【完結】小公爵様、死亡フラグが立っています。

曽根原ツタ

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一章

〈22〉大切な人を守りたいので、物理的に強くなろうと思います(1)

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 学園祭を終えて、ロベリアは一躍時の人となっていた。

「あの方が、あのユーリ様と一緒に踊ったというご令嬢?   普通というかなんというか……地味ね」
「ばか、それは不敬よ。彼女はアヴリーヌ公爵家のご令嬢なんだから。あんまり下手なこと言うもんじゃないわ」
「彼女、ご友人方もそうそうたる名家の方ばかりですのよ。誰も文句を言えませんわ」
「でも私は納得できないわ。だって、私たちのユーリ様だもの!」

 ロベリアは張り付くような視線を感じながら、よろよろと歩いた。

(……人の目が痛い……。みんなしてユーリ様、ユーリ様って……どれだけあの人は人気あるのよ)

 国一の婿候補の二つ名は伊達ではない。彼のおかげで、あのユーリ・ローズブレイドと踊った謎の令嬢として、ロベリアの知名度はうなぎ登りである。

「はは、ロベリアはすっかり有名人だね」

 何食わぬ顔で颯爽と登場したのはユーリ。

「誰のせいでこんな目に遭っていると思ってるのよ」
「酷いな、僕は潔白だよ。何しろ、僕の人気は僕の意志とは関係ないところで起きているんだからね」
「とんだ自惚れ発言ね」

 ロベリアは呆れ混じりの半眼を彼に向けた。

「へぇ。あの女嫌いのユーリ小公爵が、令嬢を連れて歩いてるなんて、珍しいこともあんだな」
「……?」

 振り返ると、癖のある髪の毛を逆立てた体躯のいい青年が立っていた。

「別に、いいだろ?   ファビウス」
(……ファビウス?)

 ファビウスと呼ばれた彼は、こちらの姿をしげしげと観察した。

「ま、そこそこだな!   オレは派手な女が好みだが、こーいう清楚系も悪くはない」
(……そこそこ?)

 とても初対面の令嬢に対する発言とは思えない。なんと無礼極まりないのか。ロベリアは、ぴくぴくと顔を引きつらせながら、一礼した。

「はじめまして。私はロベリア・アヴリーヌと申します。……あなたは、ユーリ様のお友達?」

 ロベリアが名乗ると、ファビウスは目を見開いて大声を上げた。

「あーーーーっ!   あんたがロベリア嬢か!」
「な、なんです急にそんな大声を出して」
「いや、この前の学園祭でオレの学生証を拾ってくれただろ?   オレはファビウス・バウジャン。その節はどうも!   助かったぜ」
「無事にお手に届いたようで良かったわ。どういたしまして」

 先日、シュベットのペンダントを取り返したときについでに拾った落し物は、今目の前にいる彼のものだったらしい。ユーリが続けて言った。

「ファビウスは昨年の剣術大会の準優勝者なんだよ。今年は早くにアレクシスに当たって、思うような活躍はできなかったみたいだけど」
「う、うるせぇぞユーリ!   アレクシスにさえ当たってなけりゃ、今年もいい線いってたはずなんだ。や、アイツ相手でも決して引けを取るつもりは……ねぇ……けど……」

 最後の言葉は消えそうなくらい小声だった。

 それにしても、ファビウスは斬新な髪型をしている。完全に重力に逆らった茶髪が、縦横無尽に跳ねている。ロベリアが彼の髪に目をやっていると、彼は決まりよく笑った。

「いい髪してるだろ?」
「……ご自分でセットしているの?」
「いいや、寝相に全ての毛根を委ねる新手のヘアスタイルさ」
「つまり寝癖ってことね」

 凄腕の剣士、変な髪型、――ファビウス・バウジャン。
 これまでの情報を反芻し、ロベリアははっとした。

「あーーーーっ!   あなたがあのファビウス!?」
「うわあっ、びっくりしたなぁ。急にでけぇ声出すなよ。つか、どのファビウスだ?」

 ロベリアは驚いて、口元に手を当てながらファビウスを食い入るように見つめた。

 ファビウスは、小説『瑠璃色の妃』の登場人物の一人。登場時間が短かったため、記憶が薄れていたが、彼はナターシャが王妃として入宮した後のストーリーに登場する。

 彼は、第二騎士団に所属し、マティアスの近衛兵をしていた。マティアスは政治的な理由から、小国の姫を第二妃として娶るのだが、彼女に対しての愛情はなく、妃も肩身の狭い思いをしていた。そこで、頻繁に宮廷に出入りしていたファビウスと彼女は恋に落ち、駆け落ちするのだ。

(……へえ、この人がファビウス。禁断の恋をして小国のお姫様を連れ去るような情熱を持っているようには、とても見えないけど……)

 ファビウスは、色恋には疎そうな青年に見えた。しかし、人は見かけによらないのだろう。

「ロベリア嬢……?   なんだその生暖かい妙な目は……」
「なんでもないわ。ちょっとした野次馬心理よ」
「はぁ……」

 ロベリアは、他人の恋愛事情に興味津々の厄介な生き物である。ファビウスは不思議そうに首を傾げた。

「でも、本当助かったよ。何か礼をさせてくれ!」
「別に礼なんて……」

 礼はいい、そう答えかけて、言葉を止めた。ロベリアは、いたずらを思いついた子どものようにきらきらと瞳を輝かせる。そして、両手を重ね合わせながら、声高らかに言った。

「私に体術を教えてほしいわ!」
「――なんて?」
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