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エセ聖女、逃げる
22. 役割が違うだけ
しおりを挟む「……いいですわよ? 別にいいですわよ? わたくしのような役立たず、皆様に笑いを提供できただけでも幸せというものですわ。ふん」
箱の中でモソモソ回転して背中を向けたら、背後でまたもや「ぶはっ」「ぶふっ」と噴き出すのが聞こえた。
今度は二人分である。
ジゼルもリュカを殴りはしたけれど、何も言わないところが彼女の本音を物語っている気がした。
……いや、彼女が私を裏切るはずがない。そう信じよう。
「くっく……いや、悪かった悪かった。拗ねるな」
笑いながら謝られたって説得力なんてない――とさらに拗ねようとしたら、アロイス達の背後から追加で荷物がどかどかと詰み込まれた。
しかもリュカとジゼルがてきぱきと、荷物を固定するための縄をかけている。
これではアロイスが外に出られないではないか?
よじ登れば上の隙間から出られなくはないだろうが……。
「あの、アロイス様は」
「俺は今回ここだ」
その言葉とほぼ同時に、外で声が上がった。
「出るぞー、いけるかー?」
「おう、こっちは問題ねえ!」
「こっちもだ!」
「いけるよー!」
掛け声から少しして、ゆっくりと馬車が動き出した。
何台もの荷馬車が連なる隊商は歩みが遅く、先頭が進み始めてから最後尾が動き出すまでに時間がかかる。
この幌馬車の位置は、だいたい真ん中ぐらいだったろうか。
私は拗ねて回転したことで、結果的に進行方向へ身体を向けたことになる。
アロイスが私の右側に移動し、リュカが背後、ジゼルが左側に来て、少ない床の隙間や座っても問題なさそうな箱に腰を下ろす。
いつの間にか馬車の後部は帆布のカーテンが閉められ、だいぶ薄暗くなっていた。
薄暗くとも、表情ははっきりとわかる。アロイスの中から笑いの衝動はもう去ったようだ。
ならば、いつまでも拗ねているわけにもいかない。
――それに、今回アロイス様がこちらに来てくださったのは、わたくしが初っ端からボロボロになってしまったことを気にしていらっしゃるのかもしれませんし。
手の包帯に目を落とすと、アロイスが私の入っている箱のふちを指でトンと叩いた。
再び彼の顔を見上げたら、彼は私に目を据えたまま人差し指で後ろを示す。
「エディットの馬車はすぐ後ろについているから心配いらん。とにかく、身体に異変を感じたらすぐに言えよ」
「……仰せの通りにいたしますわ」
やはり、そうだった。彼がここにいるのは、私の身を案じてのことだった。
そして馬車が動き出して以降も箱の中は快適で、衝撃が私を痛めつけることもない。
子供っぽい怒り方をしてしまったなと、少しだけ反省した。
「アロイス様の隊商の馬車は、全部で何台ありますの? 皆様何人ぐらいいらっしゃるのかしら」
「十台だ。俺を含めて四十五人いる」
「まあ! わたくし詳しくは存じませんけれど、一つの隊商としてはとても多いのではありませんこと? ウェルディエ皇国では、このような隊商はよくありますの?」
アロイスは顎に手を当て、小さく首をひねった。
「ほとんどはバラバラの商人の寄り集まりだが、うち以外でもこういうのは無くもない。ロラン王国では隊を組む商人自体をあまり見かけん。国の規模が違うから、旅をしてまで商売する奴の絶対数がこの国は少ないんだろう」
「そうなんですのね。わたくし幼い頃から神殿と王宮を往復するだけの日々でございましたから、無知でお恥ずかしいですわ」
「恥とは違うだろう。さっき言っていた『役立たず』も違うぞ? あんたが俺達に提供するものはなんだ」
「それは、瘴気の浄化魔法と、特典魔法を二つ……」
「つまり浄化魔法も特典魔法とやらも、今すぐどうこうする必要はないものだ。必要な時にそれが使えればいいんであって、そのためにはあんたを万全にしておくのが俺らのすべきことだ。わかったか?」
アロイスが軽い調子で言うと、リュカがさらに軽い調子で「そうっすよ」と笑った。
「かーちゃんだって毎日せっせと薬作ってるけど、身体を悪くする奴が誰もいなけりゃ、あれ全部使わねえんだし。だから無意味なんて言われでもしたらやってらんねーよ」
「あ……そうですわね」
目からうろこだった。
エディットの役割は『薬師』であり、普段からその役割を果たすための準備をしている。
薬師でなくとも彼女はとても頼りになりそうだけれど、会ってまだ半日も経っていない私は彼女のできることしか見えておらず、できないことが見えていない。
「セレ様、頭領やこいつの言う通りですよ。あたしは魔力ってよくわかんないけど、セレ様がほかの誰にもできない魔法を使えて、使い過ぎたらすごく疲れるんだってことぐらいは知ってます」
「ジゼル……」
「だから変にあたし達の役に立とうなんて思わないで、治ることだけ考えといてください。無理に魔法使ったり、祈ったりしちゃダメですからね。頭領に聞いたけど、セレ様って祈るのも魔力使うんでしょ?」
「ええ、そうですわね。ありがとうジゼル……」
――ん?
はた、と気付いた。
祈り…………つい最近、したような。
確か門のあたりで、雷に打たれてつるぴかになってしまえ、みたいなことを祈ったような。
…………いや、まさか。
いくらなんでも、まさかあのつるぴかの呪いが『祈り』にカウントされるはずがない。
女神エステルにしても、そんなことを祈られたって対処に困るだろう。
それに私は、世界の浄化や平穏のための祈りしか唱えたことがない。
だからあれは祈りなどではない。
ないのだ、うん。
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