初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-

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「あれは俺の緊張をほぐすためだと思うよ。いいお父さんだよ」
「樹貴さんは優しいですね。私は許せませんけどね」
 本当に樹貴さんのご家族とは大違いだ。
 実は樹貴さんのご家族には、既に先日挨拶を済ませている。
 というのも、友梨さんが気を利かせてくれて、ご両親が揃って私たちが住んでる家、つまり自分たちの家に顔を出してくれたのだ。
 樹貴さんはお母様に似たのか、お父様はダンディで素敵な方だったけど、樹貴さんに比べるとそこまで色男という感じではなかった。
 逆にお母様は驚くほど若々しくてお綺麗で、なんでこんな奥様がいて浮気なんか出来たんだろうと、失礼なことを思ってしまった。
 友梨さんが間に入ってくれたこともあり、ご両親は私たちの結婚を快諾してくださって、結婚後もあの家に住めばいいじゃないかと提案してくださった。
「大仕事を終えたら、なんか一気に疲労感が襲ってきた」
「大仕事だなんて。大袈裟ですよ」
「いやいや、大事なお嬢さんとの結婚だからね」
「それなのに、父が悪ふざけして本当にすみません」
「だからもうそれは良いって」
 樹貴さんは思い出し笑いをして肩を揺らしている。
「それより、本当に良かったんですか」
「ん? なにが」
「あの家に住むことですよ」
「ああ、俺は全然構わないよ。香澄ちゃんはやっぱり通勤が不便かな」
「いえ、それは別に良いんです。自転車通勤だからトレーニングにもなりますし。だけど管理も大変ですよね」
「それは武田さんが引き続き管理を続けてくれるから大丈夫だよ。まあ、今よりは来てくれる頻度は下がるだろうけど、他の人を雇っても良いし」
「随分簡単に言いますけど、家の中のことを任せるなら、それなりの人を探さないと大変ですよ」
「それは武田さんが力になってくれるだろうから、問題はないよ」
「そうですか? なら良いんですけど」
 電車を乗り継いで最寄駅に到着すると、うちの実家から手土産にスイーツやパンを大量にもらってきたので、スーパーに寄って、ジャムやパテ、チーズなんかも買ってから家に帰宅する。
「ふう。やっと帰ってきた」
「お疲れ様でした。コーヒー淹れますか? それともお酒にしますか」
「そうだね、ワインを飲みながら、いただいたパンを食べたいかな」
「じゃあワイン持ってきますね」
「あ、俺も行くよ。お皿とかいるでしょ」
 座ったばかりのソファーから立ち上がって、樹貴さんが私の手を取って二人で一緒にダイニングキッチンに向かう。
 買ってきたチーズをカットしてお皿に盛り付けると、ジャムやパテを掬うバターナイフを用意して、樹貴さんが選んだワインとグラスを持ってリビングに戻った。
「これでいよいよ本格的に結婚のことが決められるね」
「そうですけど、樹貴さんのお仕事関係の方をお呼びするなら、小規模でとは言ってられないですよね」
「そうなんだよね。プライベートに仕事は持ち込みたくないんだけど、こればっかりはそうもいかなくて」
「仕方ないですよ」
「レセプションのパートナーとかも、やってもらう機会が出てくると思うけど、本当にごめんね」
「ちょっと想像出来ないですけど、他の人に任せる訳にもいかないですし頑張ります。そもそも今まではどうしてたんですか」
「同伴者ってこと?」
「あ、その顔でなんとなく分かるんで大丈夫です」
「過去のことだから大目に見て欲しい」
「大丈夫です。私だって大人ですから。嫉妬しない訳じゃないですけど、過去はどうしようもないので」
 これから決めなきゃいけないことや、覚えていかないといけないことがたくさんある。
 でもそれは二人の新たなスタート地点に立てたってことなんだから、プラスに考えたいと思う。
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