31 / 38
三十一、真相 2
しおりを挟む「あれだけ嫌がられて、避けられているのに、それでも未だ『ベルトランてば、あたくしのために近衛を目指してくれるなんて感激!高い爵位を欲してくれるなんて、マリルー嬉しくて泣いちゃう!』なんて、よくも恥ずかし気もなく言えるものよね」
「あら、メラニア。凄く似ていたわよ」
突然、両手を胸の前で組み、甘い声でマリルー王女の真似をしたらしいメラニア王女に、ロレンサ王女が真顔で感想を述べた。
「それ、喜んでいいものですの?お姉様」
「いえ、実際とてもよく似ていましたよ、メラニア姉上。もちろん、声の感じがですが。流石姉妹ですね」
しみじみという王太子セリオを、メラニアが嫌そうに見やる。
「事実ではあるけど、嬉しくないわよ、セリオ・・・とまあ、冗談は置いておいて。ともかくも、マリルーはそう本気で思ったらしいの。『ベルトランは、あたくしのために』ってね。わたくしに言わせれば、お花畑以外のなにものでもないけど」
「それで、そのままベルトランに突撃して、撃沈したのよね」
「ええ、あれは見ものでした」
回想する三人によれば、王城の廊下をベルトランが歩いているとき、マリルー王女は、言葉通りベルトランに突撃した。
つまりは、叫びながら走り寄った。
『ベルトラン!』
その声は、とても大きく、王女がドレスの裾をからげて走る姿に、周囲を歩いてた文官も騎士も、驚いて見やるほどだったが、マリルー王女は気にすることなく、ベルトランの前に立った。
『もう、聞いたわよ、ベルトランてば!近衛を希望して、伯爵位も得る予定だって!』
『はい』
『はい、じゃないわよ、もう!近衛になるより、伯爵になるより、婚姻の申し込みをするのが先でしょう!?』
朴訥に答えるベルトランに、呆れたように、けれど嬉しそうに言ったマリルー王女に対し、ベルトランは表情ひとつ変えることなく、言葉を繋いだ。
『ご心配には及びません。今、その算段を母が組んでくれております。父も、相手を気に入っているので、大丈夫です』
『え?あたくし、何も聞いていないわよ!?』
その返しに驚いたマリルー王女が言うも、ベルトランは当然と頷きを返す。
『当然でしょう。無関係なのですから』
『なっ。無関係、って。そんな筈、ないでしょう?あたくし、本人なのよ!?』
『無関係です。自分が婚約を望むのは、ロブレス侯爵令嬢なので』
ベルトランにしがみ付こうとして、一歩下がられ失敗しながらも、そう叫んだマリルー王女に、ベルトランはきっぱりと言い切った。
真昼の王城で、多くの文官や騎士の前で求婚してもらえると舞い上がったマリルー王女は、反対にとんでもない恥をかくことになったが、ベルトランは自業自得と、最後まで彼女や周囲が誤解をするような言葉は、一切、告げなかったという。
真昼の王城で、なんて恥ずかしいけど。
ベルトラン様、そんなにはっきり言ってくれていたのね。
そうか。
それで、私がマリルー王女殿下だと当てはめている部分を変えれば、という話になるわけね。
主語をはっきりさせないと、こんな誤解をする羽目になるんだわ。
というか、私が誤解していただけで、周りには婚約前から既に公認ということ。
はあ。
もっと周りと関わらないと駄目ね。
「あれほどはっきり言われたのに、ベルトランが、無事ロブレス侯爵令嬢と婚約してからも凄かったわよね。お茶会でロブレス侯爵令嬢に嫌味を言ったりして」
「すぐさま、ベルトランに抗議されていたわよね。でも、ベルトランがマリルーの護衛を断らないから、最終的には、自分のものに出来ると思っていたのかも」
「それこそ、近衛が王族の護衛をするのは、仕事だと知れと思うけど。まあ、それとベルトランは、特別訓練を受けるために、王族の護衛を積極的に受けていたからね。そこも誤解、というか、最後の望みとなる原因か」
「だとしても、あれだけロブレス侯爵令嬢と接触しないよう、尽力していたのよ?それでよく、そんな誤解をするわよね」
ため息と共に言うロレンサ王女に、メラニア王女は、行儀悪く、指を唇の前で振って見せた。
「ちっ、ちっ、ちっ。それも、自分のためとか思っていたのよ、きっと。思い込もうとしていたと言うべきか」
「思い込み・・そうですね。だから、あんな馬鹿な計画を立てたのだと思います」
「馬鹿な計画、ですか?」
思わず首を傾げるフィロメナに、三人はこぞって頷きを返す。
「そうなの。貴女を攫って、傷物にすればいいという、愚かしい計画」
「それを、国王と王妃も賛成していたの。本当に、ごめんなさいね」
「だが、計画が万が一にも遂行されないよう、護衛を付けた。毎回、複数人の近衛に変装をさせて、安全は確保していた」
「え」
それって、私の護衛を近衛の方がしてくれていたということ!?
自分の護衛として、変装して付いてくれていたのが近衛の隊員だと聞いて、フィロメナは驚きの余り叫びそうになるも辛うじて堪え、心のなかで叫んだ。
尤も。
その瞳は、大きく見開いてしまっていたけれど。
~・~・~・~・~・~・
いいね、お気に入り登録、エール、しおり、ありがとうございます。
769
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね
さこの
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。
私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。
全17話です。
執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ ̇ )
ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*
2021/10/04
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。
ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。
婚約者の愛が自分にあることを。
だけど、彼女は知っている。
婚約者が本当は自分を愛していないことを。
これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。
☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる