聖女転生? だが断る

日村透

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目指せ引退生活

37. 比類なく貴重な積荷 (4) -sideアロイス

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 エタンが俺を呼びに来た理由など訊くまでもない。
 全員が言葉を発さず、ただこれを見下ろしていた異様な雰囲気にも合点がいった。

 神殿に祈りを捧げた者は、希望すれば一名につき一個、浄化の魔石をもらうことができる。
 旅をする者には必須のものであり、俺達も各地を訪れるたび、なるべく参拝するようにしていた。

 ただし、ロラン王国のみやこの大神殿は避けた。
 聖女の作った浄化の魔石を貴族や豪商に高額で売り付け、一般の民の手には一個も渡さないところが、なんともあからさまだったからだ。
 ――あいつらは真実、民のために祈っているのか。
 しょせん下等な民衆ごときと、ニセモノを掴ませていてもおかしくはない。
 うちの隊商に限らず、ロラン王国以外の商人の間では、奴らを懐疑的に語る者は少なくなかった。

 実際に他の国々の神殿と比較した場合、ロラン王国の大神殿の魔石は質がよくない。
 一般的な浄化の魔石は、半透明の乳白色だ。
 ところがあの大神殿でもらった石には、くすんだ緑や黄土色、灰色といった余計な色が点々と混ざり、布で拭いてを取りたくなるような色をしていた。
 しかも、十日もしないうちに魔力が消え失せ、ただの石ころに戻ってしまう。

 ウェルディエ皇国の神官から聞いた話によれば、浄化魔法をかける際に雑念の入る頻度が多いと、そんな『失敗作』になるのだそうだ。
 通常は見習いなどの未熟な者が作るものであり、そういった『失敗作』は民には配らず地面に埋めて、魔力が自然に抜けるのを待つらしい。
 だがあの連中は、それを平気でばらまいている。

『瘴気の浄化効果は弱く、おまけに使っていない間さえ自然に魔力が流れ出てしまう。かの国の大神殿は、浄化の魔石とはそういうものだと民に教えているようでして……我々もどうかと思っているのですがね』

 同じ神を崇め、似たようなことをしていても、神殿とは国ごとに異なる組織であり、他国の神殿が口出しすることは基本できない。
 ロラン王国の民は何の疑問も持たず『失敗作』をありがたがり、無力な石ころになれば捨て、また新たな魔石をもらうために神殿へ行く。一番上の大神殿がそんなことをやっているものだから、ロラン王国全体の神殿がほぼ同じ状態なのだ。
 国によっては粗悪な魔石を高値で売るところもあり、それに比べたらまだ良心的な部類に入るのだろうが……。

 ――形だけの聖女ではなかったのか?

 見栄えだけをよく磨いたお人形。
 聖なる乙女の振りがうまい演者。
 そうではなく、まさか、本物の聖女を育てるための教育を受けていた?
 そもそも彼女の唱えていた『聖女の祈り』からして、ロラン王国の大神殿による捏造ねつぞうではないらしい。
 大昔、聖女召喚の儀式で現れた乙女が実際に唱えていたものであり、使っている神語もでたらめではない。

 大神官は彼女が本物らしくなるよう、本物の聖女の知識を与えた。
 まさかそれによって、本物に育った?

 セレスティーヌのあの様子だと、おそらく彼女には自覚がない。
 大神官はどうだろうか。王宮の奴らは。

「少なくとも、これほどのものを作ることができるのは、あいつだけだろうな」

 俺の呟きに否定の声は上がらない。
 この国だけでなく、どの国であっても……ウェルディエ皇国でさえ、これほど完璧な魔石にお目にかかったことはなかった。
 聖女セレスティーヌが、果たして本物か、紛い物か。
 本人から聞いた話を思い出し、国王や大神官がどう考えていそうなのかを想像してみる。

 ――自分達に利益をもたらす存在であれば、どちらでもいい。そう思っているのではないか。

 たとえ紛い物であろうと、本物の魔石を生み出し続ければどうでもいい。
 重要なのは効果のある祈りと魔法、高純度の魔石、民からの信仰心。それを王宮と神殿にもたらし続けること。
 失敗作をばらまきながら、平然としている他の神官もきっとそうだ。

「……一個分の入る袋を作り、完成している石をできるだけ全員に配れ。それから明後日、もしあいつの熱が下っていなかったとしても出発する」
「おう」
「了解です」

 全員が動き出す中、リュカだけがぽつりと「明後日っすか」と漏らした。
 それが妙に、耳に残った。


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