隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
30 / 38

三十、真相

しおりを挟む
 

 

 

「失礼ながら。ベルトラン殿は動かず、我が娘フィロメナが動くことで、何かの策が完成していたのではないかと、推察しております。尤も、ベルトラン殿の動向については知り得ておりませんでしたので、今のお話を伺ってのものとなりますが」 

 

 お、お父様凄い。 

 なんというか、凛として凛々しくて・・ん? 

 それって、同じ意味かしら。 

 ・・・と、ともかく。 

 お父様って、こんな威厳のある態度も取れたのね。 

 

「ロブレス侯爵。貴公には、きちんと説明もせず、申し訳なかった。だが、相手がどのように出て来るか分からない状況で、致し方なかったのだと言い訳させてもらう」 

 フィロメナが、父親に対し失礼な感想を持つ間にも話は進み、王太子セリオが、そう言って困ったようにロブレス侯爵を見る。 

 そして、フィロメナにとって更に意外なことに、いつもであれば、王太子セリオにこのような表情を向けられれば、それだけで混乱の極みともなりそうな父が、そこで黙ることなく、凛とした表情のまま、更なる言葉を繰り出した。 

「心得ております。ですがもちろん、ただ娘を危険な目に遭わせるだけであれば、即座に娘の行動を制限させようと思っておりました。しかし、厳重に過ぎるほどの護衛を付けてくださっていたので、様子見としたのです」 

 

 え? 

 なにそれ? 

 護衛? 

 王家が、私に護衛を付けてくれたいたということ? 

 

「侯爵。気づいていたのか」 

「はい。娘に付けている護衛から、報告があがっておりますので」 

  

 ええと。 

 これって、私の話よね? 

 

「そうか。様々、変装をさせていたかと思うのだが」 

「そのように聞いております。しかし、かなりの手練れであり、明らかに住人に変装した騎士だと」 

「王太子殿下、ロブレス侯爵。フィロメナ嬢が混乱しているようだ。ことの説明を詳らかにしてあげるべきでは?フィロメナ嬢こそ、本人なのだから」 

 自分の話の筈なのに、少しも内容が見えず、フィロメナがひとり混乱していると、カルビノ公爵が苦笑しながら、ふたりの間に割り込んだ。 

「ああ、これは済まない」 

「では、わたくしから説明しましょう」 

 嬉々として名乗りでてくれたメラニア王女に、しかしフィロメナは遠慮がちな目を向ける。 

「ですが、お話のお邪魔ではありませんか?わたくしへの説明は、後ほどでも大丈夫ですが」 

「いや。ここまでのくだりを知っておいた方が、理解も早いだろう。姉上、お願いします」 

 話が見えないのは事実だが、自分のために中断させるのも本位ではないと言うフィロメナに、王太子セリオがそう理解を示し、メラニア王女にその説明を委ねた。 

「大丈夫よ、フィロメナ。そう複雑な話じゃないわ。むしろ、事の発端は凄く単純。マリルーがベルトランと結婚したいと言い出して、それを国王と王妃も素晴らしいことだと賛同したの。だって、ベルトランはとっても優秀ですからね。でも、ベルトランにとっては、そんなの迷惑以外の何物でもなかった。だから、ベルトランは士官学校をあんなに優秀な成績で卒業したのに、第二騎士団に入団したのよ。まあ、ベルトランは、前からマリルーに狙われていたから、初めからそのつもりだったと予測されるわね。ここまでは、いい?」 

「はい。ベルトラン様が、第二騎士団に入られたのは、そういう理由もおありだったのですね」 

 なるほどと頷き、フィロメナは自分の思考の狭さを思い知った。 

 

 そうか。 

 ベルトラン様がマリルー王女殿下との縁を望むなら、士官学校を卒業された時に近衛を希望した方が、ずっと近道だったということよね。 

 

「そういうこと。で、ベルトランの思惑は当たって、流石に第二騎士団に所属の騎士に王女を嫁がせるわけにはいかないと、なったわけ。ベルトランは、カルビノ公爵から譲られる伯爵位まで、拒否していたから、尚の事ね」 

「あの、それは。ベルトラン様が、伯爵位を公爵家から譲られるのを拒否されたのは、ご自身の力で、その地位を得たかったから、ではないのでしょうか?」 

 そこはどうなのだろうと、首を傾げるフィロメナに、メラニア王女がにやりと面白そうな笑みを浮かべて見せる。 

「そもそもベルトランは、爵位なんて要らないって言っていたのよ。だから、第二騎士団に居たんだけど。それが、変わったの。急に、近衛に移動したいって。それは、フィロメナも知っているわよね?」 

「はい。ベルトラン様は、確かに、第二騎士団から近衛へ移動なさいました。ご自分で希望されたとも伺っております」 

 それは知っていると、フィロメナはこくりと頷いた。 

 何といっても、フィロメナと婚約してすぐ、ベルトランは近衛への移動を果たしたのだから。 

「ベルトランはね、運命に会っちゃったんですって。ね、カルビノ公爵夫人」 

「ええ。その通りにございます。メラニア王女殿下」 

 ふふと笑みを向けたメラニア王女に、同じくふふと返したのは、ベルトランの母であるカルビノ公爵夫人。 

「カルビノ公爵夫人はね、フィロメナ。最初ベルトランに『気になるひとが居る』と言われた時には舞い上がって、次に、その相手が平民らしいと聞いて肩を落としたらしいの。でもね、そのひとは、平民ではなく貴族、しかも侯爵家の令嬢だったのですって」 

「気になる女性が居ると聞いて、堅物で面白味の無い三男にもようやくと、嬉しく思いましたの。でも、お相手は平民の方より貴族の令嬢の方が望ましいですから、何とか気持ちを変えてもらおうと、姿絵を見せましたのよ。でもそうしたら、平民だと思われたそのお相手が、実は侯爵家のご令嬢だと分かって。あの時はもう、本当に嬉しかったですわ」 

「カルビノ公爵夫人が舞い上がる姿、本当に珍しかったですわ」 

 そこにロレンサ王女も参加し、王太子セリオも微笑ましい表情で皆を見ている。 

 

 ええと。  

 ここまでの話を要約すると、その<侯爵家の娘>というのは、私で間違いなさそうだけど。 

 ベルトラン様と、平民街でお会いしたことなんて、ないんだけど。 

 どうして平民と思われたのかしら? 

 つまり、どこかでお会いしている、の? 

 

「仕方なかろう。ベルトランに望む相手ができ、その相手が非の打ちどころのない侯爵令嬢だったのだから。まあ、あのベルトランが『父上、やはり伯爵位をいただきたいのですが。今からでも可能でしょうか』などと、真面目くさった顔で言い出した時は、私も驚いたがね」 

「侯爵令嬢と婚姻を結びたかったら、第二騎士団より第一騎士団、よりいいのは近衛だものね。より高い爵位も必要だし。でもまあ、それでマリルーが馬鹿なことを言い出したのだけれど」 

 メラニア王女の言葉に、それまで和気あいあいと話をしていた人々が、一斉に遠い目になった。 

 
~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、しおり、ありがとうございます。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。 学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。 そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。 しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。 出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する―― その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

処理中です...