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三十一、真相 2
しおりを挟む「あれだけ嫌がられて、避けられているのに、それでも未だ『ベルトランてば、あたくしのために近衛を目指してくれるなんて感激!高い爵位を欲してくれるなんて、マリルー嬉しくて泣いちゃう!』なんて、よくも恥ずかし気もなく言えるものよね」
「あら、メラニア。凄く似ていたわよ」
突然、両手を胸の前で組み、甘い声でマリルー王女の真似をしたらしいメラニア王女に、ロレンサ王女が真顔で感想を述べた。
「それ、喜んでいいものですの?お姉様」
「いえ、実際とてもよく似ていましたよ、メラニア姉上。もちろん、声の感じがですが。流石姉妹ですね」
しみじみという王太子セリオを、メラニアが嫌そうに見やる。
「事実ではあるけど、嬉しくないわよ、セリオ・・・とまあ、冗談は置いておいて。ともかくも、マリルーはそう本気で思ったらしいの。『ベルトランは、あたくしのために』ってね。わたくしに言わせれば、お花畑以外のなにものでもないけど」
「それで、そのままベルトランに突撃して、撃沈したのよね」
「ええ、あれは見ものでした」
回想する三人によれば、王城の廊下をベルトランが歩いているとき、マリルー王女は、言葉通りベルトランに突撃した。
つまりは、叫びながら走り寄った。
『ベルトラン!』
その声は、とても大きく、王女がドレスの裾をからげて走る姿に、周囲を歩いてた文官も騎士も、驚いて見やるほどだったが、マリルー王女は気にすることなく、ベルトランの前に立った。
『もう、聞いたわよ、ベルトランてば!近衛を希望して、伯爵位も得る予定だって!』
『はい』
『はい、じゃないわよ、もう!近衛になるより、伯爵になるより、婚姻の申し込みをするのが先でしょう!?』
朴訥に答えるベルトランに、呆れたように、けれど嬉しそうに言ったマリルー王女に対し、ベルトランは表情ひとつ変えることなく、言葉を繋いだ。
『ご心配には及びません。今、その算段を母が組んでくれております。父も、相手を気に入っているので、大丈夫です』
『え?あたくし、何も聞いていないわよ!?』
その返しに驚いたマリルー王女が言うも、ベルトランは当然と頷きを返す。
『当然でしょう。無関係なのですから』
『なっ。無関係、って。そんな筈、ないでしょう?あたくし、本人なのよ!?』
『無関係です。自分が婚約を望むのは、ロブレス侯爵令嬢なので』
ベルトランにしがみ付こうとして、一歩下がられ失敗しながらも、そう叫んだマリルー王女に、ベルトランはきっぱりと言い切った。
真昼の王城で、多くの文官や騎士の前で求婚してもらえると舞い上がったマリルー王女は、反対にとんでもない恥をかくことになったが、ベルトランは自業自得と、最後まで彼女や周囲が誤解をするような言葉は、一切、告げなかったという。
真昼の王城で、なんて恥ずかしいけど。
ベルトラン様、そんなにはっきり言ってくれていたのね。
そうか。
それで、私がマリルー王女殿下だと当てはめている部分を変えれば、という話になるわけね。
主語をはっきりさせないと、こんな誤解をする羽目になるんだわ。
というか、私が誤解していただけで、周りには婚約前から既に公認ということ。
はあ。
もっと周りと関わらないと駄目ね。
「あれほどはっきり言われたのに、ベルトランが、無事ロブレス侯爵令嬢と婚約してからも凄かったわよね。お茶会でロブレス侯爵令嬢に嫌味を言ったりして」
「すぐさま、ベルトランに抗議されていたわよね。でも、ベルトランがマリルーの護衛を断らないから、最終的には、自分のものに出来ると思っていたのかも」
「それこそ、近衛が王族の護衛をするのは、仕事だと知れと思うけど。まあ、それとベルトランは、特別訓練を受けるために、王族の護衛を積極的に受けていたからね。そこも誤解、というか、最後の望みとなる原因か」
「だとしても、あれだけロブレス侯爵令嬢と接触しないよう、尽力していたのよ?それでよく、そんな誤解をするわよね」
ため息と共に言うロレンサ王女に、メラニア王女は、行儀悪く、指を唇の前で振って見せた。
「ちっ、ちっ、ちっ。それも、自分のためとか思っていたのよ、きっと。思い込もうとしていたと言うべきか」
「思い込み・・そうですね。だから、あんな馬鹿な計画を立てたのだと思います」
「馬鹿な計画、ですか?」
思わず首を傾げるフィロメナに、三人はこぞって頷きを返す。
「そうなの。貴女を攫って、傷物にすればいいという、愚かしい計画」
「それを、国王と王妃も賛成していたの。本当に、ごめんなさいね」
「だが、計画が万が一にも遂行されないよう、護衛を付けた。毎回、複数人の近衛に変装をさせて、安全は確保していた」
「え」
それって、私の護衛を近衛の方がしてくれていたということ!?
自分の護衛として、変装して付いてくれていたのが近衛の隊員だと聞いて、フィロメナは驚きの余り叫びそうになるも辛うじて堪え、心のなかで叫んだ。
尤も。
その瞳は、大きく見開いてしまっていたけれど。
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