聖女転生? だが断る

日村透

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目指せ引退生活

27. 夜明けと自由

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 ――はぁ~、爽快な朝ですわぁ。東から徐々に明るむ空、すっきりとした草の香り、そして自由! なんて素晴らしいんですの……!

 テントから出て両手を天に伸ばしながら、清々しい朝の空気を胸いっぱいに「むふー」と吸い込んだ。
 これほどに素晴らしい朝は、満面の笑みが勝手に浮かぶ。

 ――皆様は意外とお寝坊さんですのね。ああでも、あちらで起き出した方もいらっしゃいますわ。

 昨夜のうちに拾い集めておいた枝を燃やし、お湯を沸かし始めているのが見える。
 あれで朝食用のスープを作ったり、お茶を淹れたりするのだろう。

 この世界の人々の大半は、日の出とともに活動を始め、日の入りとともに活動を一旦終了する。
 その中でも、私はとびきり早起きのようだった。
 十数年も毎日こういう生活をしているので、時計がなくとも自然に目が開いてしまう。

 六月頃の日の出時刻だけれど、だいたい午前四時半ぐらいになると、空の色が薄くなってくる。
 一般的に『夜明け』と言われる時間はだいたい五時ぐらいで、人々が本格的に活動を開始するのもその時間が多いようだ。
 ぐるっと四方を見渡してみると、どの方角を見ても遠くにうっすら山が見える。日の出の直後はお日様が山に隠れて見えないので、四時半は夜明けではなく、夜明け前のようなニュアンスで言われることが多かった。

 東の街道をえんえんと進んできて、今朝でもう六日目。
 こちらの道は人里が少ないけれど、ちらほらと小さな農村はあるようだ。
 そこに店があるわけでもないので、隊商も小村には立ち寄ったりせず、そのまま通り過ぎている。

「今朝も早いな。もう起きたか」
「アロイス様。おはようございます」

 テントの群れから決して出ないよう、素晴らしい平原を一望できる場所で日の出を眺めていると、五時ぐらいになってアロイスが起き出してきた。
 皆も続々と起き出して、一気に賑やかになってくる。
 この、空気が切り替わるような瞬間も好きだ。

「つまらなくはないか?」
「いいえ! わたくしこの時間がとっても好きですの」
「俺もだ。いつもより早く起きた時なんかに散策をすると、何やら特別な空間に迷い込んだようで気分がよくなる」
「わかりますわ。いつもとちょっと気分が変わって、なんだか楽しい気持ちになれますのよね」

 アロイスがふっと笑い、私の頭をぽんぽんと撫でた……いや、叩いた?
 気安く触れてくれる感じがとてもいい。厄介なお荷物と思っている相手にこんなことはしないだろうし、嬉しくてむずむずしてくる。

「俺達が通っているこの東行きの道だが、実はロラン王国に入る時は通ってない」
「そうなんですの?」
「皇国から直接この国に入ったのではなく、北回りで別の国を経由して入ったんだ。こっちの道はご覧の通り、いつまで進んでも商売できる場所がないからな」
「同じ長旅をするのであれば、商売の機会は多いほうがいいということですわね」
「そういうことだ」

 アロイスが言うように、こちらの道はとてものどかだけれど、賑わっている場所がない。
 けれどあえてこの道を通るのは、皇国へ向かう最短ルートだからだ。

 およそ三十年前、ウェルディエ皇国の属国であったロラン王国の王が、勝手に独立宣言みたいなことをした。
 怒ったウェルディエ皇国が軍を送り込んできたけれど、進軍中に瘴気が発生。
 そこから十年ほどちょくちょく争いつつ、結局は停戦することになった。

 ロラン王国が女神に守られている国だと自信をつけ、国土も国力も六倍以上あるウェルディエ皇国を相手に、強気でいられるきっかけになった出来事。
 ヒューゴが教えてくれたその話から読み取ることができるのは……その瘴気の規模が、とてつもなく大きいものであったということ。

 進軍を止めるほどの規模であり、十年間も小競り合いをしたのに皇国が手出しを控えることに決めたのは、十年経ってもそれが薄れなかったという事実を示している。

 小規模のものなら神官が何人か集まればどうにかなるし、自然に噴き出た瘴気は、出てきた時と同じく自然に薄れて消えることも多い。
 問題は生物に影響があった時。一度瘴気に毒されてしまったものは、浄化魔法でしか治せない。

 だからこの東行きの街道はとびきり危険で、利用者がほとんどいないのだろう。

「ただし俺達は過去に何度か通ったことがある。準備さえできていれば、案外なんとかなるのさ」

 この隊商はこれまでもこの道を使って皇国に帰ったことがあるから、すぐに怪しまれることもないそうだ。

「お役目、果たせるように頑張りますわね」
「期待しておく」

 またぽんぽんと頭を叩かれた。
 子供扱いをされているみたいだけれど、親愛の情に変わりはないのだから、まったく不満はなかった。


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