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報告 ドロシア・アップルトン
しおりを挟む「母上!あんまりです!見てください、髪がこんなことに!」
母王妃の部屋へ入るなり、シリルは、結局半日直すことを許されなかった髪を見せつけるように頭を突き出した。
「まあ。ざんばらに切られなくてよかったわね」
それなのに、返ったのはそんな呑気な言葉で、シリルは益々熱くなる。
「ざんばらに切られなくてよかった、じゃないです!母上は知っていたんですよね!?」
「知っていた、とは、アップルトン侯爵令嬢が大変な男好き、ということかしら?それとも、金髪碧眼に異様なほどの憎しみを抱いている、ということを、かしら?」
詰め寄るシリルに余裕の表情で答え、王妃は優雅に扇を使った。
「知っていて、どうしてわざわざ」
余りに様子の変わらない母王妃の態度にがっくりと膝を付き、シリルは恨みの視線を母王妃に向ける。
「知っていたから、よ。それともなに。『貴女も混ぜてあげるわ』なんて言われたかったの?」
「は!?」
想像だにしなかったことを言われ、シリルはあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
「感謝なさい。そして、口を閉じて」
そんなシリルの頭を扇で軽く叩いて、王妃はおかしそうに笑う。
「混ざる、って・・・何ですか・・・」
「混ざるは混ざるよ。今日のお相手はひとりだった?」
「朝は、三人、いて・・・しかも居間のソファで」
思い出し眉を寄せるシリルに、母王妃は大きく頷いた。
「王城の侍女を派遣すると言ってあったから、見せつけるためだったのでしょうね。わたくしの耳に入るとは考えなかったのかしら。それともそれが目的?それにしても、居間で、とは。まあともかく、金髪碧眼でなければ、そこに貴方も混ぜられていたわよ」
きっぱりと言い切る母王妃にシリルは身を震わせ、自分の身体を抱き締めるように腕を回す。
「恐ろしいことを言わないでください、母上。その後など、バルコニーでした。まあ、その時の相手はひとりで・・って。そうだ、母上。ドロシアの相手のひとりは、近衛騎士でした」
「そう。それで?シリルはどう思ったの?」
母王妃は、ゆったりと扇を使いながら、その蔭でシリルの反応を見つめた。
「近衛は王族に忠誠を誓っている存在です。それなのに、あの男はドロシアに忠誠を誓いました。ゆくゆく、ドロシアが王妃となった時にも傍に居る約束までして、既に愛人兼私兵のようです。その行いは、我々王族に対してだけではなく、真摯に努めている他の近衛騎士への侮蔑でもあります。故に、即刻解雇とするのが良策と考えます。そして、あの男のような存在が他にもいないかどうか、確かめる必要があるのでは、とも思います。また、アップルトン侯爵家は、かなり王家を下に見ている様子。自分の権威を広めるため、王城内に間諜を放っている可能性も考え、侍女や警備兵なども一度浚った方がいいかも知れません」
ドロシアの部屋でも考えたことも再び纏めつつシリルが言えば、王妃の動きがぴたりと止まった。
「母上?いかがなされたのですか?」
「・・・シリルが・・・・・あのシリルが、王子らしいことを言っている」
瞬きさえしない母王妃に、突然具合でも悪くなったのか、と本気で心配したシリルが駆け寄れば、そんな言葉を発せられて、シリルはじと目で見返してしまう。
「母上、酷いです・・・ですがまあ、仰る通りではありますね」
けれど、我と我が身を振り返り、母王妃の言葉も尤もだとシリルは苦笑した。
「これから、もっとそのような言葉が聞けることを、母は切に希望します」
頼みますよ、その調子です、とシリルの手を取り訴える母王妃に、シリルは初めて心労をかけたのだと実感する。
「余り期待はしないでください」
けれど、そう言ったシリルの表情は、情けなく眉の下がった、凛々しさとは程遠いものだった。
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