91 / 251
ついに皇国へ
91. 町へお出かけ
しおりを挟む顔の両脇に兎耳みたいな布の垂れ下がった帽子をかぶせてもらい、国境の町モニークを案内してもらえることになった。
ジゼルだけでなくリュカもいる。
この二人がしょっちゅう私の傍にいてくれたことを、多分マティス陛下もグレゴリーも知らないから、彼らを手配してくれたのはきっとアロイスだ。
それから、ゴーティエ総督が護衛兵を数名つけてくれた。
私の存在がまだきちんと公表されていないので、守りは厳重にしておかないといけないらしい。
「頭領も今その話をしているらしいんスよね。セレ様が俺らとどこへ行くにも、まず先にそこらへんを公表しといてからじゃないと、どうにもできないってんで。多分セレ様が直接あっちへ行かなくてもいいように、あれこれ段取りしてくれてるんじゃないっスか」
あっちというと――皇都かな。
アロイスやグレゴリーの立場的にも、彼らが『聖女を連れて戻って来た』なんてことになったら、変に騒ぐ人がいそう。
大国の都って興味がないわけじゃないけれど、そういうトラブルになってでも観光したくはない。
ところでリュカの口ぶりと、ジゼルもふんふんと頷いている様子からして、彼らもまたアロイスと一緒にいるあの御方のことを知っているのだ。
「リュカとジゼルが、どこまでご存じなのか……というお話、ここで伺っても支障はありませんかしら?」
「ん~、ここではちょいと遠慮してもらいたいっス」
「すみません、セレ様。あたし達、セレ様にどこまでお話ししていいかっていうの、まだ聞いてなくてわかんないんですよ」
「ああ、そうでしたわね」
国境の手前でグレゴリーの姿を見つけた時、アロイスは「げっ」と言っていたのだった。
国境兵に呼び止められて、あれこれ訊かれることは想像できていても、グレゴリーや陛下が出てくるのは完全に予想外だった。
これについて、みんなと細かい打ち合わせなんてできなかっただろう。
それにしても、リュカやジゼルの言葉遣いやふるまいは平民にしか見えないけれど、実は違うのだろうか?
彼らに限らず、ほかの隊商の人達もそうだ。
なんとなくそれっぽいというか、昔は貴族でもおかしくないなという雰囲気を持つのがヒューゴ。
それから、元兵士という経歴でもおかしくなさそうなのが、アロイスの右腕のエタン。
私が内心でいろんな人の背景を想像しそうになると、すぐに察したリュカが「違いますよ」と言った。
「俺らは平民っすからね。お偉い人と商売することもあるんで、ちゃんと行儀のなってる奴がそこそこ多いだけで」
そうだった。
ロラン王国でも、貴族の顧客のいる商人はとてもきちんとしていたっけ。
口調やふるまいをしっかり叩きこんでおかないと、貴族相手の仕事なんてできない。
そうでないと、門前払いにされるだけならまだしも、うっかり機嫌を損ねただけで「無礼者!」って牢屋に入れられてしまう世界だから。
護衛兵の隊長さんに丁寧な挨拶をしてもらい、私達は町へ繰り出すことになった。
私の容姿は明らかに有名な聖女のもので、そうでなかったとしても生まれつきの白髪はかなり珍しい。
でも総督邸の召使いさん達もそうだったけれど、護衛兵の人達はすごくきちんとしていて、私に物珍しそうな視線を送ってくることがなかった。
というのもこの町へ着いた直後、道ゆく人々にすごくジロジロ見られていたから、余計にそれを感じるのよね。
きっと内心では好奇心たっぷりなんだろうけれど、それを出さないところにすごく好感を持てた。
いちいちロラン王国と比較するのもどうかと思うけれど、こういうことがあるたびに比較したくなるぐらい、あの国って酷かったなぁと思う。
だって私の侍女を筆頭として、周りに仕えていた人々って……召喚聖女の『リリ』が現れた途端、「こっちに仕えて失敗した」っていうのを顔にも態度にも出していたんだから。
「馬車じゃなく徒歩でいいんスよね?」
「もちろんですわ。自分の足で歩いてみたいですもの」
「了解っス。じゃあまずどこへ案内しますかね~」
「この町にしか売ってない珍しい店のがいいだろ。傘屋とか」
えっ、傘屋?
思いがけないジゼルの提案に、目が丸くなった。
2,266
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる