虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
731 / 1,360
革命編 一章:目覚める少女

接触する記憶

しおりを挟む

 襲撃に乗じてリエスティア姫を狙う謎の人物を追っていたアルトリアは、以前の記憶を失っているにも関わらず凄まじい能力ちからを見せて森の中へ入る。
 そして自然の土を利用した棺桶を始め、土の大蛇を複数も作り出し囲ませ、謎の人物を追い詰めていた。

 しかし謎の人物は外套内の右腰に携えていた何かを左手で引き抜き、素早く振りながら迫る土の大蛇を斬り裂き崩す。
 その手に握られていたのは、白い魔玉が嵌め込まれた単純な作りの短杖つえだった。

 短杖の魔玉から形成された白い魔力の剣が土の大蛇を斬り裂き、その形状を保たせずに崩壊させる。
 それを目撃したアルトリアは驚きを浮かべたが、白い魔玉の嵌め込まれた短杖に視線を向けると、鈍い頭の痛みを感じて表情を僅かに歪めた。

「……あの杖……」

 アルトリアは謎の人物が握り持つ短杖を確認し、頭痛に耐えながら小さく声を漏らす。
 そして土の大蛇を全て切り払った謎の人物は、そのまま佇みながら視線をアルトリアに向けた。

「――……どうやら、覚えて無くても分かるみたいね」

「……何を言ってるのよ」

「アンタにとって、短杖これがどういうものか。そういう話よ」

「……お前、誰なの? 前の私を知ってるみたいだけど、どういう関係よ」

「さぁね。自分で考えなさい」

「……ッ」

 鮮明ではない篭る声で話す謎の人物は、まるでアルトリアを挑発するようにそう述べる。
 そして頭痛と相まって苛立ちを持つアルトリアは、再び白い輝きを纏った両手を地面へ着けた。

 しかしその瞬間、謎の人物も右足を軽く上げ足裏で地面を叩く。
 互いの手と足が同時に地面を叩いた時、両者の中間に位置する地面が小規模ながら破裂を起こした。

「な……!?」

「……能力それを使えるのが、アンタだけだと思わないことね」

「!」

「現代魔法のように、呼吸と共に体内へ魔力マナを取り込み構築式を用いて魔法を具象化するのではなく。あらゆる物質に含まれる魔力マナを直接的に干渉し、それ等を含む物質を操作する。それがアンタの能力ちからよ」

「……どうしてアンタが、私の力を……」

「その気になれば、大気中の魔力を生命力に還元して自分の体内に取り込み、自分や相手の怪我を治癒したり、疲労せずに身体能力を向上させながら走り続けられる。さっきみたいに土や水に触れれば質量を増大させて自在に形を変えたり、自分の周囲に在る大気すらも操作可能。まったく、我ながら出鱈目でたらめ能力ちからだわ」

「……前の私とアンタは、随分と親しかったのかしら? そんな事まで、前の私が教えてたなんて」

「別に親しくないわよ。それに、教えてもないわ。――……私も使えるから知ってるだけよ」

「……ッ」

 アルトリアは曲げていた膝を立たせ、唇を噛み締めながら表情を渋らせる。

 目の前で相対する謎の人物が誰なのか、記憶の無いアルトリアには分からない。
 しかし、その口から語られる言葉が事実である事は理解できた。

 先程、アルトリアが土に再び触れて操作しようとした瞬間。
 相手もまた同様の事を行った為に、互いの力が反発して操作しようとした地面が破裂してしまう。
 それによって相手は自分アルトリアと同じ能力ちからを持つ事を気付かせ、アルトリアの絶対とも言える自信を僅かに揺るがしていた。

 互いの能力ちからが同様ならば、勝敗を分けるのは多くの経験と技術、そして相手を凌駕する為の発想と手段が必要になる。

 現状のアルトリアは魔法の知識こそある程度は認識できていたが、学んだ記憶が無い為に今まで用いていた魔法がほとんど使えない。
 対して謎の人物は転移魔法や魔導人形ゴーレムの操作を始め、両手を基本として魔力を操作するアルトリアと違い足からでも能力ちからを使える様子を鑑みても、同じ能力者ちからでもかくが違うと理解できた。

 更に相手は、手の内を全て明かしているわけではない。
、こうなると相手への対策は不十分となり、自身の能力ちからだけでは勝算が少なくなる。
 それを自覚しているからこそ、アルトリアは次の手を打つ事に躊躇していた。

 その思考すら読み取ってるのか、謎の人物は向かい合いながら述べる。

「この状況、アンタには不利よね」

「!」

「アンタが勝算を抱いていたのは、自分の能力ちからに自信があったから。そして同じ能力ちからを……いいえ、それを上回る相手がいると想定していなかったから」

「……何が言いたいのよ」

「アンタが弱いって言ってあげてるのよ」

「!?」

「さっき言ってたこと、当たりよ。の身体は魔導人形ゴーレムを操作してるだけ。……でもこの魔導人形からだ、まだ未完成なのよね」

「未完成……?」

「頑丈でパワーはあるけど、まだ人体並に駆動系が滑らかには動かない。だから全力で動かすと、関節部分がイカれちゃうのよね。……まぁ、一年で作った割には上出来だけど」

「……本気じゃないって言いたいワケ?」

本気マジでやってると思ってたの? 自分の力に自惚れてる子供と、試運転がてらに遊んであげてるだけよ」

「ッ!!」

 侮辱にも似た態度を見せる相手の言葉に対して、アルトリアは瞳と表情を激怒させながら両手に白い輝きを瞬時に溜め込む。 
 そして次の瞬間、両手を前に翳して魔力を操作し凝縮させた波動砲撃こうげきを相手に放った。

 しかし放たれる瞬間、謎の人物は無造作に右手を前に突き出す。
 すると光速で迫る波動砲撃こうげきが四散するように掻き消え、瞬く間に消滅した。

「!」

「――……ァアアアッ!!」

 その時、四散する光の中から飛び出る人影が謎の人物に映る。
 それは自身が放った波動砲撃こうげきを追うように走っていたアルトリアであり、波動砲撃こうげきを囮にして接近戦に持ち込もうとしていた。

 アルトリアは右手で大気中の魔力マナを凝縮した剣を作り出し、謎の人物を襲い斬る。
 それを下がりながら紙一重で回避した謎の人物だったが、僅かにぎこちない動きを見せた。

 先程の話で魔導人形ゴーレムの性能が術者の能力を上回る性能ではない事を知ったアルトリアは、遠距離や中距離からの応戦ではなく、敢えて近接戦に持ち込んむことを選ぶ。
 その隙を突くように右手を戻しながら上体を起こして踏み込んだアルトリアと、謎の人物が左手に持つ短杖で作り出す魔力のけんが衝突しながら十字に重なった。

「――……ッ!!」

「……な、なに……!?」

 互いが作り出した魔力の刃が火花を散らすように輝いた時、二人は驚きの声を漏らす。
 その時、アルトリアには身に覚えの無い記憶と感情が頭と胸の奥へ流れ込むような感覚を味わっていた。

 そして魔力の火花が散る白い光が視界を遮るかのように、アルトリアの視界が白く閉ざされる。
 アルトリアはその時、白い視界の中で記憶に無い映像と声を聞いていた。

『――……戦士エリク。私の護衛として一生の間、雇われてくださらない? 護衛の御代は、出世払いでお願いするわ』

 その声は、自分アルトリアと思しき少女の声。
 しかし視界に映るのは、黒髪と黒い瞳を持つ大男の姿。

 それが何なのか理解するよりも先に、アルトリアは更に続く映像を記憶と共に見せられていた。

『――……君に雇われよう。……改めて紹介する。傭兵のエリクだ』

『ええ! 私のことは、アリアで良いわ。よろしくね、エリク!』

 エリクと名乗る大男と、アリアと名乗る少女の声はそう述べながら、共に森や草原を歩いて旅に出る。

 時には港に訪れそこで多くの者達を治療したが、見覚えのある老騎士ログウェルに襲われながらも定期船に乗って逃げた。
 そして樹海らしき場所に訪れ、そこに居る部族達と出会い交流を果たして友達になった女性パールと別れた。
 そして再び港に訪れて傭兵となり、様々な人物達と出会いと別れを繰り返しながら、様々な場所へ二人と仲間達は旅をした。
 
 短い時間ながらも緩やかに膨大な量の記憶と映像がアルトリアの中に流れ込み、それが許容量りかいを超える。
 その瞬間にアルトリアは右手に作り出していた光の剣を消失させ、気を失いその場に倒れ込んだ。

 しかし謎の人物はそれを見下ろしながら、小さな呟きを漏らす。

「……これで、第一段階は完了ね。――……そろそろ撤収するわよ。……ええ。予定通り、私と接触できた。……大丈夫よ。……じゃあ、戻るわ」

 謎の人物は小さく呟いた後、誰かと話すように上空を見ながら呟き続ける。
 そして話し終えた後、腰と膝を下げて倒れるアルトリアを見下ろしながらその左肩に左手を触れさせた。

「……こんなところに仕掛けられてたのね。……そういえば、あの時に受けた弩弓ボウガンの傷って、ここだったかしら……」

 触れる左手が白い輝きを見せると、アルトリアの左肩に黒い煙は小さく立ち込める。
 それを握り潰すように左手を動かすと、黒い煙はそのまま跡形も無く消滅した。

「……今度はちゃんと、成長しなさいよね」

 そう言い残した後、謎の人物は立ち上がり転移と思しき魔法でその場から消え失せる。
 それから数分後、追い付いた老執事バリスが倒れたアルトリアを発見した。

 それから一分も経たない内に、都市の内外に出現した魔導人形ゴーレム達が再び光の渦に飲まれ、その場から全て消失する。
 事に対応していた全員が突如の襲来と退散に唖然とし、今回の事件は一時間にも満たない時間で終息した。

 こうしてローゼン公爵家の統治都市襲撃は短時間で幕を閉じ、大きな被害は結界を維持する装置と別邸の破壊程度に留まる。
 しかしリエスティアとアルトリアの前に現れ消えた謎の人物の目的も行方も分からぬまま、時間だけは無慈悲に進み続けていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...