虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

審査の合否

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 次の日、エリクとアリアは再び傭兵ギルドへ赴いた。
 昼頃に訪れた二人は建物内の人々の動きを警戒しつつ待っていると、ギルド内にエリクほどの巨漢の男が奥から現れた。
 その人物が声を張り上げながら、室内に声を響かせた。

「それでは、審査試験を開始する! 名前を呼ばれた者は試験場へ付いて来い」

 そう張り上げた声を聞いた周囲の人物達で、待っていたように姿勢を崩して注目する面々が出てきた。
 彼等も自分達と同じように審査を受けるギルド加入者なのだとアリアは考え、同時に面倒臭い事態だと思った。

「マズいわね」

「ん?」

「多分、一人ずつが呼ばれる審査方式なんだと思うわ。傭兵としては、自分の手の内を公衆の面前で見せるような審査方式を行うわけが無いとは思ってたけど、個人審査の形式なのね」

「どういうことだ?」

「私とエリクは別れて審査を受ける事になるの。その最中にお互いに離れちゃうから、助け合えないってこと。そして……」

「……奴等が捕えに来たら、別々に拘束されるということか」

「そういうこと。だからマズいわね……」

 審査の方式を推測し確認するアリアは、個別に審査を受けた最中に捕えられる危惧を抱いた。
 それをエリクと共通認識した後に、アリアはエリクを見ながら尋ねた。

「そのまま行くか、それとも中止するか。どうした方がいいと思う?」

「……ここで審査を受けなければ、怪しまれないか?」

「そうなのよね。受けなきゃ怪しまれるし、受けたら捕まるかもしれない。どちらにしても危険は生まれてしまう」

「なら、受けるべきだろう。どちらにしても、賭けだ」

「そうね。……エリク、拘束されそうになったら大人しく捕まって。私も大人しく捕まるから、最悪のパターンは免れましょう。捕まっても私が意地と我がままで、貴方を助けるからね」

「……分かった。そうなったら、君を頼るとしよう」

 そうした会話を端で話しつつ、審査となる試験が始まった。
 審査を受ける一人一人の名前が呼ばれ、試験官と思しき男に連れられて部屋の奥に入っていく。

 一人が入ると約三十分前後で出て来て、試験を合格した者は受付に行き、合格しなかった者は傷付いた姿を見せながら、そのまま傭兵ギルドから出て行った。

「エリク。三十分経ってもどちらかが出てこないなら、そういう事だと思ってね」

「分かった」

 前もってそう伝え、互いに試験を臨む上での覚悟を見せた。
 そして五人目の名前が呼ばれた時、ついに一人の名前が呼ばれた。

「ガルミッシュ帝国出身、アリア。審査を行う、前に!」

 高らかに名前を呼ばれたアリアはエリクの横から去るように進み、小声で告げた。

「……じゃあ、行ってくる」

「ああ」

 短い受け応えながらも、アリアをエリクは見送った。
 そして呼ばれたアリアが歩む中で、周囲から冷やかしの声が聞こえて来た。

「おい、今度はあんなお嬢ちゃんだぜ」

「可愛いね、お嬢ちゃん。今晩どうだい!」

「痛い思いしない内に、帰った方がいいぜぇ」

「痛い思いより、今夜は俺のベットにでも来れば、気持ちいい目に遭えるぜぇ!」

「バーカ、お前のじゃ気持ちよくなんねぇだろ。小さすぎてなぁ」

「何をぉ!!」

 そんな冷やかしの声を浴びながらもアリアは表情の一つも緩める事は無く、また怪訝そうな顔すら見せずに、試験官の男の前に辿り着いた。

「帝国出身のアリアで、間違いは無いな?」

「はい」

「用紙には、魔法師と書いてあるな」

「はい。魔法を幾らか使えます」

「なら、それ相応の試験を受けてもらおう。付いて来い」

 軽い問答の後に試験官の男について行くアリアは、軽い冷やかしを再度受けながら、奥の扉を潜った。
 そしてエリクはアリアの帰りを待つ。
 しかし約三十分が過ぎながらも出て来ないアリアを気にしだすエリクは、やはり捕えれたのだと思った。
 そうして諦めようとした瞬間。
 奥の扉が再び開かれ、試験に読んだ大男とアリアが現れた。

「素晴らしい魔法と体術だった。君のように優秀な魔法師は初めて見た。これを持って、あちらの受付で合格の手続きをするといい」

「はい、ありがとうございます」

 入っていった時と若干態度が緩和した大男が、アリアの魔法を褒めつつ合格を言い渡して羊皮紙を渡した。
 それに周囲は僅かに驚いている。

 ここまで試験を受けたのは五名。
 その内に合格したのはアリアを含めて二名のみ。
 二人目の合格者が若い女の魔法師だと驚き、その場に居る傭兵達が違う興味を示したのだ。
 そして合格手続きの受付に赴く前にアリアはエリクの元まで戻り、合格を伝えた。

「お待たせ。大丈夫だったわ」

「そうか」

「試験方法は、試験官と一対一で戦ったり、魔物みたいなのと戦わせて対処方法を見たりだったわ。魔法が使えると、どの程度の威力がある魔法を使えるかも見せられたわね」

「他の奴等より時間が掛かったのは、魔法の試験もあったからか」

「うん。まぁ、私の手に掛かれば、こんな試験なんて楽勝よ、楽勝」

「そうか。なら、俺も頑張らないとな」

「貴方なら楽勝よ。頑張ってね」

 エリクを称えつつ励ますアリアは、用紙を持って合格の手続きに向かった。
 そして受付に向かう短い道のりの最中に、何人かの傭兵がアリアに話し掛けた。

「お嬢ちゃん、どうだい?俺と組まないか」

「魔法使いなんだってな。俺と組めば、楽させてやるぜ」

「丁度ウチのパーティに空きがあるんだ。どうだい?」

 様々な思惑を感じさせる誘いを受けながら、アリアは受け流すように笑顔を向けつつ、待っているエリクの方へ指差しながら教えた。

「私、あちらの男性と既に組んでいますので」

「ああ? あんな奴より、俺等と……」

「彼。元々は帝国騎士で、隊長を務めてたんですよ。非常に優秀な戦士なの」

「て、帝国の元騎士隊長……?」

「アレが、か……」

 エリクの偽りの肩書きを聞かされた何名かが、驚くようにエリクに視線を向けた。
 そして当のエリクはアリアを監視する為に睨むように凝視していたので、そういう輩と目が合い、相手を萎縮させた。
 合格の手続きを終えたアリアがエリクの下へ戻った時、傭兵である彼等が萎縮した理由を話した。

「帝国って、基本的に貴族も平民も実力さえあれば上へ行ける、実力主義の社会だから。家柄や血筋だけで重要な役職になんてなれないの。そんな実力主義の厳しい帝国で、騎士隊長を務めてたなんて聞いたら、聞いただけで実力は証明されたようなモノなのよ」

「そうなのか。帝国は凄いな」

「王国って、そういうの無かったの?」

「無かったと思う。戦場は基本的に、貴族が指揮していた。俺達のような傭兵は、それに従って戦っただけだ」

「へぇ。貴族自らが前線に立つの?」

「いや。貴族は大体は後方で、危ないとすぐに逃げる。俺達のような平民と傭兵が前に立って戦う」

「やっぱり最悪ね、王国の貴族って」

「だが、すぐに逃げてくれるのは助かる。俺達もすぐに逃げられるからな。貴族の逃げ足は、速い方がいい」

「そっか。逃げ足が速いのも考え物だけど、そういう面では助かるのかしらね」

 そんな話をしていると、ついにエリクの名前が呼ばれた。

「ガルミッシュ帝国出身、エリク。審査を行う、前へ!」

 ついに名前を呼ばれたエリクがアリアの横から移動する。
 その背中を軽く叩きながら、アリアはエリクを鼓舞した。

「いってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

 この日。
 王国傭兵の戦士エリクが、傭兵ギルドで行う試験に初めて挑む日となった。
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