113 / 251
『元』聖女、出発する
113. ミュリの持ち帰ったSOS
しおりを挟む「何事もなければいいと思った時は、大抵何事かがあるんだよな」
そ、れ、な! と、声を大にして叫びたかった。
世の中、いいことがあればいいなと願ったら期待を裏切られ、よくないことがありそうと思ったらだいたい的中するの、本当にやめていただきたい。
しかもアロイスの『なんかイヤな感じがする』は的中率が高いのだ。
これは物語のキャラクター設定でもそうだったし、現実に彼と過ごしてみて実感した。
ただの予感というレベルを超え、それは特殊能力の一種なのではないかと私は疑っている。
アロイスは灯り無しでも夜道に困らず、人の気配を読むこともできたりと、魔法の亜種のような能力が実際に備わっているから、充分にその可能性はあった。
リュカもそう。彼の危険を避ける勘は、賭け事などでその性質がくっきりと見えてくる。
たとえば目的が金儲けであったり、仲間内で簡単なものを賭けたゲームの時などは、リュカの勝率はほかの人々と変わらない。
ところがそこに罰ゲームが絡んでくると、彼の勘がうなる。
罰ゲームが『避けるべき危険』と判定されるようで、罰の内容が残酷であればあるほど、リュカが最下位になることは決してない。一対一の勝負であれば無敗だ。
そんなリュカも、こんなことを言っていた。
「なんかありそうっすよね。あんま関わりたくないっすけど、仕方ねぇか」
これで確定だ。
セレストの大神官は、何かがあって帰りが遅くなっている……もしくは、戻ることができない状況にある。
――せっかく王子妃教育で世界各国のことを山と学び、蘇った前世の記憶もありますのに。ウェルディエ皇国に関する知識だけ綺麗に抜けているなんて、口惜しいですわ。
この世界のもとになったと思われる物語。
前世の母親が原作者で、裏をたくさん知る機会に恵まれていたというのに、その知識が肝心のこの国でだけはほとんど役に立たないなんて。
その記憶のおかげで洗脳を自覚し、奴隷聖女の日々を逃れることができたのだから文句などないものの、なんとも歯がゆいことだった。
――そもそも前世のお母様自身、この国の設定などそこまで細かく決めてはいなかったのではないかしら。
アロイスがただのお助けキャラに格下げをされてしまった時点で、彼の故郷での出来事を細かく準備するのはやめたのではないかと思う。
アロイスを主役にしてスピンオフを書きたければ、レーベルなり出版社なりを変えなければいけなくて、それが一番面倒とも言っていたし。
……彼が主役の物語、か。
私の代わりにやる気満々で頑張ってくれているであろう、あの野心家っぽい聖女リリが主役の世界なんてごめんだけれど。
アロイスを中心に据えた物語なら、喜んで脇役を務めようという気になる。
むしろこのぐらいの距離で活躍を眺めたい。
声援を送りたい。
「なんだ? なんか話でもあるのか?」
「あ。失礼いたしましたわ。何でもございませんの」
「……?」
危ない危ない。
つい無言でじっと見上げてしまい、アロイスに怪訝そうな顔をされてしまった。
こいつ変な女だなと不審がられて、せっかくの特等席を取り上げられないように注意しなければ。
ミュリエルが帰還したのは、彼女が手紙を抱えて飛び立った翌日の夜だった。
鳥による連絡手段は本当に速い。地形も何もかも無視して、空をひとっ飛びなのだから。
天候や鳥を襲う猛禽、悪意ある人間の攻撃といった不安がなくもないけれど、何日もかけて地上を進むよりも、遭遇する危険はかなり少ないと言える。
それでもミュリエルは働き者だから、しょっちゅう行ったり来たりと忙しく、往復の回数が多い分心配になるのだった。
「タダイマ! セレ! トーリョー!」
「お帰りなさい、ミュリ!」
「向こうの様子はどうだった? 大神官様には会えたか?」
ミュリエルはアロイスの腕にとまりながら、「アエタ~!」といいお返事をした。
「デモアッチ、タイヘンナノ。マックロ、モヤモヤ~。ヤナカンジ!」
「――真っ黒、か」
アロイスが小さく眉根を寄せた。
私もそれを聞きながら、多分同じような表情になっていたことだろう。
ミュリエルの報告は続く。
「ソンデネ、デラレナイノ。カエレナイ、タスケテ、ダッテ!」
1,906
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる