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断るためのパワー
55. まずいことになってきたわ -sideリリ
しおりを挟むどうしよう、まずいわ。
ほんっとにまずい。
「リリ様……」
「ごめんなさい。少し、放っておいてもらえる?」
あたし付きの人を全部部屋から追い出した後、ソファの上のクッションをぼかぼか殴った。
――魔法が、使えない……!
ぜんっぜん使えない。
これっぽっちも使えない。
漫画だったら、もうとっくの前に使えてたはずなのに!
「なんでよ? 悪役聖女いなくったって、ほかの魔法ならちょっとは使えるでしょ?」
なんか解毒魔法とか水をちょっと綺麗にするとか、ショボいのばっかりだけどさ。
召喚聖女だったら、ほかの神官よりも魔力が多いぶん、威力もそこそこあるはずなのよ。
浄化魔法がダメでもそっちならいけるでしょ、って思ったのに、ぜんっぜん使えない。
毎日何人も神官が来て、魔力の操作の仕方も教わってるけど、「魔力はこのように動かしますから感じ取ってください」って無茶言うなっての!
感じないから魔法使えないんじゃん! もっとわかりやすく説明しろっての!
それでも言われた通りにイメージしてやってみたけど、あたしの中で何かが動いてる感じは全然しないし、実際に動いてないみたい。
なんかあたし、魔力がないっぽい?
そんなわけないでしょ。主人公の『瑠璃』は結構すんなり使えてたもの。
でもあれは漫画版だったからカットされてただけで、原作小説だともっと手こずってたのかな。
『魔力がないなどと、そのようなことはございませんでしょう。文献によれば例外はないとのことですし、リリ様はお力の使い方がまだよくわからぬだけなのでしょうな』
……最初はそう言ってくれていたけど、だんだん神官同士であたしを見ながら、ヒソヒソ喋るようになって。
王様や王妃様からも「まだ力を使えないのか」ってせっつかれることが増えてきた。
今日もそう。特に王様、あんた人を見ながら失望の溜め息つくのやめてもらえる?
そっちが勝手に呼んどいて、勝手に幻滅とかふざけんなっての!
わざわざ異世界から来てやったんだから、もっと敬意払ったらどうなのよ!
「やっぱりこれ、どっかで話が変わってるでしょ。いくら原作あったからって、今ここにセレスティーヌがいないのはおかしいって……!」
この間セレスティーヌの居所がわかったとかで、王子が兵士を何人も引き連れてどこかに行った。
正直、ちょっとホッとしたわ。だって、悪役聖女があたしに嫌がらせをしないと力が覚醒しないんだったら、これで元のストーリーに戻せるじゃんって思ったのよ。
だけど、どうも失敗したみたい。王子と兵士はみんな帰ってきたのにセレスティーヌはいなくて、王子は謹慎処分。
ってことは、見つからなかったとかじゃなく、見つけたけど失敗したってこと?
あのイケメン王子そんなダサい奴だったの?
前は何度もお茶会やお喋りに誘ってくれたのに、帰って来てからは一度もないし。
こっちから誘っても、体調がすぐれないとかで断られる。
途中で大きな瘴気が発生して、その影響が残っているせいじゃないかって王子のお付きの人は言ってた。
神官が何人も同行してたんだから、浄化なんてとっくに終わってるでしょうよ。
それに地面から瘴気が湧く場面は確かにあったけど、主人公が遠い国で遭遇するやつじゃなかった?
「どうなってんのよ……」
まさか、だけど。
この身体が、あたしのじゃないから、だったりして。
ううん、これはあたしの身体よ。本人がいらないって言ってたんだから、あたしがもらって何が悪いの。
元の持ち主じゃないからダメとか、今さらそんなこと言わないよね。
聞いてないよそんなの!
だいたい『異世界から召喚された娘』が条件なら、あたしだってそうじゃん!
もっとパ~って簡単に力使えるように設定しときなさいよ!
「リリ様……お休み中のところ、申し訳ございません」
放っといてくれって言ったのに、ドアの外から声をかけてくる奴がいた。
イラっとしたけど、我慢して「なぁに?」って優しく答えてやった。
「ご注文のあったお衣装の調整が完了したとのことです。ご確認いただけましたらと……」
――あっ。
そうそう、それがあった。
王子との結婚式のドレス! 本物の宝石とかたくさんついててさぁ、ものすっごく豪華でキラキラしててびっくりしたんだよね。
そのままでも最高だったんだけど、つい「ここをああしたいこうしたい」って注文つけちゃった。
あれができたのかぁ。
じゃ、見にいかなきゃね!
なんでこんなことになってんのかよくわかんないけど、とにかく王子と結婚さえしたらこっちの勝ちでしょ。
ちょっとぐらいマヌケだったとしても、顔がいいから許してあげるわ。
なるべく殊勝な子っぽい表情と声を作って、「今行きます」と答えた。
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