125 / 251
未知の瘴気
125. 悲劇を回避できた条件
しおりを挟む読みに来てくださってありがとうございます!
再開します。
------------------------
隊商の皆と護衛騎士達が手分けをし、どんどん食糧を運び込んでいく。
グスタフ大神官はアロイスに憎まれ口を叩いて元気そうに見せていたけれど、全体的にやつれている雰囲気は隠し切れていない。
不幸中の幸いだったのは、神官の一人が水の浄化魔法の使い手だったことだ。
神殿内には至るところに水路があり、その水を容器に移し、浄化して飲み水にできていたらしい。
困っていたのは、やはり食べ物。
この神殿に避難していたのはグスタフ大神官と、同行していた神官の男性二名に加え、近隣から集まったおよそ五十名の村人達がいた。
「五十名もいらしたの……」
「五十名で済んだ、ちゅうところですな。このあたりの村人は瘴気が出始めた頃から、遠い村にどんどん避難を進めとったようです。様子を見るために残ったのが五十名、そのうち数人がうちの神殿に助けを求めに来たっつう流れでして」
グスタフ大神官によれば、不運ではあったものの、さまざまな幸運が重なったおかげで全員が無事だったということのようだ。
食べ物に関しても、ちょうど収穫期を迎えた果物がたくさんあり、釣った川魚や狩った獲物を備蓄用の保存食に加工したばかりだった。
神殿は瘴気の影響を受けないと皆わかっていたので、それら保存食は申し訳ないと思いつつも、神殿の適当なところに積んで保管するのがいつものことだったらしい。
「だからこれほど長期間、食い物が保ったんだな」
アロイスが感心したように溜め息をついた。
本当に、この地の人々は不運ではあったものの、ぎりぎりでラッキーを何度も拾っている。
安全な水があるというのもそうだ。
「ここの水路の水は、瘴気の影響がないのですわね」
「そうなのですよ。なので、汚れを取る浄化魔法だけで飲めるようになるのです。ほんにこの魔法には助かっとりますわ」
グスタフ大神官のねぎらいに、水の浄化を担う神官が控え目に頭を下げた。
控え目だけれど、褒められてどことなく嬉しそうだ。
――この方も少々、やつれておいでだわ……本当にぎりぎりでしたのね。
神官達も村の人々も、私達を充血した目で迎えてくれた。中には号泣して私を拝み出す人まで。
いえその……今日ばかりは無理には言いませんけれど。
でも今後はなるべく、拝まないでください。
「グスタフ大神官。あの庭にあるのは?」
アロイスが指差したのは中庭だ。
ここの中庭は土の地面になっていて、そこには何本かの植木がある。
「あれは果樹だ。ちょうどあれに実がたっぷり生っとってな。大事に食べて、最後の一個をもいだのが数日前だ。おまえさんの鳥が来たあとだったから、皆にはそこまで悲愴感がなかった。ほんに、感謝しとるぞ」
もし逆だったら、とグスタフ大神官は小声で添えた。
アロイスは「いや」と適当に答えたけれど、小声の部分はしっかり聞こえていたはずだ。
――もし逆であれば。ミュリの連絡が来る前に、最後の一個をもぐことになっていたら……
奪い合い、という言葉が頭をよぎり、ぞっとした。
本当に、間に合ってよかった。
まずは全員に食べ物を与えなければいけない。
二日ほど前に食べ物が尽き、それ以来ここの人々は水だけで生き延びていたらしい。
急に栄養を身体に入れたらよくないと、エディットの指示で食事の準備が行われ、穀物を煮込んだ上澄みのようなスープがまずは配られた。
近隣の村人が避難していると聞いていたから、身体の弱いお子さんやお年寄りがいるかもと危惧していたけれど、ここにいるのは二十代から五十代手前くらいの働き盛りな人ばかりだった。
何人かは女性もいるけれど、健康に問題はない。
「子供や年寄りはすぐに弱るから、先に避難させたそうだ」
「合点がいきましたわ」
比較的身体が強く、すぐに倒れない人々だけが残っていた。
これも、不幸中の幸いのひとつということだろう。
1,934
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる