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第百四十五話:隠された要塞、平和な顔した「罠」の庭
しおりを挟むその夜、リーフ村を優しい月光が包み込んでいた。
昼間、リサと一緒に泥んこになって遊び、母リリアに「もう、お兄ちゃんなんだから!」と叱られながら風呂に入った「子供のルークス」は、今、寝室のベッドの中で死んだように眠っている――。
……はずだった。
「……フェン、準備はいいか?」
「主よ、我が夜目が役立つ時だな。……しかし、その手に持っている植物の種からは、およそ平和とは無縁の『殺気』を感じるぞ」
音もなく窓から抜け出した俺の肩で、フェンが呆れたように呟く。
俺の掌にあるのは、ポイントで交換した特殊な種子だ。
【防衛用・偽装茨『スリーピング・ローズ』:500pt】
【検知用・発光苔『アイ・モス』:300pt】
「失礼な。これは『平和を守るための抑止力』だよ。前世でも、優秀なセキュリティソフトほど、ユーザーの目には見えないところで動いていたもんだ」
俺はまず、村の境界線にある古い石垣へと向かった。
ここには、昼間にリサと追いかけっこをしながら目星をつけておいた「死角」がある。
「【植物成長加速 Lv.2】――発動」
手にした種を石垣の隙間に落とし、意識を集中させる。
淡い金色の光が指先から溢れ、種を包み込んだ。
刹那。
土を割って芽吹いた茨が、まるで意思を持つ蛇のように石垣を這い上がり、一瞬にして周囲と同化した。
(よし……。見た目はただの枯れかけた茨だ。だが、これには『悪意鑑定』が組み込まれている)
侵入者が「盗み」や「加害」の意志を持ってこの茨の半径二メートル以内に近づけば、茨は一瞬にして鉄よりも硬く、鋭い針を持つ「鋼の檻」へと変貌する。
平和な時はただの枯れ木。だが、牙を向けた瞬間に死神に変わる。これが俺の目指すセキュリティの第一段階だ。
「主よ、次はあっちの『案山子(かかし)』か?」
「ああ。村長さんには『古くなったから補強しておく』って言ってある」
村の広場を見渡す位置に立つ、年季の入った案山子。
俺はそこへ歩み寄り、ポイントを消費して実体化させたアイテムを取り付けた。
【自動迎撃用・魔力散弾ユニット:1,200pt】
【偽装カバー(藁・古布仕様):100pt】
見た目は、どこからどう見ても、首が少し傾いだ滑稽な案山子だ。
だが、その内部には俺の魔力を動力源とした感知センサーが組み込まれている。
万が一、俺がいない間に村に武装集団が現れれば、この案山子は首を三百六十度回転させ、非殺傷の「魔力衝撃波」を散弾のように撃ち出し、一帯の人間をまとめて気絶させる。
「……よし。これで、村の『目』と『手』は揃ったな」
俺は額の汗を拭った。
現在のポイント残高は、さらに削られて【保有ポイント:6,850pt】。
だが、これだけの投資でリーフ村が「見えない要塞」に変わるなら、安いものだ。
「主よ……一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「その……あそこの畑の隅に置いた『ただのジョウロ』。あれは何だ? 我には、あれが一番不気味に見えるのだが」
フェンが指差したのは、父アルフレッドがいつも使っている、古びた鉄製のジョウロだ。
俺は不敵に笑った。
「ああ、あれか。あれは【アイテムカスタマイズ:隠し煙幕噴射機能】を付与した。……もし敵に追い詰められても、あのジョウロの取っ手を特定の角度で握れば、半径五十メートルを視界ゼロにする濃霧が発生する。その間に、みんなを安全な地下貯蔵庫へ逃がす手筈だ」
「……主、お前は本当に『農民』か? 我が知る限りの暗殺ギルドよりよほど周到だぞ」
「褒め言葉として受け取っておくよ。……ブラック企業では、最悪の事態を想定してプランB、プランCを用意しておくのは常識だったからな」
作業を終え、俺は静かになった村を見渡した。
明日になれば、村人たちはいつも通り起きてきて、案山子に挨拶をし、石垣の茨を「邪魔だな」と笑いながら避けて通るだろう。
彼らが、自分の住む場所が「要塞」に変わったことなど、一生知らずに済むのが一番いい。
その時。
ふと、システムウィンドウが勝手に開き、視界の端で激しく明滅した。
【 …… [WARNING] …… 】
【 …… 未知の接続を遮断しました …… 】
【 …… プロトコル [L0-V3] 稼働率 0.02% …… 】
(……またこれか)
脳を刺すような鋭い痛み。
俺は膝をつき、必死に呼吸を整えた。
管理組合。ポイントシステム。
そして、俺が今築いているこの「要塞」すらも、何者かに見張られているような感覚。
「ルークス!? おい、どうした!」
フェンの焦ったような声が遠くに聞こえる。
俺は痛む頭を抑えながら、意識が遠のく中で、石垣の茨に手を触れた。
(……見守っていてくれよ。俺の、この小さな『平穏』を)
五歳の子供としての「演技」が綻びそうになるほどの重圧を感じながら、俺は深い闇の中へと沈んでいった。
---
【読者へのメッセージ】
第百四十五話、最後までお読みいただきありがとうございます!
ルークスによる「ガチすぎる村のセキュリティ工事」、いかがでしたでしょうか。
案山子やジョウロといった日常の道具を、ポイントの力で「防衛兵器」へと変えていくプロセス……。これこそ、現代知識と異世界スキルの融合ですね。
しかし、そんなルークスの努力を嘲笑うかのように、再び現れた謎のシステムエラー。
次話、ルークスが倒れる!? そして、彼を狙う影がついに動き出す……。
「要塞化のアイデアが面白い!」「プロトコルの謎が気になる!」という方は、ぜひ評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!
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