虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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逃亡編 三章:過去の仲間

再会の束の間

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 エリクは傭兵仲間達と再会を果たし、それに付き添うアリアはエリクの成長を見せた。
 それに仲間達は驚きを見せつつも、久し振りの再会を酒と共に楽しんだ。

 そこでアリアが視線として釘付けになったのは、自分自身の手元にも置かれた発泡酒だった。
 エリクや周囲の者達が発泡酒を平然と飲む中で、木の杯に酌まれた発泡酒を見つめつつ、悩む様子をアリアは見せた。
 そんなアリアの様子に、エリクが気付いた。

「どうした?」

「エリクは、御酒が飲めたのね」

「ああ。……君は飲めないのか?」

「ワインは飲んだ事あるけど、こういう発泡酒は初めてなの。どんな味なの?」

「よく、分からん」

「よく分からない味なのに飲んでるの?」

「少し苦いだけだ。それに俺は、これを飲んでも酔ったことがない」

 エリクの証言が信用できない無いモノだと察したアリアは、怪訝な表情で発泡酒を見つめた。
 その様子を見たマチスが、笑いながらアリアに話し掛けた。

「なんだ、お嬢ちゃん。まだ酒が楽しめる歳じゃなかったか?」

「帝国だと、成人の歳は十六歳だから飲めるわ。ワインだって飲んだことあります」

「ワインは確かに美味いが、こういう発泡酒は大人の美味さって奴なんだぜ。始めは苦いが、喉越しや苦味と一緒に痛快な気持ち良さがあるんだ」

「ふーん……」

 そのマチスの話を聞いていた赤髪のケイルが、飲み終えた木の杯を強めに机に置きながら、アリアに向けて言い放った。

「なんだい。飲めなきゃアタシに寄越しな。小娘は小娘らしく、ミルクでも頼みなおしてあげるよ」

「むっ。いいえ、飲みます」

「無理すんなよ」

「無理じゃありません」

 ケイルの挑発にも似た言葉でつい意地を優先させたアリアが、木の杯を口に運んで発泡酒を飲んだ。
 一瞬、目を見開いて苦さで表情を歪めたが、それでも飲み続けて一気飲みを果たすと、エリクの傭兵仲間達は感心の声を漏らした。
 その中で感心と共に声を掛けたのは、この集団でリーダー的役割を持つワーグナーだった。

「嬢ちゃん、中々に飲めるな」

「コホ、コホ……ッ。私、嬢ちゃんじゃ、ありません。アリアです」

「そうか。んで、エリクに文字や言葉、数字の計算も全部、アンタだけで教えてたのか?」

「ええ。エリクは、ちゃんと頑張ってましたよ」

「しかし、実際に目にしても信じられん。あのエリクがなぁ」

「……皆さんで、エリクに文字や言葉、計算を教えようとしなかったんですか?」

「何度か俺が教えようとしたんだが、エリクの奴がやりたがらなくてな。そんな事をやる暇があったら、剣を振る方が戦場じゃ役立つってな。武具の手入れは戦場で必要だから覚えたんだが、備品の買出しなんかは俺達がやってたんだぜ」

「……」

 ワーグナーの話を聞いたアリアが、話題であるエリクを睨むように視線を向けた。
 その視線を回避するように顔を横に向けたエリクに、アリアは呆れつつ溜息を一つだけ吐き出した。
 そして話題を逸らす為なのか、エリクから仲間達に話題を振った。
 それに応えたのはワーグナーだった。

「そ、それより。俺と別れてから、何があったんだ?」

「ああ。お前と別れてバラバラに逃げた後。王国の港方面で合流したんだ。てっきりお前も、同じく港を目指すとばかり思ってたんだがな」

「王国の港、か。俺と逆方向に逃げていたのか」

「王国の奴等。エリクの方を優先して狙ってやがったのか、港の方が追っ手が少なかったんだ。結果的に言えば、お前を囮にしちまったな。すまん」

「いや、いい。俺は俺で、追っ手はどうにかできた」

「そして港から出てる定期船に乗って、俺達はこの東港町に逃げ込んで、傭兵ギルドに加入したんだ」

「俺とアリアが辿った、真逆の経路で辿り着いたということか」

「ちなみに、俺とマチスとケイルは三等級、他の奴等は四等級として合格した。だが、お前等に記録を塗り替えられちまったな。エリクとアリアのお嬢ちゃんは、二等級だってんだからな」

