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横田川公爵が退室したあとに入れ替わるように蒼士の私室に入ってきたのは専属侍従長の聖であった。
「失礼致します。本日もご苦労様でございました。何かお飲み物をご用意致しましょうか?」
「コーヒーを頼む。今日は黄色で」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
侍従長はワゴンから黄色の蝶が描かれたコーヒーカップを取り出した。そこにドリッパーを乗せてフィルターを隙間がないように丁寧に敷いた。
「聖、手際が良くなったんじゃないか?」
「……殿下の指導の賜物です」
侍従長の長谷川聖は蒼士と同じ歳で侍従長としては比較的若い。蒼士は先代侍従長が定年を理由に退職した際に自分と歳が近い彼を指名した。彼自身も大学生であるためインターンシップのような形での雇用となっている。そのため侍従としての能力は未熟であり、蒼士からしてみればもう一人の弟のように思える存在であった。
「大学の方は大丈夫か?何か時間のかかるレポート課題があれば遠慮なく休んでくれて構わないからな」
「ありがとうございます。今のところ問題はありません」
「ならいいんだが」
そう言って蒼士はソファーに深く腰かけてスマートフォンを操作した。今世界中で人気なSNSアプリケーションを閲覧しひまを潰す
「ここ半年くらいはモーデルタニアの情勢が不安定みたいだな」
「……ヘイデンシュタインとの間で緊張が高まっているようです」
大陸西部に位置するモーデルタニアは隣国のヘイデンシュタインと領土問題を抱えており、大陸東部に位置する帝国にまでその情報は伝えられていた。
「小国とはいえモーデルタニアとヘイデンシュタインは先進国家、大戦に繋がらなければいいが……」
「先程、 陛下宛にその件で内閣府から報告があったようです。国際平和に関する重要案件であるため帝室の方々にも資料が転送されているはずです」
聖の言葉を聞いて蒼士は宮内省が管理する情報共有のアプリケーションをタップして、受信ボックスを開いた
「これか」
一番上に表示された『モーデルタニア共和国とヘイデンシュタイン侯国についての報告書』をタップした。一通り目を通したあと、蒼士は軽くため息をついてこめかみを押さえた
「なるほど、内閣府がわざわざ父上に報告書をあげる訳だな」
報告書にはモーデルタニアとヘイデンシュタインは共に核兵器保有国であることと、ヘイデンシュタインの同盟国は軍事大国フィラデルフィアであることが記されていた。モーデルタニアも西ユアロプで最も強大な影響力を持つマーシャル・エルモニカを同盟国としている。
「第四次世界大戦も現実味を帯びてきたな……」
「……」
この世に存在するほとんどの国は世界平和に向けた国際協力を活動目的とする組織、「世界連合」に加盟している。その中でも特に力を持つ五つの常任理事国、フィラデルフィア合衆国、華都共和国、太平天帝国、マーシャル・エルモニカ連邦共和国、サンクトテール連邦は経済力、軍事力ともに突出している。この五カ国のうち一カ国でも参戦すれば世界中が巻き込まれるほどの大戦に発展するだろう
「合衆国のケント大統領は参戦には消極的姿勢を見せています。合衆国本土とヘイデンシュタインは距離があるため武器や燃料の支援を重点的に行うのではないかと外務省が見解を示しています」
「となると一番の問題はマーシャル・エルモニカか」
マーシャル・エルモニカは西ユアロプに位置し、世界で初めて産業革命に成功した国家として絶大な影響力を持つ。この国が参戦すれば西ユアロプだけでなくユアロプ大陸全土を巻き込む世界大戦へと規模が拡大するだろう
「マーシャル・エルモニカ自体はそこまで好戦的な国では無いが、領土防衛のためにやむを得ず参戦という可能性もあるだろう」
「西ユアロプの国々はマーシャル・エルモニカに習うでしょう。西ユアロプにおいてマーシャル・エルモニカと足並みを揃えることは最重要事項です」
「……聖、やけに西ユアロプ情勢に詳しくないか?」
「実は⎯⎯⎯⎯」
聖が口を開いて言葉を紡ごうとした時、部屋の扉がノックされた。蒼士は聖と目を合わせるが来客の予定はないようで、彼は首を横に振った。聖はノックされた扉から廊下へと出て、ノックをした侍従に要件を話すように促す
「急なのですが枢密院顧問官、神崎伯閣下と貴族院議員の野々宮伯閣下、庶民院議員の大林様が謁見を申し出ております。お取次ぎしてもよろしいでしょうか?」
「無礼な。顧問官といえども天子殿下の休息を妨げることなど許されない。お引き取り願え」
「よろしいのでしょうか?」
「かまわない。枢密院とはあくまでも諮問機関、 第一天子殿下に仕える我々侍従が彼らに遠慮する必要は無い」
「かしこまりました。侍従長閣下の仰せのままに」
侍従が軽く頭を下げて来た道を戻ろうとすると背後から人影が近付いてきた
「こ、困ります!あちらのお部屋でお待ちいただくように申し上げたではありませんか!」
侍従はこちらに向かってくる人影に焦り口調で呼びかけた
「私たちは天帝陛下の御言葉を伝えに来たのです。これは謁見申請ではなく面会命令だと伝えたはずですわ」
帝国の伝統的な衣装に身を包んだ初老の女性は扇で侍従の首元をなぞった。肩から顎下に扇を滑らせ、侍従の顔を上に向けさせる
「私の前に立つことが出来るのは大天族の尊き方々のみ。今すぐ下がるか、宮殿から永久に追放されるか選びなさい」
「……た、大変失礼を致しました。か、神崎伯閣下」
「二度と私の行く手を阻むでない」
「……御意に」
「立ち去りなさい」
初老の女性⎯⎯⎯神崎伯爵は扇で侍従を追い払うような仕草して彼をこの場から退かせた。
「これはこれは神崎伯閣下に野々宮伯閣下、それに大林議員まで如何されたのです?」
「我々は天帝陛下の御言葉を天子殿下に直接お伝えするために各議会の代表としてここに赴いた」
「宮内省からの通達はまだ来ていません」
そのような重要な要件の場合、全て宮内省を通すことが通例だ
「陛下は後継の方々が世に力を示すことをお望みであらせられる。貴様は第一天子殿下に与えられた機会を奪うつもりか?」
「どのような理由であれ天子殿下の私的なお時間を邪魔する権利は貴公にはありません」
聖がそう言って三人を追い返そうとすると一番後ろに控えていた人物が声を荒らげた
「我らは三議会を代表して来たのです。侍従長殿、まずは拝謁が叶うのか殿下に確認を取って頂きたい。我らとて殿下の意思を無視したい訳では無い」
庶民院議員の大林氏だ。彼は平民出身者で構成される庶民院の代表としてここに赴いたようだ。心做しか神崎伯爵に比べ、言葉が優しいと聖は感じた
「大林卿の言う通りです。侍従長殿、我々の事が気に入らないのであれば貴方が直接天子殿下に許可を取れば良いだけのこと」
野々宮伯爵もそれに追従するように言葉を紡いだ
「左様、天帝陛下からの使者ともいえる我らがここに赴くことは宮内省には通達済みよ。そちらの連携不足で我ら議会の代表にこのような無礼を──────」
「すまないね伯爵。私が侍従長に丁重に断るように申し付けたんだ」
部屋の扉が勢い良く開かれ、そこから顔を出した蒼士は神崎伯爵の言葉を遮って聖を庇った。蒼士の急な登場に面食らった三人だかすぐに冷静さを装い、深々と頭を下げた
「いと尊き一番目の天星、天子殿下にご挨拶致します。枢密院顧問官、神崎玲子でございます。本日は天帝陛下の命により参上致しました。本日も天の御加護が殿下と共にありますようにお祈り申し上げます」
「蒼士天子殿下に貴族院伯爵議員、野々宮一がご挨拶致します。本日は貴族院議会を代表して参上致しました。殿下と拝謁できました今日というめでたき日を迎えることができ、天の大いなる導きに感謝するばかりでございます」
「庶民院議員、大林誠一郎が第一天子殿下にご挨拶申し上げます。私は庶民院議会の代表として御二方と共に参上致しました。天の導きに感謝の祈りをお捧げ致します」
聖は急に態度を変えた三人に侮蔑の視線を送ったが、視線を床に向けている彼らが気づく様子もない。蒼士はそれを気にした様子もなく彼らを部屋に招き入れた
「それで我が宮へは何の用だ?侍従長からも宮内省からも何も聞いていないが」
「我らは天帝陛下のご指示に従いここに赴きました。どうやら宮内省の伝達ミスのようですわ。宮内大臣にはしっかりと抗議致します。」
「そうだったのか。三人とも、私の臣下が無礼を働いたようで申し訳ない。私に免じて許してやってくれないか」
蒼士は申し訳なさそうな表情を浮かべて頬をポリポリとかいた
「とんでもございません。この世で最も偉大な帝室の血を引く貴方様の御言葉を耳にすれば数多の民が大地に平伏し、御身に謝罪という罪深き行いをさせてしまったことをその命を持って償うことになるでしょう」
「……肝に銘じるよ」
神崎伯爵は暗に「大天族たるもの簡単に謝罪をするな」と言いたいのだろう。宮内省内部の責任まで蒼士が庇う必要は本来無いのだ。それは軽率な行為であり、忠誠心が強い臣下は自死を選んでもおかしくない。
「宮内省には枢密院から厳重に注意させます 」
神崎伯爵は聖を軽く睨みつけた後に言葉を続けた
「これより天帝陛下の御言葉をお伝え致します」
神崎伯爵がそう言うと大林氏が持っていたタブレット端末を手渡した。
『我が息子、蒼士に君主としての試練を与えよう。これからこの帝国を支配する者としての器を示すときが来たのだ。来たるべき大戦に備えよ。それが私の望みだ』
神崎伯爵は御言葉を読み終えると胸に手を当てて一礼した
「天帝陛下は此度のモーデルタニアとヘイデンシュタインに関する全権を第一天子殿下に委任するとの事です。外務省と国防省及び関係各所には通達済みです」
「どうか第一天子殿下がこの戦に勝利し」
「我ら帝国の臣民を更なる高みへお導きくださることを」
「「「天に願います」」」
神崎伯爵、野々宮伯爵、大林氏は深く頭を下げ、蒼士へ敬意を示した。蒼士が想定外の事態に驚き、中々言葉を発せないでいるとバタバタと遠くの方から足音が聞こえてきた。この場の妙な緊張感を断ち切るように勢いよく入室してきたのは先程の侍従だった。
「お話中に失礼致します。外務省よりの緊急のご報告でございます!」
「どうした?」
聖が問いただす
「ヘイデンシュタイン侯国がモーデルタニア共和国に宣戦を布告!全ての外交交渉を打ち切り、国境を封鎖したとのことです!宣戦布告を受けたモーデルタニアはマーシャル・エルモニカ連邦に支援を要請、連邦はこれを受諾しました!」
ついに開戦の火蓋が切られたのだった、
「失礼致します。本日もご苦労様でございました。何かお飲み物をご用意致しましょうか?」
「コーヒーを頼む。今日は黄色で」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
侍従長はワゴンから黄色の蝶が描かれたコーヒーカップを取り出した。そこにドリッパーを乗せてフィルターを隙間がないように丁寧に敷いた。
「聖、手際が良くなったんじゃないか?」
「……殿下の指導の賜物です」
侍従長の長谷川聖は蒼士と同じ歳で侍従長としては比較的若い。蒼士は先代侍従長が定年を理由に退職した際に自分と歳が近い彼を指名した。彼自身も大学生であるためインターンシップのような形での雇用となっている。そのため侍従としての能力は未熟であり、蒼士からしてみればもう一人の弟のように思える存在であった。
「大学の方は大丈夫か?何か時間のかかるレポート課題があれば遠慮なく休んでくれて構わないからな」
「ありがとうございます。今のところ問題はありません」
「ならいいんだが」
そう言って蒼士はソファーに深く腰かけてスマートフォンを操作した。今世界中で人気なSNSアプリケーションを閲覧しひまを潰す
「ここ半年くらいはモーデルタニアの情勢が不安定みたいだな」
「……ヘイデンシュタインとの間で緊張が高まっているようです」
大陸西部に位置するモーデルタニアは隣国のヘイデンシュタインと領土問題を抱えており、大陸東部に位置する帝国にまでその情報は伝えられていた。
「小国とはいえモーデルタニアとヘイデンシュタインは先進国家、大戦に繋がらなければいいが……」
「先程、 陛下宛にその件で内閣府から報告があったようです。国際平和に関する重要案件であるため帝室の方々にも資料が転送されているはずです」
聖の言葉を聞いて蒼士は宮内省が管理する情報共有のアプリケーションをタップして、受信ボックスを開いた
「これか」
一番上に表示された『モーデルタニア共和国とヘイデンシュタイン侯国についての報告書』をタップした。一通り目を通したあと、蒼士は軽くため息をついてこめかみを押さえた
「なるほど、内閣府がわざわざ父上に報告書をあげる訳だな」
報告書にはモーデルタニアとヘイデンシュタインは共に核兵器保有国であることと、ヘイデンシュタインの同盟国は軍事大国フィラデルフィアであることが記されていた。モーデルタニアも西ユアロプで最も強大な影響力を持つマーシャル・エルモニカを同盟国としている。
「第四次世界大戦も現実味を帯びてきたな……」
「……」
この世に存在するほとんどの国は世界平和に向けた国際協力を活動目的とする組織、「世界連合」に加盟している。その中でも特に力を持つ五つの常任理事国、フィラデルフィア合衆国、華都共和国、太平天帝国、マーシャル・エルモニカ連邦共和国、サンクトテール連邦は経済力、軍事力ともに突出している。この五カ国のうち一カ国でも参戦すれば世界中が巻き込まれるほどの大戦に発展するだろう
「合衆国のケント大統領は参戦には消極的姿勢を見せています。合衆国本土とヘイデンシュタインは距離があるため武器や燃料の支援を重点的に行うのではないかと外務省が見解を示しています」
「となると一番の問題はマーシャル・エルモニカか」
マーシャル・エルモニカは西ユアロプに位置し、世界で初めて産業革命に成功した国家として絶大な影響力を持つ。この国が参戦すれば西ユアロプだけでなくユアロプ大陸全土を巻き込む世界大戦へと規模が拡大するだろう
「マーシャル・エルモニカ自体はそこまで好戦的な国では無いが、領土防衛のためにやむを得ず参戦という可能性もあるだろう」
「西ユアロプの国々はマーシャル・エルモニカに習うでしょう。西ユアロプにおいてマーシャル・エルモニカと足並みを揃えることは最重要事項です」
「……聖、やけに西ユアロプ情勢に詳しくないか?」
「実は⎯⎯⎯⎯」
聖が口を開いて言葉を紡ごうとした時、部屋の扉がノックされた。蒼士は聖と目を合わせるが来客の予定はないようで、彼は首を横に振った。聖はノックされた扉から廊下へと出て、ノックをした侍従に要件を話すように促す
「急なのですが枢密院顧問官、神崎伯閣下と貴族院議員の野々宮伯閣下、庶民院議員の大林様が謁見を申し出ております。お取次ぎしてもよろしいでしょうか?」
「無礼な。顧問官といえども天子殿下の休息を妨げることなど許されない。お引き取り願え」
「よろしいのでしょうか?」
「かまわない。枢密院とはあくまでも諮問機関、 第一天子殿下に仕える我々侍従が彼らに遠慮する必要は無い」
「かしこまりました。侍従長閣下の仰せのままに」
侍従が軽く頭を下げて来た道を戻ろうとすると背後から人影が近付いてきた
「こ、困ります!あちらのお部屋でお待ちいただくように申し上げたではありませんか!」
侍従はこちらに向かってくる人影に焦り口調で呼びかけた
「私たちは天帝陛下の御言葉を伝えに来たのです。これは謁見申請ではなく面会命令だと伝えたはずですわ」
帝国の伝統的な衣装に身を包んだ初老の女性は扇で侍従の首元をなぞった。肩から顎下に扇を滑らせ、侍従の顔を上に向けさせる
「私の前に立つことが出来るのは大天族の尊き方々のみ。今すぐ下がるか、宮殿から永久に追放されるか選びなさい」
「……た、大変失礼を致しました。か、神崎伯閣下」
「二度と私の行く手を阻むでない」
「……御意に」
「立ち去りなさい」
初老の女性⎯⎯⎯神崎伯爵は扇で侍従を追い払うような仕草して彼をこの場から退かせた。
「これはこれは神崎伯閣下に野々宮伯閣下、それに大林議員まで如何されたのです?」
「我々は天帝陛下の御言葉を天子殿下に直接お伝えするために各議会の代表としてここに赴いた」
「宮内省からの通達はまだ来ていません」
そのような重要な要件の場合、全て宮内省を通すことが通例だ
「陛下は後継の方々が世に力を示すことをお望みであらせられる。貴様は第一天子殿下に与えられた機会を奪うつもりか?」
「どのような理由であれ天子殿下の私的なお時間を邪魔する権利は貴公にはありません」
聖がそう言って三人を追い返そうとすると一番後ろに控えていた人物が声を荒らげた
「我らは三議会を代表して来たのです。侍従長殿、まずは拝謁が叶うのか殿下に確認を取って頂きたい。我らとて殿下の意思を無視したい訳では無い」
庶民院議員の大林氏だ。彼は平民出身者で構成される庶民院の代表としてここに赴いたようだ。心做しか神崎伯爵に比べ、言葉が優しいと聖は感じた
「大林卿の言う通りです。侍従長殿、我々の事が気に入らないのであれば貴方が直接天子殿下に許可を取れば良いだけのこと」
野々宮伯爵もそれに追従するように言葉を紡いだ
「左様、天帝陛下からの使者ともいえる我らがここに赴くことは宮内省には通達済みよ。そちらの連携不足で我ら議会の代表にこのような無礼を──────」
「すまないね伯爵。私が侍従長に丁重に断るように申し付けたんだ」
部屋の扉が勢い良く開かれ、そこから顔を出した蒼士は神崎伯爵の言葉を遮って聖を庇った。蒼士の急な登場に面食らった三人だかすぐに冷静さを装い、深々と頭を下げた
「いと尊き一番目の天星、天子殿下にご挨拶致します。枢密院顧問官、神崎玲子でございます。本日は天帝陛下の命により参上致しました。本日も天の御加護が殿下と共にありますようにお祈り申し上げます」
「蒼士天子殿下に貴族院伯爵議員、野々宮一がご挨拶致します。本日は貴族院議会を代表して参上致しました。殿下と拝謁できました今日というめでたき日を迎えることができ、天の大いなる導きに感謝するばかりでございます」
「庶民院議員、大林誠一郎が第一天子殿下にご挨拶申し上げます。私は庶民院議会の代表として御二方と共に参上致しました。天の導きに感謝の祈りをお捧げ致します」
聖は急に態度を変えた三人に侮蔑の視線を送ったが、視線を床に向けている彼らが気づく様子もない。蒼士はそれを気にした様子もなく彼らを部屋に招き入れた
「それで我が宮へは何の用だ?侍従長からも宮内省からも何も聞いていないが」
「我らは天帝陛下のご指示に従いここに赴きました。どうやら宮内省の伝達ミスのようですわ。宮内大臣にはしっかりと抗議致します。」
「そうだったのか。三人とも、私の臣下が無礼を働いたようで申し訳ない。私に免じて許してやってくれないか」
蒼士は申し訳なさそうな表情を浮かべて頬をポリポリとかいた
「とんでもございません。この世で最も偉大な帝室の血を引く貴方様の御言葉を耳にすれば数多の民が大地に平伏し、御身に謝罪という罪深き行いをさせてしまったことをその命を持って償うことになるでしょう」
「……肝に銘じるよ」
神崎伯爵は暗に「大天族たるもの簡単に謝罪をするな」と言いたいのだろう。宮内省内部の責任まで蒼士が庇う必要は本来無いのだ。それは軽率な行為であり、忠誠心が強い臣下は自死を選んでもおかしくない。
「宮内省には枢密院から厳重に注意させます 」
神崎伯爵は聖を軽く睨みつけた後に言葉を続けた
「これより天帝陛下の御言葉をお伝え致します」
神崎伯爵がそう言うと大林氏が持っていたタブレット端末を手渡した。
『我が息子、蒼士に君主としての試練を与えよう。これからこの帝国を支配する者としての器を示すときが来たのだ。来たるべき大戦に備えよ。それが私の望みだ』
神崎伯爵は御言葉を読み終えると胸に手を当てて一礼した
「天帝陛下は此度のモーデルタニアとヘイデンシュタインに関する全権を第一天子殿下に委任するとの事です。外務省と国防省及び関係各所には通達済みです」
「どうか第一天子殿下がこの戦に勝利し」
「我ら帝国の臣民を更なる高みへお導きくださることを」
「「「天に願います」」」
神崎伯爵、野々宮伯爵、大林氏は深く頭を下げ、蒼士へ敬意を示した。蒼士が想定外の事態に驚き、中々言葉を発せないでいるとバタバタと遠くの方から足音が聞こえてきた。この場の妙な緊張感を断ち切るように勢いよく入室してきたのは先程の侍従だった。
「お話中に失礼致します。外務省よりの緊急のご報告でございます!」
「どうした?」
聖が問いただす
「ヘイデンシュタイン侯国がモーデルタニア共和国に宣戦を布告!全ての外交交渉を打ち切り、国境を封鎖したとのことです!宣戦布告を受けたモーデルタニアはマーシャル・エルモニカ連邦に支援を要請、連邦はこれを受諾しました!」
ついに開戦の火蓋が切られたのだった、
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