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『元』聖女、出発する
110. こいつは引退できるのか (5) -sideアロイス
しおりを挟むセレスティーヌの過去について、まだざっとしか説明できていないんだが、オルタンス様は深く察するところがあったようだ。
おっとりして見えて、オルタンス様は姐御肌のエディットと馬が合う。たまに本物の姉妹かと思うぐらいに。
この神殿でも最強の保護者ができたな。
隊商で味方につければ最強の保護者となるエディットは、この大神殿で薬草の栽培や薬の調合をしている神官と歓談中だ。
もし彼女がこの場にいたら、今頃セレスティーヌ置いてけぼりで、保護者の女二人によるロラン王国への大説教で盛り上がっていたことだろう。
一通り見て回ると、オルタンス様の部屋に案内された。
手ずから淹れてくださった茶を美味しそうに飲むセレスティーヌとジゼルに、見守る母のようなオルタンス様のまなざしがそそがれている。
俺より神殿に詳しいはずのセレスティーヌにとっても、こことあちらの違いは衝撃の連続だったようで、呆然とすることが多かったんだが。
今はすっかり気分が浮上したようだ。
――それはともかく、女三人か。
男が俺一人だと、下手を打ったらすぐ三対一になる。
ここにリュカがいてくれれば、あいつが俺より先にいらん発言をして、緩衝材になってくれたんだがな。
「ところで、その……わたくし、伺ってもよろしいのかしら? 大神官様の件……」
遠慮がちにセレスティーヌが切り出し、俺としてはホッとした。
女同士のお喋りを聞きながら脇役に徹するより、そういう話題を出してくれたほうが話に入りやすくて助かる。
「自然に湧いた瘴気が問題になっている地域があってな、そこから救けを求められて出向いてるのさ。ただ、予定の期間はもう過ぎているはずなんだが……」
「そろそろ二ヶ月が経つ頃です。瘴気を受けた住民が多いにしても、だいぶ長引いておりますね。緊急事態になればあちらから連絡が来るはずですが、特にそういうのもありません」
オルタンス様が言うには、先月『瘴気の発生源が不明で調査する』という連絡が来て以降、音沙汰がないらしい。
何かあったのかと気を揉むのもそうだが、もうひとつ困ったことがあった。
大神官に数名の神官が同行しており、彼らも戻ってこない。
セレストの大神殿はもともと最低限の人手でやっていたところ、無理に人を出した状態なので、これ以上の人間を送ることができないのだ。
「オルタンス様。浄化の魔石、ひょっとして間に合ってないです?」
訊きにくいことを突っ込んだのはジゼルだ。
オルタンス様は溜め息をつきつつ、「ええ」と肯定した。
「アロイス様のお話によれば、今後はモニークに送る分は不要になりそうですけれど。他地域の神殿へ既に送った分と、国の調査隊の方々に納めた分で、もう底を尽きてしまったのです」
「参拝者に配るだけじゃなく、こういうでかい神殿は緊急事態に備えて、日頃から浄化魔石を保管しとかなきゃいけないのさ」
「まあ……それが空っぽになってしまいましたのね。もしや、魔石にするための石が不足している状態なのではありませんこと?」
「仰せの通りです」
なるほど、合点がいった。
一日や二日で魔石ができるのに、どうして深刻そうなのかと不思議だったんだが。
作る速度はともかく、そもそも魔力を込めるための石が足りないのか。
「魔石に適した石を調達するか、あるいは加工するための人員がいないんだな。俺達はこれまでそういうことをよく知らずに、使用済みで魔力を失った石はそこらへんに捨てていたし……」
「そういった石は、次に使った際に割れる危険がありますので、わたくしどもも無理に回収をお願いしてはいないのです」
「そうか、そういう問題もあるんだったか」
セレスティーヌいわく、神官なら使用済みの石とそうでないものの区別がつくけれど、何度(点)魔石になった石かという点までは読み取れないそうだ。
ふと、この世にある浄化魔石に適した石をすべて使い尽くしたらどうなるんだろうなと、埒もないことが頭に浮かんだ。
「アロイス様。わたくしの作った魔石、結局は使わずに済みましたわよね? あれらをこの大神殿の方々に差しあげてはいけませんかしら」
「そうだな、あんたがいいなら構わんと思うぞ」
ここの連中なら、聖女の魔石を商品や人寄せの道具にする心配なんぞないだろう。
……ただし、あれを見たら仰天されそうだが。
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