虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

神の守護者

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 聖杯に見立てた浮遊都市というさかずきに、瘴気という赤いが満たされていく。
 各々がその瘴気を感覚的に危険だと察知して逃れる中で、『神』は危険と判断したクロエ達が避難している建物を発見し、黒い翼を羽ばたかせて急降下した。

 クロエもまた瞳の予知によって『神』の接近を知り、上空を見上げる。
 そして『神』は右手に持つ杖を振り翳し、黒い矛を形成し鋭い視線でクロエを睨み迫る。

「――……アンタを消して、この世の生命を全て終わらせてあげるッ!!」

「……君の願いは、私の願いとは真逆のようだね……」

 『神』はクロエを確実に殺す為に自ら手を下す。
 それをクロエを見上げながら、互いが抱く願いの相違を寂しそうに微笑んだ。

 そして『神』がクロエ達の居る建物を破壊する為に黒い矛を伸ばし薙ぎ、その刃が地面を削り迫る瞬間とき
 周囲の建物から跳び出し現れた一つの影が、迫る黒い刃に対して金色の光を伴う障壁が生み出し阻んだ。

「――……『我が命でインビシ奇跡の盾を成すスシブル』ッ!!」

「!」

 跳び出した影が生み出す金色の障壁は、全てを腐らせ穿つ黒い矛を防ぎ止める。
 それに目を見開き驚いたのは『神』であり、黒い矛が弾かれた拍子に身を翻しながら黒い翼を羽ばたかせて態勢を整え直すと、盾を出現させた人物を目にした。

 金色の障壁を展開させたのは、血だらけの姿をしたミネルヴァ。
 暗示から解放されたミネルヴァは自分の神であるクロエを守り、偽りの『神』を睨むように見上げていた。 

「――……ミネルヴァ?」

「……」

「なるほど、暗示を解いたようね。……残念だわ。使える駒として、最後まで使ってあげようと思ったのに」

 『神』はそうした声を漏らしたが、その表情は言葉ほど落胆した様子は無い。
 それがミネルヴァに対して向けていた本心であり、またその程度の認識なのは明らかだった。

 『神』の真意を向けられたミネルヴァはその場から跳び、クロエと寝ている二人を守る形で前に立つ。
 そして『神』を見上げながら旗槍を振り掲げ、初めて纏わせていた旗を解放した。

 旗に刻まれいた意匠は、フラムブルグ宗教国家が信奉する『繋がりの神』を象徴したモノ。
 数多の色合いを持つ輪を束ね重ね、それを円形に魅せた旗印だった。

 そして旗槍を掲げるミネルヴァは、羽ばたき浮遊する『神』に向けて声を張り上げながら言葉を伝える。

「……私が仕えるべき神は、お前では無かった! だが、例えそれが貴様の作為あんじに因る効果ものだとしても、私が罪を犯し誤っていた事に変わりはない!」

「……」

「しかし、我が神は罪人である私を許してくださった! ……そして、お前も許すと仰っている!」

「……なんですって?」

「ならば私も、その神の御意志に従うまで。――……『我が神の名の下にアウラ我が誓約の名の下にスウラ我が命を賭してエルディス神を守護するエイス』ッ!!」

「……!?」

 ミネルヴァは再び身体から金色の光を放ち始め、同時に詠唱する。
 その光はミネルヴァの命そのものを代価とし、凄まじい生命力と魔力を含みながらある形を作り上げ、それは周囲一帯を巻き込むように巨大な魔法陣を展開させた。

 突如として生み出される金色の光と初めて見せるミネルヴァの魔法に驚愕する『神』は、黒い翼を羽ばたかせながら上空に退避する。
 するとミネルヴァを中心に出現した巨大な魔法陣の内部で、金色に輝き光る物体が瞬く間に形成された。

「……これは、まさか……教会……!?」

「――……神を守護する盾であり、奇跡と慈愛を広める聖地。――……『楽園の大聖堂ガラヴァリエ』ッ!!」

 ミネルヴァが生み出したのは、秘術魔法の一つ。

 自身の生命力と周囲の魔力を代償として、自身を中心とした広大な空間に金色に輝く巨大な大聖堂を築き形成するという魔法。
 その巨大さはクロエ達が居る建物すら容易に超えて飲み込み、また周囲の区画さえ飲み込むように包むと、まるで堅牢な城にさえ見える程に巨大な建築物が敷かれた。

 しかもその大聖堂が敷かれ築いた空間に充満していた赤い霧は、まるで四散し消滅するかのように散っていく。 
 それを見た『神』は、下に築かれた大聖堂がどういうモノかを瞬時に理解した。

