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お礼のお話 制服デート 2 〜アルファポリス限定〜
しおりを挟む「シイ様。”たまご達の市”とは何でしょう?種類多くの卵がたくさん売られている、ということでしょうか?あら?でも”今日はりぼんの日”とあります。今日は、卵とりぼんの市の日、ということでしょうか?」
街を歩いていて、ミュリエルはそう言うとシリルに一枚のポスターを指し示した。
「ん?主催は数種類のギルドになっているね。それにしても、卵とりぼんとは面白い組み合わせだな」
「ええ。それに、卵がとても可愛く描かれていますわ」
ふたりが近づき見たポスターには、色とりどりのりぼんと卵が描かれている。
しかも、その卵はすべて可愛い顔が描かれ、愛らしい手足もあり、紳士淑女のような衣装まで纏ってまるで動き出しそうな愛嬌を湛えている。
「ちがうのよ。きょうは、りぼんのおまつりなの」
「わたちたちがつくったのよ」
ふたり並んで微笑ましくポスターを見ていると不意に可愛らしい声がし、シリルとミュリエルが振り返れば、そこには三、四歳と見える女の子がふたり立っていた。
「今日は、りぼんのお祭りなのね。教えてくれてありがとう」
すると、ミュリエルはすぐさましゃがみ込んで彼女達と視線を合わせ微笑んだ。
おお、流石!
つか、幼い女の子と並ぶと、益々妖精天使。
可愛さに打ち震えながらシリルも両手を膝に当て、視線を低くしてふたりに向き合った。
「そのお祭りは、どこでしているか分かる?」
「うん!」
「あっち」
ふたりはにこにこしながら同じ方角を指さす。
「ありがとう」
「行ってみるわね」
礼を言って立ち上がったシリルとミュリエルに、女の子ふたりはきらきらとした目を向けた。
「しょれなら」
「ごあんない、しゅる」
「まあ、ありがとう。お願いするわね」
そんな女の子の手を取り、ミュリエルが優しい笑みを浮かべる。
「おまつり」
「あっちなの」
「ちょっと。何馬鹿なこと言ってんの」
「そうよ。今日は実力を試される日じゃないの。何がお祭りよ」
愛らしい仕草にシリルも優しい気持ちになっていると、突然厳しい声が降った。
見れば、十を幾つか過ぎた頃かと思われる少女ふたりが、両手を腰に当て苛立った様子で立っている。
「それは”たまご達の市”というのは、ギルド主催の祭りではないということか?」
眦も吊り上がったきつい表情の少女たちにシリルが問えば、ふたりは大きく頷き、分かりやすくシリルにだけ笑みを見せた。
「そうですわ、騎士様」
「お貴族様のお嬢様はご存じないかもしれませんが”たまご達の市”というのは、成人前の職人見習いが自分の作品を市で販売してもらえる貴重な場所なのです」
「何もせずとも騎士様や周りの方が護ってくれるお貴族様のご令嬢とは違い、私達は自分の力で生きて行かねばなりませんから。ああ、魔法はお使えになるのですよね。これは失礼をしました」
なんだ、こいつら。
魔法を使えるのはほぼ貴族だけだから、魔法師の格好をしたミュリエルを貴族令嬢と認定したことは分かるものの、何故ミュリエルを敵視するのか理解できない。
初対面なのに、ミュリエルを攻撃する、その理由。
・・・なるほどな。
しばし思考し、大方、普段から憧れである騎士、つまりシリルが当然のようにミュリエルの傍に居るのが気に喰わないのだろう、と予想したシリルは、しかしミュリエルに放った言葉の代償は払ってもらおう、とその端麗な顔に殊更王子然とした笑みを貼り付けた。
「そうか。そこには、君たちの品もあるのかな?」
「はい!」
「もちろんです!」
はっ、ちょろい。
その笑みに頬を染めた少女たちを横目にミュリエルを見れば、自分より大きな少女たちの剣幕に怯え、震えながらしがみ付く小さな女の子たちの背を撫でながら、ふんわりとした笑顔で優しく語り掛けている。
気にしていない、か?
でも、聞こえたよな。
憧れの傍に居たなら攻撃するとか。
貴族も平民も同じなんだな。
しみじみと思い、シリルは自分への悪意を受けながら、それでも怯える小さな子どもに優しく接せられるミュリエルを誇らしく思った。
てか、そんな理由で貶めるとか、ひととして終わってんだろ。
ミュリエルを見倣え、ってんだ。
「おりぼん、あなたたちも作ったの?」
思うシリルの耳に、優しいミュリエルの声が届く。
「うん!いっしょうけんめ、つくったの」
「ちょきちょきも、したの。だけど、ぬいぬいは、まだちょっとだけ」
そんなミュリエルに、小さな女の子たちの目にも輝きが戻る。
「騎士様。あんな小さいのが作ったのなど、作品とも言えません」
「是非、私の作品をご覧ください。自信作ばかりなのです」
ミュリエルも小さな女の子たちも目に入らない様子で、少女ふたりはシリルに媚びるような笑みを浮かべた。
「しかし、見たところで自分はりぼんを着けるような趣味は無いので」
誰が、お前等みたいな性悪の品を買うか!
内心ぷりぷり怒りながらシリルが言うも、少女二人は諦めない。
「ご自分で使われるとは思っていません。ですが、贈り物にでも」
自分で言ってミュリエルを見、少女は不機嫌に口を噤んだ。
けっ。
馬鹿でも分かるんだな。
そうだよ、僕が贈る相手はミュリエル一択だよ!
「そうだわ。私の作品のなかに、その剣の飾りにぴったりなものもありますから、是非」
「まあ、ずるいわ。騎士様。私の作品こそ、その立派な剣に似合うと思います」
シリルの心の叫びも知らず、ふたりともシリルの腕に取りすがらないばかりにして、シリルが腰に差す剣を不躾に指さす態度に、シリルは嫌悪しか浮かばない。
職人として未だ一人前ではない、となれば、ここで実力を示せばこの先の道が開けると必死にもなるかと思うも、そのやり方が気に入らない。
「おや、ご存じなかったか。剣飾りは、妻や恋人に作ってもらう特別なものだ」
言外に、安易に既製品など付けない、と言えば少女ふたりが焦ったようにシリルを見た。
「すみません」
「あの、知らなくて」
「ああ、気にしなくていい。属する場所が異なるのだから知らなくとも当然。そうだろう?」
生粋の貴族令嬢のミュリエルが、お前等が当たり前に知っていることを知らなくても当然なんだよ!
大体、僕だって”たまご達の市”が何なのか知らないしな!
シリルとしては、そのつもりで放った言葉、だったのだが。
「騎士様、お優しい!」
「そうですよね。だって私達、騎士様とお話しするのなんて初めてだから」
「ですから教えてください!覚えますから」
何を覚えるつもりなのか、少女二人は遂にシリルの腕にしがみ付いた。
「っ!」
瞬間ふたりを振り払ったシリルを、少女ふたりは信じられないものを見るように見ている。
「そんな風に男に媚びてまで自分の作品を売りたいのか?それとも、媚びねば売れないような作品しかないのか?お前らの今の態度、自分と自分の作品を貶める行為だからな」
凛と言い切ったシリルに、少女ふたりは途端に冷めた目を向けた。
「ご高説?」
「何よ。騎士って言ったってどうせ下級貴族なんでしょ?」
なんだ、ありゃ。
やめやめ、つまんない男なんて放っておきましょう、と言いながら去って行く少女ふたりを疲れた思いで見つめるシリルの袖を、誰かがくいくいと引く。
「ミュリュウ?」
見れば、ミュリエルが瞳をきらきらさせてシリルを見ている。
「シイ様。とても素敵でした。それに、素晴らしい名言も。自身を貶めるような真似をするななど。なかなか言えることではありませんわ」
何ごとかと向き直ったシリルに、ミュリエルが真顔で言い切った。
「いや。でも、ご高説とか言われてしまったよ」
「今はお分かりにならずとも、あの方たちにもいつか、シイ様のお心が伝わりますわ」
うおお、ミュリエル!!
一生大事にするからね!
「ね、おまつりいこ?・・あ、おまつり、じゃない?」
「でも、とうさんもかあさんも、たのしんでおいで、って」
「わたちのとうさんとかあさんも、そういってた」
「「うーん」」
シリルが内心で悶えていると、小さな女の子ふたりが改めてシリルとミュリエルを誘い、自分達の見解と先ほどの少女たちとの見解の違いに、うんうんと悩んでいる。
「ね、私たちと一緒に行ってくれる?」
「でも、おまつりじゃない、かも?なの」
「でも、貴方達はお祭りって思う楽しいことなのでしょう?」
ミュリエルが言えば、ふたりの女の子がぱあっと笑顔になった
「うん!お店もたくさんでたのしいの!」
「おどりもあるのよ!」
「じゃあ、連れて行って欲しいな」
聞けば、やはり祭りなのではないかと思いつつ、シリルも笑顔でそう言えば、もちろんと女の子たちが歩き出す。
「あのね、おすすめはきれいなあめ!」
「あとね、あまいふわふわ!」
「それからね」
言いながらも思い出すのか、小さな女の子ふたりはくふくふと笑いながら次々シリルとミュリエルに教えてくれる。
「ニナ!」
「ルネ!」
その時、焦ったような声がしたと思ったら、小さな女の子ふたりが大きく手を振った。
「「おねえちゃん!」」
そっか、この子達のお姉さんか。
などと呑気に思うシリルと対照的に、駆け寄った少女ふたりの顔色は悪い。
さっきの失礼女と同じくらいの年か。
しかしなんで、顔色悪いんだ?
まさか、この子達迷子だったとか!?
「あの。この子達が、何か失礼をいたしましたか?」
人さらいのような真似をしてしまったか、と焦るシリルに少女が意を決したように口を開いた。
「え?」
「いいえ、何も。むしろ、りぼんのお祭りがあると教えてくれて、私達をここまで案内してくれました」
予想外すぎて呆けてしまったシリルに代わり、ミュリエルがにこりと答え、小さな女の子たちにありがとうと言っている。
「案内・・そうでしたか」
「しょうよ・・でも、あのね。おまつりじゃない、って」
「ばか、っていわれたの」
安心したようにそれぞれの女の子の頭を撫でた少女たちを、女の子ふたりが問うように見上げた。
「誰に?」
「「にこるとまのん」」
途端、優しい目で小さな女の子を見ていた少女たちの目に不穏な光が宿る。
「あの。”たまご達の市”とは何かお伺いしてもいいでしょうか?」
「え?ああ、もちろんです」
「すみません。いつも、何かと難癖付けられるものですから、つい」
おっとりと尋ねたミュリエルに、少女ふたりもその表情を戻す。
「”たまご達の市”というのは、色々なギルドが主催して、成人前の職人見習いの作品を出品する市のことです。その際、普段の努力と研鑽を親方や先輩たちが慰労してくれる、という意味もあって、露天商や楽隊を呼んでくれるのです」
「この先の露店に今回の作品が並んでいて、その通りに他の露店も出ています」
見れば、今居る場所から少し先に大きな露店があり、それを起点のように向こう側には確かに露店が並び、賑わっているのが見える。
「まあ、本当にとても楽しそう。教えてくれて、どうもありがとう」
ミュリエルの言葉に嬉しそうになった幼い女の子ふたりが、けれど不安がよみがえったように姉を見あげた。
「おまつり、うそじゃない?」
「もちろんよ。お店をたくさん見て、お菓子を買うのでしょう?」
「うん!とうさんとかあさんに、おみやげもかうの!」
「「よかった!きしさまとおひめさまにうそついてなくて!!」」
うんうん、よくわかっているじゃないか!
魔法師の格好をしていても、ミュリエルがお姫様だっていうのは分かるんだな、うん。
幼子ふたりの言葉にシリルが満足して頷いていると、女の子ふたりが、それぞれシリルとミュリエルの手を取った。
「あっち!いっしょにいこ!」
「っ!ニナ!」
「ルネ!」
「ではまず、りぼんを見せてもらってもいいですか?」
にっこりと言ったミュリエルの言葉に、妹たちを諫めようとしていた姉ふたりが固まる。
「あ、あの。りぼんは余り、人気の無い商品で、その」
「ん?りぼんは人気が無いのか?」
夜会などで見る令嬢達のドレスには割と使われている気がする、と思い出しつつシリルが言えば少女ふたりは顔を曇らせた。
「貴族の方のドレスや、裕福な商家のお嬢さんの服飾には使われます。けれど、平民は服に装飾など施しませんし、紐で髪を括って仕事をするのが普通なので、りぼんは不人気なのです」
「裕福な方が使われるのしか見たことが無いからか、値段も高いという印象が強いらしくて。確かに高いものもありますが、普段使いのものは安価で仕上げてありますから、見て欲しいのですが」
そんな会話をしながらも、ともかくと向かった今回主軸となる露店には、色とりどり種類様々なりぼんが並んでいて、シリルもミュリエルも目を奪われた。
「これは、素晴らしいですね。りぼんに、その方の技術が込められているのが分かります」
「ああ。模様が織り込んであるものもあるのか。凄いな」
縫い取りや縁取り、裁断の仕方など、一本一本りぼんに施された技術を見つめ、シリルとミュリエルは感想を述べあう。
それに、芸術品のようなものばかりではなく、実用的なものも見られる。
しかし少女が言ったように不人気なのか、道行く人もりぼんの並んだ露店には興味を示さない。
「もったいないですわ。これほど素晴らしいのに」
「あのね!こえ、わたちがつくったの!」
「こっちは、わたち!」
呟くミュリエルの袖を引き、幼い女の子が短いりぼんを指さした。
「かわいい・・そうだわ」
それは他より明らかに短く、色とりどりではあるものの、端切れのような布をほつれないように裁断し簡単に縁取りをしただけであり、材質も滑らかとは言い難い折り目の粗いものだったが、ミュリエルはとても気に入ったらしく購入を希望している。
「あと、こちらとこちら、それからこちらも」
「あ、あの魔法師様。ご無理なさらなくとも」
そして、次々とりぼんを指さすミュリエルに驚いたよう、少女がおずおずと口を挟んだ。
「無理などしていませんわ」
「ですが、その。妹たちの物まで」
「ああ。こちら、実は髪に結ぶのではなく、お菓子の贈り物に使おうと思うのですが。そのような使い方は失礼でしょうか?」
「ミュリュウ?お菓子の贈り物、って?そんなにたくさんくれるつもりなの?まさか、僕以外に贈るつもり?」
ぴくりと耳をそばだてシリルが会話に割り込めば、少女が楽しそうに笑った。
「ごめんなさい。騎士様は魔法師様をとても大事に想われているのですね」
「その。お菓子の贈り物に使う、とはどのようにしてですか?」
「クッキーを小さな袋に入れて、その口をりぼんで結んだら素敵かなと思って」
ミュリエルの言葉に、少女の瞳が輝く。
「なるほど。材質が粗く、長さが短くともそれなら使えますね」
「素敵な案をありがとうございます」
「で、ミュリュウ。だれに」
「あのね、おひめさま!これ、かみにむすんで!」
落ち着かない様子でミュリエルにシリルが問おうとするのを、はしゃいだ声が遮った。
みれば、ミュリエルが購入したりぼんのひとつを女の子が差し出している。
「これね、おひめさまのりぼんなの!」
「だから、おひめさまがしてるとこ、みたい!」
「・・・これでいいかしら?」
嫌がることなくりぼんを受け取ったミュリエルは、髪留めを器用に外すとポケットに仕舞い、これまた器用にそのりぼんを髪に結んだ。
おお、器用だなミュリエル!
それにとてもよく似合う!
少し大振りなそのりぼんは、ミュリエルの髪でその存在感を存分に発揮し、気づけば道行く人の足を止めている。
「このままミュリエルが街を歩いたら、いい宣伝になるな!何なら、そのわっかに色々なりぼんを着けて歩いたら、もっといい!」
ミュリエルが注目されることが嬉しくて、そう言ったシリルはすぐさま後悔することになる。
妖精天使、舐めてた!
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