で見ていた他の試験官達も口を開けて呆然としたまま、勝利したエリクを見ていた。

「これで、審査は終わりか?」

「……」

「おい?」

 エリクはドルフに対して問うが、ドルフは精神的な衝撃が激しいのか呆然としたまま固まってしまった。
 再度呼び掛けたエリクの声にやっと気付き、ドルフは驚きの表情でエリクを見た。

「……お、お前。エリクと言ったか?」

「ああ」

「……そ、そうか。お前さん、強いな」

「そうか」

「……合格だ、帝国出身のエリク。ポートイーストの傭兵ギルドのマスターである、この俺ドルフが認めてやる。お前と相棒の魔法師は、今日から【二等級】傭兵だ」

「二等級?」

「傭兵には格付け、ランクが存在する。雑魚の魔物を倒せる五等級から、上級魔獣を単独で倒せる一等級のランクだ。お前とあの魔法師のお嬢ちゃんは、単独で中級魔獣クラスを倒した。そういう奴には、二等級のランクをギルドマスターとして与える事が出来る」

「二等級だと、五等級より良い事があるのか?」

「まず、依頼の報酬が増える。五等から四等級はギルド依頼で仲介されると半分以上の金をギルドから取られるんだが、三等級からは危険度と依頼金額が増えて、二割分しかギルドに収めなくていい。依頼人からの報酬を八割の金額で貰えるんだ」

「……そ、そうか。凄いな」

「それに、実力に見合った高ランクの依頼を受ける事が出来る。二等級だったら、さっきみたいな中級魔獣のフレイムリザードのような魔物の討伐依頼が単独でも可能だ。二等級の複数で組むなら、上級魔獣の討伐依頼も受けれるぜ」

「……そうか。つまり俺とアリアは二等級で、上級魔獣の討伐も出来るのか」

「ああ。お前さん二人は、傭兵ギルドの新しいメンバーだ。宜しく頼むぜ!」

 ドルフに歩み寄られつつ、肩を叩かれて期待を込められたエリクは、詳しく理解できない内容を聞きながら内心で冷や汗を掻いていた。
 今のエリクは魔物や魔獣と戦うよりも、難しい言葉を理解する方が最も難しい試験だった。

 こうしてエリクとアリアは、無事に試験を合格して【二等級】のランクを持つ傭兵となった。
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