「――……あの具象した空間そのものが、瘴気の侵入を防いでいる。……私の矛を防いだあの障壁と、同じ作り。……まさかミネルヴァが、こんな魔法モノを作れるなんて……」

 大聖堂が齎している効果を確認し、『神』は予想外の魔法モノを作り出したミネルヴァに対して苛立ちの表情を浮かべる。

 敬うべき神の前で己の正気と使命を思い出し、更に命を賭して守護する事を誓ったミネルヴァに迷いは既に無い。
 故に代償の大きい秘術を扱う事を躊躇せず、『黄』の七大聖人セブンスワンとしての本領を発揮させていた。

 クロエもまた周囲を覆い囲む巨大な敷地と大聖堂の傍で、ミネルヴァの背中を見ながらこう語る。

「……『黄』の七大聖人セブンスワンは本来、守ることに特化している。……この大聖堂けしきこそ、彼女ミネルヴァが安心し安全だと思える場所なんだね」

 ミネルヴァが成す事を呟く『神』やクロエを他所に、都市の一区画が瞬く間に金色の光を放つ敷地が形成されながら瘴気を遮り、その中心に金色の大聖堂が築かれる。
 そして数十秒にも満たない時間で、ミネルヴァとクロエ達の周囲はそれ等の景色に一変していた。

 そして大聖堂の前に居るミネルヴァは両手で持つ旗槍を降ろし、更に右手だけに持ち替えて横へ薙ぎ振る。
 同時に左膝を崩し傾いたミネルヴァは、旗槍を支えに大量の汗を流しながら大きく息を吐き出した。

 それを空から見下ろす『神』は、ミネルヴァの異変に驚く様子は見せずに呟く。

「――……ハァ……。ハァ……ッ!!」

「当然ね。浄化付与までされたこれだけの具象結界を形成すれば、万全ならともかく、その様子だとすぐに――……!」

「ク……ッ!!」

「……チッ」

 膝を着け倒れかけていたミネルヴァだったが、旗槍を支えに再び起き上がる。
 それを見下ろし舌打ちを鳴らした『神』は、右手に持つ杖をミネルヴァと後ろに居るクロエ達に向けた。

「アンタが作ったこの継続型の展開領域には、大きな弱点がある。――……それは築いた術者本人に、領域が受けるダメージが全て反映されるということよ」

「……!」

大聖堂これは所詮、偽りの『肉壁』に過ぎない。――……今までよく働いてくれたわ。ご苦労様、死になさい」

 そう呟いた瞬間、『神』は魔力で形成した光球を周囲に作り出し、杖を振り下ろすと同時に数え切れない光球が大聖堂を襲来する。
 それを見たミネルヴァは傷付き消耗した肉体を無理に動かしクロエ達の方へ跳んだ後、寝ているケイルとマギルスを両手で掴んで扉が開いた大聖堂の中に投げ込み、更にクロエの華奢な身体を抱えた。

「失礼!」

「!!」

 ミネルヴァはクロエを抱えたまま大扉を抜け、四人は大聖堂の内部に入る。
 そして大扉が自動的に閉まるのが間に合うと、外から数多くの衝撃と爆発音が響き始めた。

「あ、がっ……!」

「!」

 それと同時にミネルヴァは目を大きく見開き、抱えたクロエを降ろして膝を着く。
 するとミネルヴァの身体が突如として傷を負い始め、そこから血が溢れ流れた。

 それを見たクロエはミネルヴァに寄り添うに手を握り、苦々しい表情を浮かべて呟く。

「ごめんね……」

「……神を守護こそ、私の役目です……。う、ぐぁ……あああぁあッ!!」

 謝るクロエにミネルヴァは僅かに微笑みと言葉を返したが、その後また衝撃と爆発が響くと、呻きにも似た悲鳴を口から漏らす。

 秘術を行使したミネルヴァから作られた大聖堂は、どのような攻撃を受けても損傷しない。
 しかしそれを維持できているのは、術者であるミネルヴァが受ける攻撃のダメージを肩代わりしていたからだ。

 それを承知している『神』は、躊躇せず金色の大聖堂に向けて夥しい数の光球を放つ。
 大聖堂自体を纏う金色の障壁によって威力を軽減できてはいたが、それでも幾度と降り注ぐ光球がミネルヴァに苦痛を与え続けた。

 クロエは苦しむミネルヴァの手を握り、苦悩の表情を見せる。
 そして衝撃音に掻き消える程の小さな声で、クロエは呟いた。

「……エリクさん、早く戻って来て……。お願い……ッ」

 クロエは苦しむミネルヴァの手を握り、一筋の涙を零して呟く。
 それが今のクロエに出来る、ただ唯一の行動だった。
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