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『元』聖女、行きたくないけど方向転換
238. 謎は深まる
しおりを挟むお風呂上がりのお姫様抱っこは、とっても危ない。
お湯から出た直後ではなくても、それほど時間が経っていないから、身体がほかほかしている。
しかもギリシャ風のデザインがミックスしたようなこの宿の浴衣は、生地が薄くて通気性がよく、つまり密着したら体形がとっても――思い出してまたキャーキャー言いたくなる私だった。
――アロイス様のお顔も、久々に至近距離で堪能してしまいましたわ。あれほど近くで眺めても満足感たっぷりなんて、反則だと思いますの。
だが逆を言うと相手にも、私の貧相な体型がこれまで以上にしっかり伝わってしまったということだ。
さらに私の顔面の粗も、しっかり相手に見えてしまったわけである。
……お肌のもちつや感について、先輩のメラニーさんに相談してみよう。
あまり長居してみんなに心配をかけてはいけないから、庭の散歩をほどほどで切り上げて戻ったら、噂のメラニーさんがジゼルと一緒に宿の廊下で待ってくれていた。
メラニーさんは素晴らしいプロポーションをお持ちの、大人の美女だ。
こんなに色っぽい女性と一緒にいて、アロイスがぐらりとなってしまったらどうしよう……などという心配は、全然湧いてこなかった。
ちょっといいなと思っている男の人が、自分よりスタイル抜群な大人の女性と顔を合わせているのを目にしたら、普通は不安になるのが世の女性の心理だと思うんだけれど。
この二人に関しては、どうしてかそういう方向の不安がこれっぽっちも出てこなかった。
むしろ、全然違う性質のハラハラがある。
だってこの二人の間、ピンク色のハートがふわふわ漂う感じは一片もなく、黄色い電流がびしばし流れている感じなのだ。
メラニーさんは笑顔だし、アロイスも笑顔なんだけれど――そう、このアロイスの笑顔がなんだか怖い。
「うふふ。お二人とも、楽しかったかしらぁ?」
「まあな。楽しかったぞ」
笑顔の下で二人とも何かを考えていそうなのに、何を考えているか想像できなくて怖い……!
もしかしてこの二人、相性が悪いのだろうか。
特にどちらかが敵意をむき出しにしたのでもなく、お互いの職業を蔑むようなこともなかった。
純粋に『合う合わない』の次元なのだとすれば、外野が「お願い仲良くして!」と頼んで解決する話ではなかった。
――合わない方同士を無理に仲良くさせようとしても、逆にこじれますのよ……!
下手をすると、二人の間が余計険悪になるだけでなく、おせっかいな奴が嫌われるのだ。
だから私は余計なことを言えず、アロイスとメラニーさんの顔を交互に見上げてハラハラするしかなかった。
「セレ様、そろそろ部屋に戻りましょ! 風邪引いちゃったらいけませんし」
至近距離で飛び交う電流を無視し、あっけらかんとジゼルが言った。
いつでもどこでも平常運転なジゼルが、一番強いかもしれないと思った瞬間だった。
「おう、そうだな。じゃ、また明日。おやすみ」
「は、はい。おやすみなさいませ」
「ジゼル、おまえも風邪引くなよ」
「とーぜんですよ!」
「メラニー……次はないぞ」
「あら、なんのことかしらぁ?」
本当に何のことだ。
しかしアロイスは私の頭を撫ででふわりと笑み、男性の宿泊棟に歩いていってしまった。
背中が広いなあ……そしてやはり、メラニーさんと何の会話をしていたのだろう?
ジゼルとメラニーさんと一緒に部屋に戻ると、案の定というか、二人から質問攻めにされた。
というか、ジゼルはこれに関しては「それでそれで? っきゃー!」となるタイプではなく、ビジネスライクに状況だけを聞いて終わる。
メラニーさんがあれこれ根掘り葉掘りつっこんでくるタイプだった。
「それで、それで? セレ様、もっと詳しく!」
「あのう、そのう……」
正直、こういう会話は楽しい。
いや、困るのだけど。
「あ、そうですわ。お聞きしたいことがありますの」
「なぁに?」
「『出歯亀女と野郎ども』とは、どのような意味ですの?」
「えっ……」
「聴き取れはしたのですけれど、言葉の意味がわからなくて……」
ふと、質問の途中からメラニーさんが固まっているのに気付いた。
「ああセレ様、それはですね」
「ジゼルさん待って。お願い待って。それ、セレ様に教えちゃダメな言葉。ね?」
「そうですか? ん-、まああんまりよくない言葉かも?」
「よくない意味ですの?」
ジゼルもメラニーさんも、結局は教えてくれなかった。
そして何故かそれ以降、メラニーさんがちょっとだけおとなしくなってしまった。どうしてだろう。
私、何かとてもまずいことを訊いてしまったのだろうか?
でもアロイスに経緯を話したら、彼は「よくやった」と褒めてくれた。
いったい何故……?
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読みに来てくださってありがとうございます!
更新のお知らせ:たびたびすみません。11/27~30の間、聖女転生は投稿お休みとなりますm(_ _)m
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