聖女転生? だが断る

日村透

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『元』聖女、出発する

113. ミュリの持ち帰ったSOS

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「何事もなければいいと思った時は、大抵何事かがあるんだよな」

 そ、れ、な! と、声を大にして叫びたかった。
 世の中、いいことがあればいいなと願ったら期待を裏切られ、よくないことがありそうと思ったらだいたい的中するの、本当にやめていただきたい。
 しかもアロイスの『なんかイヤな感じがする』は的中率が高いのだ。

 これは物語のキャラクター設定でもそうだったし、現実に彼と過ごしてみて実感した。
 ただの予感というレベルを超え、それは特殊能力の一種なのではないかと私は疑っている。
 アロイスは灯り無しでも夜道に困らず、人の気配を読むこともできたりと、魔法の亜種のような能力が実際に備わっているから、充分にその可能性はあった。
 リュカもそう。彼の危険を避ける勘は、賭け事などでその性質がくっきりと見えてくる。

 たとえば目的が金儲けであったり、仲間内で簡単なものを賭けたゲームの時などは、リュカの勝率はほかの人々と変わらない。
 ところがそこに罰ゲームが絡んでくると、彼の勘がうなる。
 罰ゲームが『避けるべき危険』と判定されるようで、罰の内容が残酷であればあるほど、リュカが最下位になることは決してない。一対一の勝負であれば無敗だ。
 そんなリュカも、こんなことを言っていた。

「なんかありそうっすよね。あんま関わりたくないっすけど、仕方ねぇか」

 これで確定だ。
 セレストの大神官は、何かがあって帰りが遅くなっている……もしくは、戻ることができない状況にある。

 ――せっかく王子妃教育で世界各国のことを山と学び、蘇った前世の記憶もありますのに。ウェルディエ皇国に関する知識だけ綺麗に抜けているなんて、口惜しいですわ。

 この世界のもとになったと思われる物語。
 前世の母親が原作者で、裏をたくさん知る機会に恵まれていたというのに、その知識が肝心のこの国でだけはほとんど役に立たないなんて。
 その記憶のおかげで洗脳を自覚し、奴隷聖女の日々を逃れることができたのだから文句などないものの、なんとも歯がゆいことだった。

 ――そもそも前世のお母様自身、この国の設定などそこまで細かく決めてはいなかったのではないかしら。
 
 アロイスがただのお助けキャラに格下げをされてしまった時点で、彼の故郷での出来事を細かく準備するのはやめたのではないかと思う。
 アロイスを主役にしてスピンオフを書きたければ、レーベルなり出版社なりを変えなければいけなくて、それが一番面倒とも言っていたし。

 ……彼が主役の物語、か。

 私の代わりにやる気満々で頑張ってくれているであろう、あの野心家っぽい聖女リリが主役の世界なんてごめんだけれど。
 アロイスを中心に据えた物語なら、喜んで脇役を務めようという気になる。
 むしろこのぐらいの距離で活躍を眺めたい。
 声援を送りたい。

「なんだ? なんか話でもあるのか?」
「あ。失礼いたしましたわ。何でもございませんの」
「……?」

 危ない危ない。
 つい無言でじっと見上げてしまい、アロイスに怪訝そうな顔をされてしまった。
 こいつ変な女だなと不審がられて、せっかくの特等席を取り上げられないように注意しなければ。




 ミュリエルが帰還したのは、彼女が手紙を抱えて飛び立った翌日の夜だった。
 鳥による連絡手段は本当に速い。地形も何もかも無視して、空をひとっ飛びなのだから。
 天候や鳥を襲う猛禽、悪意ある人間の攻撃といった不安がなくもないけれど、何日もかけて地上を進むよりも、遭遇する危険はかなり少ないと言える。
 それでもミュリエルは働き者だから、しょっちゅう行ったり来たりと忙しく、往復の回数が多い分心配になるのだった。

「タダイマ! セレ! トーリョー!」
「お帰りなさい、ミュリ!」
「向こうの様子はどうだった? 大神官様には会えたか?」

 ミュリエルはアロイスの腕にとまりながら、「アエタ~!」といいお返事をした。

「デモアッチ、タイヘンナノ。マックロ、モヤモヤ~。ヤナカンジ!」
「――真っ黒、か」

 アロイスが小さく眉根を寄せた。
 私もそれを聞きながら、多分同じような表情になっていたことだろう。
 ミュリエルの報告は続く。

「ソンデネ、デラレナイノ。カエレナイ、タスケテ、ダッテ!」


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