聖女転生? だが断る

日村透

文字の大きさ
210 / 251
もうひとりの聖女の謎

210. 接触

しおりを挟む

 さらに一週間ほど過ぎた日のことだ。
 私達はベルナデットという町に到着し、いつものように宿を取った。

「ここから先は、今までみたいないい宿がほとんどない。少し腰を据えて商売をしておく」

 アロイスがそう宣言し、この町では長めの滞在となることが決まった。
 彼らの『商売』は店頭に品を並べて「いらっしゃいませ~!」と愛想を振りまく小売業ではなく、卸売業に近いものだったので、私が同席させてもらってもまったくと言っていいほど役に立てない。

 隊商の仲間達も、荷馬車の見張りや物品の手入れをする担当の人以外は、馴染みの職人や店舗のもとへ取引のために顔を出している。
 コルネイユ隊のほとんどは、交代で馬車の見張り要員となり、身体がなまらないように鍛錬などもしていた。
 彼らの鍛錬には隊商の人々の一部も交ざり、剣術や槍術を教えてもらったりしているらしい。

「この隊商の者達は、我流で戦っている者が多いのです。悪い意味で動きにクセのある者がおりますので、偉そうかとは思いましたが指摘させていただきました」

 とは、コルネイユ隊の皆さんの言だ。

「我らから見て、良い意味で動きに特徴のある人物が頭領殿とエタン殿です。このお二人はとにかく、攻撃の筋が読めなくて厄介ですね」

 隊商の人々は元プロ騎士達の戦い方を教わり、コルネイユ隊の皆さんは隊商の人々から実戦を教わってと、双方にとってメリットのある鍛錬だそうだ。
 コルネイユ隊はロランの王宮に勤めていたこともあり、コルネイユさんを含む上位の半数を除けば、実戦経験が少ない若手で構成されている。
 たびたび夜盗を撃退しているアロイス達のほうが、実は戦闘経験が豊富だったのだ。

 私も自分の仕事である浄化魔石づくりや、エディットの手伝いをしながら薬の調合を教わったりと、得意分野でそれなりに忙しくしていた。
 ついでにベルナデットの町にも中規模の神殿があったので、できあがった魔石の一部を納めた。
 私は女神を否定しているのではなく、純粋にあの国がダメだったんですよというアピールのためだ。

「かの国はわたくしの魔石を、限られた裕福な方々にのみ高額で売り払っていましたの。とても嘆かわしいことですわ。皆様はどうか、正しくお役立てくださいまし」

 と、悲しそうな笑顔でお願いすれば、よっしゃ高値で売っちまおうなどと思っても実行できまい。

「なんと罰当たりなことをなさるのでしょう。聖……いえ、セレ様、あなた様の真心に感謝し、決して裏切らぬことをお約束いたしましょう」

 だいたいは善良な人々なので、心から感謝してくれた。
 私の心が一番汚れていてすみません。
 それとアロイス達の忠告により、規模の小さな神殿には納めないようにしている。私の魔石目当てで強盗が入るかもしれないからだ。

 そしてさらに数日が経過した頃。

「例の魔女が、あんたを捜している。会いたいそうだ」

 ロランの王宮で追われていたという魔女が、アロイスの隊商に接触を図ってきた。




 その魔女の名前はメラニー。
 諸国で知られた大魔法使いリヴィエールの高弟であり、解呪のほかにも火炎をあやつることで有名な魔法使いらしい。
 彼女はロラン王国を脱出し、一度は国に戻ったが、すぐにまた国を出た。
 追い出されたのではなく、王に迷惑をかけられないからと本人が周囲に語っていたという。

「逆に、この件でロラン王国の株はまた下がった。有能で知られた魔女を監禁し、自国のためだけに働かせようとする行いは、どの国であろうと嫌われる」
「魔女の住んでいらした国は大丈夫ですの? ロランより小さな国なのでしょう?」
「周辺の小国同士で協力関係を結び、奴らが抗議してきても強気で突っぱねる構えでいるそうだ。圧倒的にロラン王国側に非があり、明日は我が身と感じた者同士で結束を強めるのは簡単だったらしい」

 そこで、とアロイスは一瞬だけ言葉を切った。

「その魔女は、あんたに会いたがっている。最初は俺達がマルゴーあたりにいると踏んでいて、そこを目指していたんだそうだ。俺達がここで長めに滞在してなきゃ、すれ違ったかもしれんな」

 どうする? と、アロイスは尋ねた。
 私はこくりと唾を呑む。

 ――リリ様を調べた時に、わたくしのことも気付いてしまったのかしら? ……いえ、それは違いますわね。

 タイミング的に、魔女メラニーはロラン王国を脱出した直後には、もう私のことを捜し始めたはずだ。
 私のことを何か怪しんでいるのなら、いきなり接触しようとはせず、もっと様子を見ようとするのではないか。
 普通に考えて、リリのことを私に訊きたいだけだろう。

「お会いしますわ。あの国やリリ様がどのようになっているのか、わたくしも詳しくお聞きしたいですもの」


しおりを挟む
感想 294

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

処理中です...