561 / 1,360
螺旋編 五章:螺旋の戦争
神の守護者
しおりを挟む聖杯に見立てた浮遊都市という盃に、瘴気という赤い霧が満たされていく。
各々がその瘴気を感覚的に危険だと察知して逃れる中で、『神』は危険と判断したクロエ達が避難している建物を発見し、黒い翼を羽ばたかせて急降下した。
クロエもまた瞳の予知によって『神』の接近を知り、上空を見上げる。
そして『神』は右手に持つ杖を振り翳し、黒い矛を形成し鋭い視線でクロエを睨み迫る。
「――……アンタを消して、この世の生命を全て終わらせてあげるッ!!」
「……君の願いは、私の願いとは真逆のようだね……」
『神』はクロエを確実に殺す為に自ら手を下す。
それをクロエを見上げながら、互いが抱く願いの相違を寂しそうに微笑んだ。
そして『神』がクロエ達の居る建物を破壊する為に黒い矛を伸ばし薙ぎ、その刃が地面を削り迫る瞬間。
周囲の建物から跳び出し現れた一つの影が、迫る黒い刃に対して金色の光を伴う障壁が生み出し阻んだ。
「――……『我が命で奇跡の盾を成す』ッ!!」
「!」
跳び出した影が生み出す金色の障壁は、全てを腐らせ穿つ黒い矛を防ぎ止める。
それに目を見開き驚いたのは『神』であり、黒い矛が弾かれた拍子に身を翻しながら黒い翼を羽ばたかせて態勢を整え直すと、盾を出現させた人物を目にした。
金色の障壁を展開させたのは、血だらけの姿をしたミネルヴァ。
暗示から解放されたミネルヴァは自分の神であるクロエを守り、偽りの『神』を睨むように見上げていた。
「――……ミネルヴァ?」
「……」
「なるほど、暗示を解いたようね。……残念だわ。使える駒として、最後まで使ってあげようと思ったのに」
『神』はそうした声を漏らしたが、その表情は言葉ほど落胆した様子は無い。
それがミネルヴァに対して向けていた本心であり、またその程度の認識なのは明らかだった。
『神』の真意を向けられたミネルヴァはその場から跳び、クロエと寝ている二人を守る形で前に立つ。
そして『神』を見上げながら旗槍を振り掲げ、初めて纏わせていた旗を解放した。
旗に刻まれいた意匠は、フラムブルグ宗教国家が信奉する『繋がりの神』を象徴したモノ。
数多の色合いを持つ輪を束ね重ね、それを円形に魅せた旗印だった。
そして旗槍を掲げるミネルヴァは、羽ばたき浮遊する『神』に向けて声を張り上げながら言葉を伝える。
「……私が仕えるべき神は、お前では無かった! だが、例えそれが貴様の作為に因る効果だとしても、私が罪を犯し誤っていた事に変わりはない!」
「……」
「しかし、我が神は罪人である私を許してくださった! ……そして、お前も許すと仰っている!」
「……なんですって?」
「ならば私も、その神の御意志に従うまで。――……『我が神の名の下に。我が誓約の名の下に。我が命を賭して、神を守護する』ッ!!」
「……!?」
ミネルヴァは再び身体から金色の光を放ち始め、同時に詠唱する。
その光はミネルヴァの命そのものを代価とし、凄まじい生命力と魔力を含みながらある形を作り上げ、それは周囲一帯を巻き込むように巨大な魔法陣を展開させた。
突如として生み出される金色の光と初めて見せるミネルヴァの魔法に驚愕する『神』は、黒い翼を羽ばたかせながら上空に退避する。
するとミネルヴァを中心に出現した巨大な魔法陣の内部で、金色に輝き光る物体が瞬く間に形成された。
「……これは、まさか……教会……!?」
「――……神を守護する盾であり、奇跡と慈愛を広める聖地。――……『楽園の大聖堂』ッ!!」
ミネルヴァが生み出したのは、秘術魔法の一つ。
自身の生命力と周囲の魔力を代償として、自身を中心とした広大な空間に金色に輝く巨大な大聖堂を築き形成するという魔法。
その巨大さはクロエ達が居る建物すら容易に超えて飲み込み、また周囲の区画さえ飲み込むように包むと、まるで堅牢な城にさえ見える程に巨大な建築物が敷かれた。
しかもその大聖堂が敷かれ築いた空間に充満していた赤い霧は、まるで四散し消滅するかのように散っていく。
それを見た『神』は、下に築かれた大聖堂がどういうモノかを瞬時に理解した。
「――……あの具象した空間そのものが、瘴気の侵入を防いでいる。……私の矛を防いだあの障壁と、同じ作り。……まさかミネルヴァが、こんな魔法を作れるなんて……」
大聖堂が齎している効果を確認し、『神』は予想外の魔法を作り出したミネルヴァに対して苛立ちの表情を浮かべる。
敬うべき神の前で己の正気と使命を思い出し、更に命を賭して守護する事を誓ったミネルヴァに迷いは既に無い。
故に代償の大きい秘術を扱う事を躊躇せず、『黄』の七大聖人としての本領を発揮させていた。
クロエもまた周囲を覆い囲む巨大な敷地と大聖堂の傍で、ミネルヴァの背中を見ながらこう語る。
「……『黄』の七大聖人は本来、守ることに特化している。……この大聖堂こそ、彼女が安心し安全だと思える場所なんだね」
ミネルヴァが成す事を呟く『神』やクロエを他所に、都市の一区画が瞬く間に金色の光を放つ敷地が形成されながら瘴気を遮り、その中心に金色の大聖堂が築かれる。
そして数十秒にも満たない時間で、ミネルヴァとクロエ達の周囲はそれ等の景色に一変していた。
そして大聖堂の前に居るミネルヴァは両手で持つ旗槍を降ろし、更に右手だけに持ち替えて横へ薙ぎ振る。
同時に左膝を崩し傾いたミネルヴァは、旗槍を支えに大量の汗を流しながら大きく息を吐き出した。
それを空から見下ろす『神』は、ミネルヴァの異変に驚く様子は見せずに呟く。
「――……ハァ……。ハァ……ッ!!」
「当然ね。浄化付与までされたこれだけの具象結界を形成すれば、万全ならともかく、その様子だとすぐに――……!」
「ク……ッ!!」
「……チッ」
膝を着け倒れかけていたミネルヴァだったが、旗槍を支えに再び起き上がる。
それを見下ろし舌打ちを鳴らした『神』は、右手に持つ杖をミネルヴァと後ろに居るクロエ達に向けた。
「アンタが作ったこの継続型の展開領域には、大きな弱点がある。――……それは築いた術者本人に、領域が受けるダメージが全て反映されるということよ」
「……!」
「大聖堂は所詮、偽りの『肉壁』に過ぎない。――……今までよく働いてくれたわ。ご苦労様、死になさい」
そう呟いた瞬間、『神』は魔力で形成した光球を周囲に作り出し、杖を振り下ろすと同時に数え切れない光球が大聖堂を襲来する。
それを見たミネルヴァは傷付き消耗した肉体を無理に動かしクロエ達の方へ跳んだ後、寝ているケイルとマギルスを両手で掴んで扉が開いた大聖堂の中に投げ込み、更にクロエの華奢な身体を抱えた。
「失礼!」
「!!」
ミネルヴァはクロエを抱えたまま大扉を抜け、四人は大聖堂の内部に入る。
そして大扉が自動的に閉まるのが間に合うと、外から数多くの衝撃と爆発音が響き始めた。
「あ、がっ……!」
「!」
それと同時にミネルヴァは目を大きく見開き、抱えたクロエを降ろして膝を着く。
するとミネルヴァの身体が突如として傷を負い始め、そこから血が溢れ流れた。
それを見たクロエはミネルヴァに寄り添うに手を握り、苦々しい表情を浮かべて呟く。
「ごめんね……」
「……神を守護こそ、私の役目です……。う、ぐぁ……あああぁあッ!!」
謝るクロエにミネルヴァは僅かに微笑みと言葉を返したが、その後また衝撃と爆発が響くと、呻きにも似た悲鳴を口から漏らす。
秘術を行使したミネルヴァから作られた大聖堂は、どのような攻撃を受けても損傷しない。
しかしそれを維持できているのは、術者であるミネルヴァが受ける攻撃のダメージを肩代わりしていたからだ。
それを承知している『神』は、躊躇せず金色の大聖堂に向けて夥しい数の光球を放つ。
大聖堂自体を纏う金色の障壁によって威力を軽減できてはいたが、それでも幾度と降り注ぐ光球がミネルヴァに苦痛を与え続けた。
クロエは苦しむミネルヴァの手を握り、苦悩の表情を見せる。
そして衝撃音に掻き消える程の小さな声で、クロエは呟いた。
「……エリクさん、早く戻って来て……。お願い……ッ」
クロエは苦しむミネルヴァの手を握り、一筋の涙を零して呟く。
それが今のクロエに出来る、ただ唯一の行動だった。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる