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本編
チュロック総督府
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ある日、母に天帝からの勅書を渡された大貴はその内容に驚きつつも翌日直ぐに空港へと向かいチュロックの暫定首都、メルグァン市にあるチュロック総督府に向かった
何故突然異国の地に行くことになったかと言うとなんと大貴は太平天帝国の植民地の一つ、チュロックの解放に関することを取り決めるために編成された使節団の責任者を任せられたのだ。これは先代が第二天子派だったというだけで社交界で肩身の狭い思いをしている大貴にとって名誉挽回の大チャンスなのだ。もちろん直ぐに了承の意を示し外務省の職員を引き連れてチュロックに向かったというわけだ
「ようこそ太平天帝国領チュロック連邦へ。お待ちしておりました子爵閣下」
「お会いできて光栄です森田総督」
総督府の一室で大貴たち使節団を出迎えたのは第二次世界大戦以降130年に渡りこの植民地を支配してきたチュロック総督府の現最高責任者、森田ルミコ総督だ。彼女は植民地管理院に務める最上級国家公務員の一人で平民であり帝国三大植民地の一つであるチュロックを任される有能な人物である
「こちらこそ光栄です。まさかチュロックで純血華族の方にお会い出来るだなんて」
そう言って森田総督は大貴が差し出した手を握って二人は固く握手をした。その後ローテーブルを挟んで向かい合ったソファーに座りしばらく他愛もない世間話を続けていると総督が大貴に何気なく質問した
「ここはいかがですか?メルグァンの街を見た感想をぜひ教えてください」
「感想ですか?そうですね。始めて来ましたが想像していたより街が整備されているという印象です」
「チュロックは第一次世界大戦の折に帝国が初めて獲得した植民地です。帝国本土から離れているため他の列強の植民地統治に比べて非常に慎重な統治が行われました。130年の時を経て帝国本土とまではいきませんがここは帝国の企業も多く参入し経済規模としても非常に大きな市場を持っています。第二次世界大戦後に植民地化されたンドバ諸島とラートコ半島の統治は最初こそ順調でした。しかし三年も経たないうちに第三次世界大戦が勃発したこととその戦場が近かったことにより発展が進まず、現状は反太平主義者と呼ばれる者たちが多くいます」
「しかしここは親太平主義者が多くいるという訳ですね?」
大貴の問いに森田総督は深く頷いた
「えぇ、その通りです。そのため帝国への正式な併合を望む声も多数挙がっていました。しかし……」
「世界連合で植民地は全て独立させ、その地域の自主性を重んじる案が採択されたためそれが出来なくなったということですね」
「そうです。親帝国派の人々からは不満の声も多く上がりました。しかし私はこれで良かったと思っています」
(総督としてこの地域の実権を握る人がどうして……)
大貴は森田総督の言葉を聞いて意外に思った。そんな表情を読み取ったのか総督は苦笑して話し始めた
「太平天帝国は列強に成り上がるにつれて領土を増やした歴史があります。現在は言語も統一されましたが帝国臣民の半数以上は元々違う言葉を使う全く別の国の民族です」
「一昔前はそれが原因の就職差別や学校等でのイジメが問題視されているほどでしたからね」
「何を隠そう私の家も祖先を辿れば太平天帝国の前身の天之大安国出身ではありません。亡国の親明王国の出身です」
「そうでしたか……」
「朝廷による支配は慈悲のあるものでした。しかし朝廷はその国独自の文化を残すことを許さなかった。親明王国固有の名前や言葉の使用を禁止したのです」
森田総督は悲しそうに目を伏せた
「親明王国の旧王族や貴族官僚は華族として帝国に取り立てられました。それ故に誇りと矜持を踏みにじられようとも周辺国は帝国による支配を受け入れたのです。だから私はチュロックの人々が自らの誇りを守って独立し、帝国の手から逃れることが一番良いと考えています」
「………」
「……申し訳ありません。閣下の御前でする話ではありませんでしたね」
森田総督は純血華族の前でこのような話をしてしまったことを詫びた。大貴は気にした様子もなく口を開いた
「いいえ、総督の仰る通りかもしれません。帝国が行った統治は平和的と言われがちですがその影は今でも社交界で感じることが出来ます。天之大安国時代から続く華族の家系は純血とされ、華族の一割にも達しない数です。そして併合された周辺国出身の華族は今でこそ差別は減りましたが戦時中は『純血にあらずんば華族にあらず』と言われたほどだそうです。現在でも最高諮問機関である枢密院への列席者は純血のみと憲法に記されているくらいですから」
「子爵閣下も思うところがあるのですね」
森田総督は少し驚いた表情を浮かべた
「私は昨年まで江流波帝国大学社会学部に所属していました。そこで近代史を選択していたので近年の世界情勢にはある程度の客観的な見方ができると自負しています」
「江流波帝国大学を卒業されていたのですか。新田家の未来も明るいですわね」
「……当時は友人たちと何も気にせず勉学に集中出来る環境が整っていましたから」
(総督閣下は帝位継承争いのことをご存知ないのか?)
江流波帝国大学とは帝国中央政府の行政機関の一つである文部省傘下の国営法人が運営する国内最高峰の教育機関である。学校名に帝国という文字が使用されている大学は国家が運営する名門校とされている。その中でも江流波帝国大学は歴史が最も長く、華族でも全く優遇されない厳しい学校として有名なのだ
「閣下とこうして言葉を交わして少し安心しました」
「何故です?」
「高慢な中央の華族が来るのではないかと脅えていたので」
「はははっ、そういう思想の方が多いのは事実です。当家の本家筋にあたる堀江家は国外に太いパイプをもつ一族ですので例外と言えますが……」
森田総督はテーブルに置いてあるティーカップに口付け優雅に喉を潤す
「何はともあれ独立政府の代表者との会談は2日後です。それまではホテルを取りましたのでそちらでゆっくりとお休み下さい」
「お心遣いに感謝致します」
何故突然異国の地に行くことになったかと言うとなんと大貴は太平天帝国の植民地の一つ、チュロックの解放に関することを取り決めるために編成された使節団の責任者を任せられたのだ。これは先代が第二天子派だったというだけで社交界で肩身の狭い思いをしている大貴にとって名誉挽回の大チャンスなのだ。もちろん直ぐに了承の意を示し外務省の職員を引き連れてチュロックに向かったというわけだ
「ようこそ太平天帝国領チュロック連邦へ。お待ちしておりました子爵閣下」
「お会いできて光栄です森田総督」
総督府の一室で大貴たち使節団を出迎えたのは第二次世界大戦以降130年に渡りこの植民地を支配してきたチュロック総督府の現最高責任者、森田ルミコ総督だ。彼女は植民地管理院に務める最上級国家公務員の一人で平民であり帝国三大植民地の一つであるチュロックを任される有能な人物である
「こちらこそ光栄です。まさかチュロックで純血華族の方にお会い出来るだなんて」
そう言って森田総督は大貴が差し出した手を握って二人は固く握手をした。その後ローテーブルを挟んで向かい合ったソファーに座りしばらく他愛もない世間話を続けていると総督が大貴に何気なく質問した
「ここはいかがですか?メルグァンの街を見た感想をぜひ教えてください」
「感想ですか?そうですね。始めて来ましたが想像していたより街が整備されているという印象です」
「チュロックは第一次世界大戦の折に帝国が初めて獲得した植民地です。帝国本土から離れているため他の列強の植民地統治に比べて非常に慎重な統治が行われました。130年の時を経て帝国本土とまではいきませんがここは帝国の企業も多く参入し経済規模としても非常に大きな市場を持っています。第二次世界大戦後に植民地化されたンドバ諸島とラートコ半島の統治は最初こそ順調でした。しかし三年も経たないうちに第三次世界大戦が勃発したこととその戦場が近かったことにより発展が進まず、現状は反太平主義者と呼ばれる者たちが多くいます」
「しかしここは親太平主義者が多くいるという訳ですね?」
大貴の問いに森田総督は深く頷いた
「えぇ、その通りです。そのため帝国への正式な併合を望む声も多数挙がっていました。しかし……」
「世界連合で植民地は全て独立させ、その地域の自主性を重んじる案が採択されたためそれが出来なくなったということですね」
「そうです。親帝国派の人々からは不満の声も多く上がりました。しかし私はこれで良かったと思っています」
(総督としてこの地域の実権を握る人がどうして……)
大貴は森田総督の言葉を聞いて意外に思った。そんな表情を読み取ったのか総督は苦笑して話し始めた
「太平天帝国は列強に成り上がるにつれて領土を増やした歴史があります。現在は言語も統一されましたが帝国臣民の半数以上は元々違う言葉を使う全く別の国の民族です」
「一昔前はそれが原因の就職差別や学校等でのイジメが問題視されているほどでしたからね」
「何を隠そう私の家も祖先を辿れば太平天帝国の前身の天之大安国出身ではありません。亡国の親明王国の出身です」
「そうでしたか……」
「朝廷による支配は慈悲のあるものでした。しかし朝廷はその国独自の文化を残すことを許さなかった。親明王国固有の名前や言葉の使用を禁止したのです」
森田総督は悲しそうに目を伏せた
「親明王国の旧王族や貴族官僚は華族として帝国に取り立てられました。それ故に誇りと矜持を踏みにじられようとも周辺国は帝国による支配を受け入れたのです。だから私はチュロックの人々が自らの誇りを守って独立し、帝国の手から逃れることが一番良いと考えています」
「………」
「……申し訳ありません。閣下の御前でする話ではありませんでしたね」
森田総督は純血華族の前でこのような話をしてしまったことを詫びた。大貴は気にした様子もなく口を開いた
「いいえ、総督の仰る通りかもしれません。帝国が行った統治は平和的と言われがちですがその影は今でも社交界で感じることが出来ます。天之大安国時代から続く華族の家系は純血とされ、華族の一割にも達しない数です。そして併合された周辺国出身の華族は今でこそ差別は減りましたが戦時中は『純血にあらずんば華族にあらず』と言われたほどだそうです。現在でも最高諮問機関である枢密院への列席者は純血のみと憲法に記されているくらいですから」
「子爵閣下も思うところがあるのですね」
森田総督は少し驚いた表情を浮かべた
「私は昨年まで江流波帝国大学社会学部に所属していました。そこで近代史を選択していたので近年の世界情勢にはある程度の客観的な見方ができると自負しています」
「江流波帝国大学を卒業されていたのですか。新田家の未来も明るいですわね」
「……当時は友人たちと何も気にせず勉学に集中出来る環境が整っていましたから」
(総督閣下は帝位継承争いのことをご存知ないのか?)
江流波帝国大学とは帝国中央政府の行政機関の一つである文部省傘下の国営法人が運営する国内最高峰の教育機関である。学校名に帝国という文字が使用されている大学は国家が運営する名門校とされている。その中でも江流波帝国大学は歴史が最も長く、華族でも全く優遇されない厳しい学校として有名なのだ
「閣下とこうして言葉を交わして少し安心しました」
「何故です?」
「高慢な中央の華族が来るのではないかと脅えていたので」
「はははっ、そういう思想の方が多いのは事実です。当家の本家筋にあたる堀江家は国外に太いパイプをもつ一族ですので例外と言えますが……」
森田総督はテーブルに置いてあるティーカップに口付け優雅に喉を潤す
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「お心遣いに感謝致します」
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