496 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争
少年の考察
しおりを挟むグラド率いる第一部隊から第五部隊の同盟国軍とケイルが、都市北部の工場地帯に赴き魔導人形製造施設の破壊と戦闘を繰り広げる前。
準備を整えたシルエスカ率いる第六部隊から第十部隊の約二百五十名の兵士と戦車八台が、グラド達の出立から十数分後に箱舟から離れ、マギルスとエリクも同行しながら都市中央部へ向かっていた。
都市外縁は低く旧建物などが多く残されていた場所だったが、中央に近付くにつれて増築されて聳え立つ金属の高層建築物が増えていく。
そしてグラド達と同じように都市の住民が消え失せた荒れ果てた都市内部を見ながら、シルエスカは部隊の先頭を歩いて呟いた。
「――……人の気配が無い。……どういうことだ? 住民は何処に……」
「みんな、死んじゃったんじゃない?」
「!」
「ほら。あっちこっちに、血の跡があるもん。すっごく古いから、シミみたいになってるけど」
「……確かに」
その隣を歩くマギルスは、周りを見ながら疑問を述べるシルエスカとそう話す。
二人は周囲の建物や道路に見えるあちこちに黒く変色したシミを見つけ、それが血痕である事を察した。
その血痕の古さは、最近のモノではない。
旧都市の建物と同様、かなり古くに流され黒く変色して付いたモノである事は、同行する兵士達も息を飲みながら自覚する。
しかしそれが解せないシルエスカは、新たな疑問を呟いてマギルスに問い掛けた。
「……だが、血痕があっても死体が無い。……どういう事だと思う?」
「うーん、ゴーレムに捨てさせたんじゃない? ……あっ、それともアレかな!」
「アレ?」
「合成魔人にしちゃったのかもね。どっかに連れて行ってさ」
「!」
「!?」
「だって、魔導国は合成魔獣や合成魔人を作れるんでしょ? 前にアリアお姉さんが言ってたよ」
「……そうか。その可能性もあったか」
マギルスの言葉を聞き、シルエスカと周囲に居る兵士達が表情を強張らせる。
三十年前のルクソード皇国で第四兵士師団を率いていたザルツヘルム師団長の下、秘かに作られていた合成魔獣と合成魔人。
その脅威度は実際に赤薔薇の騎士を率いて合成魔獣を討伐したシルエスカは知っており、マギルス自身も合成魔人と対峙している。
しかし敵の侵略兵器が魔導人形だけとなった十五年間の戦いで、合成魔人という兵器も魔導国は作り出す技術がある事をシルエスカは失念してしまう。
逆にマギルスにとっては三十年前の出来事は一年にも満たない過去であり、その結論にすぐに結び付けられた。
そんなマギルスはシルエスカや他の兵士達に対して、合成魔人をこう述べる。
「大丈夫じゃない? だって合成魔人って弱いし」
「!」
「前に戦ったけど、凄くつまんなかったよ。あの程度なら何百体居ても、お姉さん一人でも倒せると思うよ?」
「……頼もしい限りだが、兵士達にとっては魔導人形同様、脅威になり得る戦力だ。あまり楽観視は出来ない」
「ふーん」
「それに皇国時代に作られていた合成魔人と違い、魔導国が作った合成魔人だ。あるいはその脅威度は、皇国で作られていたモノとは比べ物にならないかもしれない。そう考えるべきだ」
「そっか。強い合成魔人だったら、僕が遊んでもいいかな」
「今回の作戦は、浮遊都市を空から叩き落すのが最優先任務だ。お前達と我の役目は兵士達を地下施設まで誘導し、爆弾設置を援護することでもある」
「要は、強いヤツが出たら僕が倒しちゃっていいんだよね?」
「ああ」
「強いの、いるかなぁ? 魔導人形しかいなかったら、つまんないなぁ」
そう不安にも似た不満を漏らすマギルスに、シルエスカは呆れた溜息を漏らす。
そして各部隊も戦車を伴いながら周囲を索敵し、警戒しながら足を進めた。
その中で、移動している戦車の上に乗り目を閉じて腰を下ろしながら座っているエリクがいる。
戦車の移動音や兵士達の足音を意に介す様子は無く、戦車の振動以外では動く様子を見せていない。
「……」
時折、エリクは目を開けて息を吸いまた瞑る。
それを何度か続ける光景が周囲を歩く兵士達の目に映るが、ただならぬ空気を纏うエリクに兵士は誰も呼び掛けられなかった。
しかし前を歩いていたはずのマギルスが跳躍して戦車の上に乗り、エリクの隣に立つ。
それに気付いたエリクは目を開けると、マギルスから話し掛けた。
「――……ねぇねぇ、おじさん!」
「……どうした?」
「アリアお姉さんのことなんだけどね」
「……」
「僕さ、前にアリアお姉さんを殺そうとした事があるんだ」
「!」
「ほら、マシラでおじさんが魔人化して暴れた時。闘士部隊に捕まったアリアお姉さんが脱走して、僕が追いかけたんだよね。抵抗するなら殺せって、ゴズヴァールおじさんに言われてた」
「……それで?」
「僕ね、初めはアリアお姉さんを凄く弱いと思ってた。魔法師なんて、魔法が使えなきゃただの人間だからね」
「……」
「でも、アリアお姉さんは僕が知ってる魔法師じゃなかった。……殺そうとしたはずの僕が、アリアお姉さんに殺されかけたんだよね」
「……!」
「油断はしてたけど、手加減してるつもりはなかった。でも一気に状況をひっくり返されて、殺されそうになっちゃった。……でも、それだけじゃないんだよね」
「……?」
「僕を殺そうとした時の、アリアお姉さんの目。アレが凄く怖かった」
「怖い……?」
「初めてゴズヴァールおじさんと戦った時も死にかけたんだけど、怖くても凄く楽しかったんだよ。……でも、それとは全然違う。氷漬けにして殺そうとするアリアお姉さんの目を見て、僕は初めて死ぬのが『怖い』としか、思えなかったんだ」
「……」
「だから僕、アリアお姉さんに興味を持ったんだよね。そして、ゴズヴァールおじさんとアリアお姉さんが戦ってるのを見て、アリアお姉さんは自分の実力をわざと隠してるんだって分かったんだ」
「……そうか」
「でも僕が一緒に付いて行ってから、アリアお姉さんはあの目を一度も見せなかった。……僕が見た『アレ』は多分、アリアお姉さんが『敵』にしか見せない顔だったんじゃないかな?」
「……」
「もし記憶が無いアリアお姉さんが、おじさんを『敵』だと思ったら。きっとあの顔を見せて本気で戦うんじゃないかなって、そう思うんだよね」
「……マギルス」
「?」
「俺を、心配してくれているのか?」
「うーん、一応!」
「そうか」
「アリアお姉さんを先に見つけた方が相手をする。早い者勝ちなのは変わらないけど、もしおじさんがアリアお姉さんに先に会って殺されちゃったら。……その時は、僕がアリアお姉さんの首を取っていい?」
「……そうはならないようにするさ」
マギルスはそう話しながら笑い、エリクも口元を微笑ませる。
そして再び先頭へ戻るように跳んだマギルスに対して、エリクも再び目を閉じて集中した。
こうしてシルエスカが率いる同盟国軍は、金属の建築群に覆われた都市中央部に入り込む。
マギルスとエリクは互いの目的の為に、戦うべき相手の事を見据えながら進み続けた。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる