虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

昔の仲間達

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 その日の夜。
 マチスに指定された宿屋の酒場に向かい、昔の傭兵仲間達を待つエリクとアリアは、軽い食事を頼みながら席に座って待っていた。

 そして昨日出会ったマチスが入り口を潜るのが見え、後を追うように続々と集団が酒場に入って来る。
 マチスを含めて全員で七名。
 その中に一人だけ、赤髪の長身の女性が混ざっていた。
 マチスはエリクとアリアを見つけると、それ等を伴いながら座っている席まで訪れた。

「エリクの旦那、それにお嬢ちゃん。待たせたな」

「ああ」

「皆、ほら見ろよ。ケイルみてぇな赤髪だけど、エリクの旦那だぜ」

 アリアの魔石に拠る魔法の偽装で赤髪に変化しているエリクを見て、最初は戸惑うマチスの連れ立った者達は、やっと目の前の男がエリクだと察した。

「エリクの兄貴、元気だったか!?」

「旦那、久し振りだな!」

「相変わらずデッケェなぁ、旦那!」

 そうして声を掛けていく昔の仲間達を見て、エリクは立ち上がって迎えた。

「久し振りだ。えっと……」

「あっ、エリクの旦那。また名前忘れてるぜ」

「ひでぇよな。毎回だけど」

「まぁ、しょうがねぇよ。エリクの旦那だからな」

「ハハハッ!!」

 エリクが名前を口に出すのに詰まると、まるでいつもの様に笑い飛ばす昔の傭兵仲間達の様子に、アリアは若干の違和感を持った。

 しかし思い出したのは、始めに出会った頃のエリク。
 エリクはアリアの短い名前を呼ばず、君などの言葉でアリアを指し示す場面が多かった。
 恐らくエリクは今まで、人の名前を覚えるのが苦手だったのだとアリアは察した。

 その中でエリクの前に出てきたのは、ケイルという名の赤髪で長身の女性と、白髪混じりで髭面の壮年の男性だった。

「エリク、久し振りだな」

「久し振りだ、ワーグナー。それに……」

「ケイルだよ。いい加減、名前くらいは覚えて欲しいんだけどさ。ワーグナーやマチスは覚えてるのにさ」

「すまん。今度から覚える」

 愚痴を零す赤髪のケイルと、髭面のワーグナーという男性と話しつつ、エリクは口元を微笑ませた。
 そしてエリクは振り返り、アリアに向けて紹介した。

「アリア。彼等が王国の時に一緒にいた、仲間達だ」

「初めまして。エリクと組ませて頂いてます。アリアです」

 エリクの紹介に簡素な挨拶で応えながらも丁寧に御辞儀をして話すアリアを見て、傭兵達は違う意味で驚いていた。

「エリクの旦那が、名前を覚えてるだと……」

「この嬢ちゃん、すげぇな」

「えっ、そっちで驚くの?」

 思わず突っ込んだアリアの声に応え、傭兵仲間達が顔を見合わせながら話した。

「いや、だって。エリクの旦那が名前を覚えるのは、かなり長い付き合いのワーグナーとマチスぐらいなんだ」

「付き合いが浅い奴と、五文字以上の名前は長すぎて覚えられないってのが、エリクの旦那だからなぁ」

「俺達、付き合いが浅かったり名前が五文字以上だもんなぁ」

「でも、顔は覚えてもらえれば、気にはしねぇよ」

 そんな事を笑い混じりで話す傭兵仲間達の言葉を受け、アリアはエリクの方へ顔を向け、エリクが顔を逸らした。
 彼等が述べている事が事実だとエリクの態度で知れたアリアは、呆れつつも今後の課題として覚えておく事にした。

 その中で赤髪女性のケイルだけが、面白くない顔をしてアリアに凄味つつ話し掛けた。
 それにアリアは動じずに、貴族対応の笑顔面で応えた。

「アンタかい。マチスが言ってた貴族の御嬢様ってのは」

「はい。元ですけれど」

「エリクに名前を覚えられたからって、いい気になるんじゃないよ」

「別に、そういう事は気にした事がありませんから」

「なにぃ……」

「それに今のエリクだったら、帝国文字で簡単な文字なら書けますし、自分の名前も目を瞑って書けるんですよ」

「は?」

「今ならケイルさんの名前を覚えるくらい、覚えるのも書くのも簡単ですよ」

「……何を言って……」

「数字の計算も、三桁の足し算と、一桁の掛け算まで使えるようになりましたよ。簡単な会計支払いも、自分で計算して出来るようになりました」

「……え?」

 その言葉を聞いた瞬間、ケイルを始めとした傭兵達が固まった。
 信じられていないと察したアリアは、鞄にあるペンとインク入りの小瓶をエリクに差し出し、机に羊皮紙を置いて証明させた。

「エリク、貴方の成長を見せなさい」

「あ、ああ」

そうして書き出したエリクの様子を見て、傭兵仲間達は全員が驚いていた。

「……これで、いいか?」

「うん。……はい、皆様。これが証明です」

 エリクの書いた羊皮紙を差し出された傭兵達は、戦々恐々とした表情と面持ちでそれを見て絶句しながらも、辛うじて数人が声を漏らした。

「……本当だ、文字だ……。帝国語だけど……」

「エリクの旦那が、数字の計算が出来てる……」

「な、何がどうなってんだ……」

 傭兵仲間達の全員がそういう態度であり、文字も書けなかったというエリクの話が全て本当だったのだとアリアは知れた。
 しかしエリクを成長させたのが自分だという自信をアリアは自らに誇りつつ、エリクに向けて微笑んだ。
 そんなアリアと周囲の様子に、内心で戸惑い冷や汗を流すエリクは、久し振りの昔の仲間達と再会できたのだった。
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