聖女転生? だが断る

日村透

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『元』聖女、出発する

103. 偶然ですから!

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 アロイスの隊商とともにロラン王国のみやこを出て、ひたすら東の街道を進みながら、私達は何度も野営をした。
 人里が少ないのは、私が身を隠しやすくていい。それからテントを張るのに適した平原が多く、加えて最後まで天気が崩れなくてよかったと、みんなから何度も聞いている。

 にわかに空が曇り、パラパラと小雨が降ってきて、ようやくあの言葉の数々を実感したかもしれない。
 心なしか馬車の足が速くなったものの、もうすぐそこに建物が見えるから、皆には余裕が漂っている。
 でも、もしここが平原のど真ん中だったとすると、このまま道を進むか留まって雨を防ぐ準備をするかと、もっと忙しない空気になっていたのだろう。

 アロイスいわく、発展している国はだいたい、人の移動距離に合わせてほどよい場所に宿場町があるらしい。
 その言葉通り、モニークの町を出て、国境が見える街道を北寄りに二日ほど進んできたけれど、野営を一度もしていない。
 朝に出発し、日が暮れそうになる頃には必ず次の集落が見えてくる。
 国の端には村や町がないものだと思っていたら、他国と接している場所は人の行き来が盛んなのもあり、必ずしもそうではないとのことだった。

 しかも私が大きいと思っていたモニークの町ですら、皇国内の国境の町としては小規模だったようだ。
 モニークの町と、それから今回の目的地までの間は、ロラン王国方面の大瘴気群に近いということで、どちらかといえば人が寄り付かなかったという。

 雨がそこまで強くないおかげで、馬車が酷く濡れる前にその建物前に到着した。
 ロランの大神殿によく似ている……同じような石材を使っているからか、そう思ってしまった。
 組織としては別物でも、神殿の建築物は基本構造がどこも似ているらしいので、どうしても嫌な思い出交じりの既視感を抱いてしまうのだ。

 ――あら? でも、服は異なりますのね。

 正面から出迎えに出てくれた人々は神官だろうか。
 彼らの神官服は、ロラン王国のそれとは違う。
 白を基調としているのは同じだけれど、全体的に皇国風になっているから、ぱっと見でも別の人々とわかる。
 何より、肌や髪の色がまるで違っていた。

「屋根のある場所までそう遠くないが、一応これを被っておけ」

 アロイスがそう言って差し出したのは、笠だ。
 ――笠! モニークの町にあったやつー!
 急にテンションの上がった私に、アロイスがうろんな目を向けてくるけれど、構わずうきうきと馬車を降りてそれを被る。
 そういえば前世の私は小学生ぐらいの頃、傘を持つのが疲れるし面倒で、「帽子みたいに被れる傘があればいいのに」と思っていたことがあった。

 記憶にあるお地蔵さんの昔話のイラストより、少々幅が広めの笠を被ると、頭上でパタパタと小さく水の弾ける音がした。
 ……た、楽しいかも。
 …………私、小学生並み?

「皆様、どうぞこちらへ」

 神官が声をかけてくれて、私達は急いで大神殿の門から入り、正面の階段を上がって行く。
 参拝する人々の姿はない。ここは近くに村も町もなく、モニークから別の町への中継地点として存在する神殿だからだ。

 屋根のある広い場所で落ち着くと、何人もの神官達が私の前に現れ、その先頭に立つ人物がアロイスに声をかけた。

「お久しぶりですね、アロイス様」
「お邪魔いたします、神官長」

 えっ、神官長?
 穏やかに交わされた挨拶に、一瞬目を見開きそうになった。
 女性だったのだ。
 ロラン王国の大神殿にも女性の神官はいたけれど、地位の高い者は男性だけ。
 てっきりそういうものなのだと思っていたのに、ここも国によって違う部分だったのか。

 エディットよりもだいぶ年上に見える。深い慈悲と人生経験が滲み出た目元には、つい自分の悩みも何もかも、すべて打ち明けたくなるような微笑みを湛えていた。
 彼女はアロイスの次に私の顔に視線を移し、ほんの少しだけ緊張した空気を纏う。

「セレストの大神殿に、ようこそおいでくださりました。わたくしは神官長のオルタンスと申します」

 ……セレスト?
 しまった、失敗した。
 回れ右をして帰りたくなった。――この神殿の名前を訊くのを失念していたのだ。
 訊いていたからといって、何が変わったとも言えないけれど。

 『セレスト』なんて、明らかに私の名前とそっくりだ。
 オルタンス神官長の傍で頭を下げる人々も、どこか私を見た瞬間に緊張を帯びたと感じたのは、気のせいではない。
 この人達は、私が誰で何という名前なのか、間違いなく聞いている。

 これは運命だとかなんだとか、符号を感じられてしまうかも。
 早い段階で、偶然なんですよ! と主張しておかないと。


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