「俺は、普通に戦っただけだ」

「その普通がスゲェんだよ。王国に居た頃には、単独で上級魔獣ハイレベルを倒してたんだ。二等級どころか、一等級に認定されてもおかしくないんだぜ。エリクは」

「そうなのか」

「そうなんだよ。まぁ、これからコツコツと実績を積んでいけば、エリクとアリアの嬢ちゃんなら一等級になるのも時間の問題だろ。この辺は樹海から出てくる魔物や魔獣が多い。依頼にも獲物には困らないさ」

 そうワーグナーが話しつつ酒を飲むと、エリクとアリアが手を止めて顔を見合わせた。
 それに気付いたマチスが、改めて傭兵仲間達に伝えた。

「ワーグナー。実はエリクの旦那とアリアのお嬢ちゃんは、南の国に行くらしいんだ。だからこの港町には、残らないらしい」

「なに、南の国っていうと、マシラか?」

「しかも二日後に、既に出航予定も出てるんだ」

「二日後にか!?」

 それを聞いたワーグナーを始めとして、ケイルや他の仲間達も驚きの顔を見せた。
 特にケイルは詰め寄るように机越しに身を乗り出し、エリクに迫りつつ話し掛けた。

「エリク、本当か!?」

「ああ。俺はアリアと一緒に、南の国に行く」

「マシラに行くのかよ。どうしてまた……」

「アリアと俺は、まだ追われている。追っ手を振り切るには、南の国に行くしかない」

 ケイルが尋ねるようにエリクに話し、他の仲間達は引き止めるように口を開いた。

「エリクの旦那。この町に居れば安全だよ」

「何も南まで行く必要はねぇって。なぁ?」

「そうだぜ、エリクの兄貴。俺等とまた一緒にやっていこうよ」

「【黒獣】傭兵団、また再結成だ!」

 そう笑いつつ話す他の傭兵仲間達の顔を見て、エリクは少し言い淀むように口を開いたが、話す事を躊躇して口を閉じた。
 その様子に気付いたワーグナーが、エリクに対して聞いた。

「何か、他にも南に行く事情があるのか?」

「ああ」

「どういう理由だ。教えてくれ」

「……」

 教えるべきかを自身で決めないエリクは、横に居るアリアに目を向けた。
 それを受けたアリアは、ワーグナーと傭兵達に向けて話し始めた。

「……エリクが喋らない理由は、私にあるからです。ワーグナーさん」

「アリアの嬢ちゃんに?」

「私も、私の父親に追われる身であると同時に、このまま帝国の手が届かぬ場所に出なければ、殺されるかもしれない立場になったからです」

「!!」

「ここからは、貴方達に巻き込みかねない事情になります。それでも聞きますか?」

「……」

 真剣な表情と言葉を伝えるアリアに、ワーグナーを始めとした傭兵達が顔を見合わせた。
 そして全員が木の杯に注がれた酒を飲み干し、アリアに向けて耳を傾けた。
 それを代表して、ワーグナーが伝えた。

「話してくれ」

「……分かりました。エリクも、話して良い?」

「ああ」

「なら、貴方達を信頼出来る方達だと見込んで話します。実は――……」

 そうして、アリアはエリクの仲間達に事情を話した。
 自分の身分が帝国領最大派閥を持つ、ローゼン公爵の娘だということ。

 そしてローゼン公爵の政敵であるゲルガルド伯爵が、自分を逃がす依頼に多額の報奨金を用意し、傭兵ギルドへ依頼を出していること。
 その裏では、逃がす事に失敗した場合に備え、アリアの暗殺も依頼されているということ。
 このまま帝国領に留まり続けるのは危険であり、アリアがこの大陸に留まり続けることが不可能だということ。

 それ等の情報を全て、アリアはエリクの仲間達に伝えた。
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