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第百四十六話:静寂を切り裂く悲鳴、案山子は夜に嗤う
しおりを挟む深い闇に包まれた、深夜のリーフ村。
風が木の葉を揺らす音と、遠くで聞こえるフクロウの鳴き声。それは、どこにでもある平和な農村の夜の風景だった。
だが、その静寂を切り裂くように、村の北側に位置する森の境界線で、数条の黒い影が躍った。
影の正体は、王都の裏社会で「掃除人」として恐れられる暗殺者集団の先遣隊だ。彼らは一様に、魔法の術式が織り込まれた隠密の外套を纏い、熱源すら遮断するプロの殺人集団だった。
「……ここか。汚職文官どもをハメ、宰相閣下の計画を狂わせた小僧の住処は」
リーダー格の男、ザインは冷徹な眼光で村を見下ろした。
彼らに下された命は「ルークス・グルトの暗殺」および「村の完全な無力化」。
相手は五歳の子供だが、辺境伯領の財政を一晩で整理し、伝説の魔獣を従える化け物だ。ザインは一切の油断を排し、部下たちに指先で合図を送る。
「慎重に行け。まずは見せしめに、村の外縁にある家を一つ焼き払う。住民がパニックになった隙に、ターゲットの寝室へ突入するぞ」
暗殺者たちは音もなく石垣へと手をかけた。
彼らにとって、この程度の石垣を飛び越えるなど、赤子の手をひねるより容易い。
だが――ザインが石垣を一蹴し、村の敷地内へと足を踏み入れた、その刹那。
ガサリ、と。
足元の、昼間は枯れかけたように見えていた茨が、意思を持つ大蛇のように蠢いた。
「!? なんだ、この茨は……ぐあああああッ!?」
ザインの足首を、鉄の針を備えた茨【スリーピング・ローズ】が音速で締め上げる。
それは単なる植物ではなかった。侵入者の「殺意」に反応し、その殺意の強度に応じて硬度を増す、ルークスの魔力が込められた迎撃トラップだ。
「隊長!? な、なんだこれは、外れない! 斬れ、早くこの蔦を――ひっ!?」
助けに入ろうとした二人の暗殺者が、反射的に剣を抜いた。
それが命取りだった。武器を抜き、「攻撃」の意志を明確にした瞬間、村の四方に埋められた『偽装魔石』が共鳴。周囲の空間座標を狂わせる「空間迷彩」が発動した。
「地面が……消えた!? うわあああ!」
昨日までそこにあったはずの平坦な道が、暗殺者たちの目には底なしの沼地、あるいは鋭い剣山のように歪んで見える。彼らが混乱の中で足掻いた時、村の中央広場から「ギギギ……」と不気味な、乾いた木の擦れる音が響いた。
「……お、おい。あの案山子、こっちを見てるぞ?」
月明かりの下、首を百八十度真後ろに回転させ、暗殺者たちを真っ直ぐに見据える「古びた案山子」。
麦わら帽子の下、へのへのもじで描かれた顔が、月光に照らされて嘲笑を浮かべているように見えた。
「魔法か!? 迎撃用ゴーレムか! 散れ、散――」
ドォォォォォン!!
ザインの言葉が終わる前に、案山子の胸部から不可視の衝撃波が放たれた。
【魔力散弾ユニット】。
空気を極限まで圧縮し、一点ではなく面で叩きつけるその一撃は、暗殺者たちが展開していた防護魔法を紙細工のように引き裂き、彼らをまとめて数十メートル後方へと吹き飛ばした。
「ぐはっ……が、あ……。なんだ、この村は……。化け物の……巣か……っ!」
這いつくばるザインの目の前に、さらなる「絶望」が転がっていた。
それは、父アルフレッドがいつも畑で使い、昨日も庭に置き忘れられていたはずの、古びた鉄製のジョウロだった。
吹き飛ばされた暗殺者の一人が、その取っ手に偶然触れた瞬間――。
シュゴォォォォッ!!
ジョウロの注ぎ口から、視界を完全に遮断する超濃縮の白い霧が噴出した。
ただの霧ではない。ルークスがポイントで配合した、神経系を一時的に麻痺させる特殊な「催眠成分」を含んだ魔法煙幕だ。
「目が見えない……! 息が……意識が……」
「お助け……。ここは……本当に……ただの……農村……なのか……」
暗殺者たちは、ルークスの姿を拝むことすら叶わず、自分たちが何に敗れたのかも理解せぬまま、次々と闇の中へ沈んでいった。
その頃。
自室のベッドで、システムエラーの反動による熱に浮かされていたルークスは、深い意識の底で響く「声」を聞いていた。
【 …… プロトコル [L0-V3] …… 】
【 …… 自律防衛システム:全目標の無力化を確認 …… 】
【 …… 防衛成功報酬:2,000pt を加算します …… 】
(……ふふ。案山子、ちゃんと仕事してるみたいだな……)
夢うつつの中で、ルークスは小さく口角を上げた。
ブラック企業のサーバーが不正アクセスを自動で検知し、瞬時にIPを遮断した時の、あの淡々とした達成感。
俺が寝ていても、俺が倒れていても、システムが「平穏」を維持する。
これこそが、俺が目指した究極のセキリュティ・スローライフだ。
「……よし、フェン……。あとの掃除は……任せたぞ……」
ルークスは再び、深い眠りへと落ちていった。
翌朝。
黄金色の朝日が差し込む頃、リーフ村の住民たちはいつも通り起き出した。
「あら、石垣の茨に、変な服を着た男たちが絡まってるわよ?」
「広場の案山子の前にも、白目を剥いて倒れてる奴らがいるな。……昨日の祭りで飲み過ぎた旅人か?」
村のおばさんたちが暢気に笑いながら、暗殺者たちの横を通り過ぎ、畑へと向かう。
誰一人、自分たちの村が昨夜「地獄の要塞」と化していたことに気づかない。
それこそが、ルークスが最も望んでいた結末だった。
リーフ村の平和は、今日も守られていた。
ルークスが設置した「ガチすぎるセキュリティ」の手によって。
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【読者へのメッセージ】
第百四十六話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに「自動防衛網」が火を噴きました! ルークスが寝込んでいる間に、王都の暗殺者たちが案山子やジョウロという「日常の道具」に完膚なきまでに叩きのめされる姿……なろう系屈指のカタルシスを感じていただけたでしょうか。
敵視点から描くことで、ルークスの「過剰なまでの防衛準備」の恐ろしさがより際立ちましたね。
次回、目覚めたルークスと、捕らえた暗殺者たちの尋問。そして、背後に潜む「真の黒幕」への反撃が始まります!
面白いと思ってくださった方は、ぜひ評価やブックマークをよろしくお願いします!
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