103 / 251
『元』聖女、出発する
103. 偶然ですから!
しおりを挟むアロイスの隊商とともにロラン王国の都を出て、ひたすら東の街道を進みながら、私達は何度も野営をした。
人里が少ないのは、私が身を隠しやすくていい。それからテントを張るのに適した平原が多く、加えて最後まで天気が崩れなくてよかったと、みんなから何度も聞いている。
にわかに空が曇り、パラパラと小雨が降ってきて、ようやくあの言葉の数々を実感したかもしれない。
心なしか馬車の足が速くなったものの、もうすぐそこに建物が見えるから、皆には余裕が漂っている。
でも、もしここが平原のど真ん中だったとすると、このまま道を進むか留まって雨を防ぐ準備をするかと、もっと忙しない空気になっていたのだろう。
アロイスいわく、発展している国はだいたい、人の移動距離に合わせてほどよい場所に宿場町があるらしい。
その言葉通り、モニークの町を出て、国境が見える街道を北寄りに二日ほど進んできたけれど、野営を一度もしていない。
朝に出発し、日が暮れそうになる頃には必ず次の集落が見えてくる。
国の端には村や町がないものだと思っていたら、他国と接している場所は人の行き来が盛んなのもあり、必ずしもそうではないとのことだった。
しかも私が大きいと思っていたモニークの町ですら、皇国内の国境の町としては小規模だったようだ。
モニークの町と、それから今回の目的地までの間は、ロラン王国方面の大瘴気群に近いということで、どちらかといえば人が寄り付かなかったという。
雨がそこまで強くないおかげで、馬車が酷く濡れる前にその建物前に到着した。
ロランの大神殿によく似ている……同じような石材を使っているからか、そう思ってしまった。
組織としては別物でも、神殿の建築物は基本構造がどこも似ているらしいので、どうしても嫌な思い出交じりの既視感を抱いてしまうのだ。
――あら? でも、服は異なりますのね。
正面から出迎えに出てくれた人々は神官だろうか。
彼らの神官服は、ロラン王国のそれとは違う。
白を基調としているのは同じだけれど、全体的に皇国風になっているから、ぱっと見でも別の人々とわかる。
何より、肌や髪の色がまるで違っていた。
「屋根のある場所までそう遠くないが、一応これを被っておけ」
アロイスがそう言って差し出したのは、笠だ。
――笠! モニークの町にあったやつー!
急にテンションの上がった私に、アロイスがうろんな目を向けてくるけれど、構わずうきうきと馬車を降りてそれを被る。
そういえば前世の私は小学生ぐらいの頃、傘を持つのが疲れるし面倒で、「帽子みたいに被れる傘があればいいのに」と思っていたことがあった。
記憶にあるお地蔵さんの昔話のイラストより、少々幅が広めの笠を被ると、頭上でパタパタと小さく水の弾ける音がした。
……た、楽しいかも。
…………私、小学生並み?
「皆様、どうぞこちらへ」
神官が声をかけてくれて、私達は急いで大神殿の門から入り、正面の階段を上がって行く。
参拝する人々の姿はない。ここは近くに村も町もなく、モニークから別の町への中継地点として存在する神殿だからだ。
屋根のある広い場所で落ち着くと、何人もの神官達が私の前に現れ、その先頭に立つ人物がアロイスに声をかけた。
「お久しぶりですね、アロイス様」
「お邪魔いたします、神官長」
えっ、神官長?
穏やかに交わされた挨拶に、一瞬目を見開きそうになった。
女性だったのだ。
ロラン王国の大神殿にも女性の神官はいたけれど、地位の高い者は男性だけ。
てっきりそういうものなのだと思っていたのに、ここも国によって違う部分だったのか。
エディットよりもだいぶ年上に見える。深い慈悲と人生経験が滲み出た目元には、つい自分の悩みも何もかも、すべて打ち明けたくなるような微笑みを湛えていた。
彼女はアロイスの次に私の顔に視線を移し、ほんの少しだけ緊張した空気を纏う。
「セレストの大神殿に、ようこそおいでくださりました。わたくしは神官長のオルタンスと申します」
……セレスト?
しまった、失敗した。
回れ右をして帰りたくなった。――この神殿の名前を訊くのを失念していたのだ。
訊いていたからといって、何が変わったとも言えないけれど。
『セレスト』なんて、明らかに私の名前とそっくりだ。
オルタンス神官長の傍で頭を下げる人々も、どこか私を見た瞬間に緊張を帯びたと感じたのは、気のせいではない。
この人達は、私が誰で何という名前なのか、間違いなく聞いている。
これは運命だとかなんだとか、符号を感じられてしまうかも。
早い段階で、偶然なんですよ! と主張しておかないと。
1,902
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる