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お礼のお話 制服デート 3 ~アルファポリス限定~

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「か、可愛い」 

 身に着けているローブのわっかというわっかにりぼんを結んだり、長く垂らしたりしたミュリエルは、その容姿と相まって本物の妖精のようだ、と見惚れるシリルに周りが大きな頷きを返した。 

「本当に、すっごく可愛いです!」 

「おひめさまきれい!」 

「ちょうちょうのようせいさんみたい!」 

「ふふふ。ありがとうございます」 

 集まったたくさんの少女たちの惜しみない賛辞にさらりと礼を言ったミュリエルが、その場でくるりと回ればりぼんがふわりと舞い上がる。 

 途端、おおっ、と歓声があがり道行く人が振り返る。 

 すると、誰かが歌い出した歌に合わせてミュリエルが躍り、手拍子が広がって行く。 

「え?あれ、りぼん?」 

「なんか、可愛い」 

「ちょっと見てみる?」 

 なんて、客入りも増えて来た。 

 

 そうだろう、そうだろう。 

 ミュリエルは可愛いんだ。 

 

 聞こえる声にシリルが満面の笑みで頷いていると、いつの間にか楽器の演者が加わり、ミュリエルを導くように歩き出した。 

「あ、おい!」 

 すわ人さらいか、と焦り手を伸ばしたシリルのその手をふんわりと取って、ミュリエルが笑顔でステップを踏む。 

「ミュリュウ」 

 ふたり幾度も踊った夜会のダンスとは違う、庶民も混じっての音に合わせて動くだけの踊りに面食らいながらも、シリルはミュリエルをリードし、皆の笑顔と共に広場への道を踊り行く。 

「シイ様」 

 広場の中央へと辿り着いたシリルとミュリエルの周りで、皆が笑顔で歌い踊っている。 

 その最中、シリルはミュリエルが握る赤いりぼんを手に取り、その細い手首に巻き付けた。 

 

 え!? 

 何してんの僕! 

 

 己の気障な所業に青くなったシリルは、自分の手をミュリエルがそっと取るのを感じ更に目を見開く。 

 

 ええええ!!?? 

  

 返礼、と言わぬばかり、ミュリエルは迷うことなく緑のりぼんをシリルの手首に巻き付け、きれいな結び目まで付けてくれた。 

 それは、シリルには出来なかった華麗なる技。 

「ミュ」 

「「「わああああ!!」」」 

 感動してミュリエルを呼ぼうとしたシリルの声がかき消され、周りが一層の盛り上がりをみせる。 

 シリルは多くの人達に肩や背を叩かれ、頭を小突かれ祝いの言葉を投げかけられた。 

 

 お、おめでとう、ってなんだ? 

 りぼんを結び合ったからか!? 

 

 よく分からないながらも、カップル成立を祝う人々の輪に囲まれ、シリルはミュリエルと共に皆と一緒になって踊り歌えば、多くのりぼんが翻る。 

 そして、そこに溢れるひとびとの笑顔。 

 

 これが、この国の宝。 

  

 ミュリエルと共に踊りながら、シリルは自分が守り導いて行くべきものを如実に感じていた。 

 

 

 

 

「わあ。絶景ですね」 

 広場で盛り上がり続ける人々の輪から抜け、シリルはミュリエルを街はずれの丘に誘った。 

「凄いだろう。ここからは街が一望できるし、その向こうには王城も見える。僕の気に入りの場所で、ミュリエルとふたりで見たいと思っていたのだけど、如何せん距離がね」 

 王城からこの丘までとなると馬車での移動が必須で、しかもシリルとミュリエルが正式に動くとなれば多くの護衛や侍女が付き、ふたりきりなど到底望めない。 

 故にシリルは、今回のお忍びで護衛を先に帰らせ、ミュリエルと完全にふたりになる計画を練った。 

 元より王家の土地であるこの場所は普段から勝手に立ち入ることは出来ない。 

 ならば、街から丘まで転移してしまえばいい、と転移の魔法を身に付けようと努力したシリルだが、そう容易く取得できるものではなかった。 

『甘いわねえ』 

 一朝一夕にできるわけもない、と容赦の無い呆れ顔を見せた母王妃に、しかしシリルはめげることなく願いを口にした。 

『母上。丘へ移動する魔法陣を描いてください』 

『高いわよ?』 

 きちんと作動する魔法陣を描ける人物は希少であるが、己の母がそのひとりであることを知っているシリルが頼めば、母王妃は悪戯っぽく笑った。 

 シリルとて、一枚で一度しか使えないその魔法陣がかなりの金額であることは知っている。 

 しかし、背に腹は代えられない。 

『ぐっ・・・血縁値引きでお願いします』 

『出世払いにしておいてあげるわ』 

 冗談でも値引きをすると言わない母に戦慄しながら、シリルは何とか転移の魔法陣を手に入れた。 

 尤も、そのような裏話はミュリエルには内緒だ。 

 まあ、王妃が絡んでいる時点ですぐにもばれそうではあるが。 

「あの灯りひとつひとつに、たくさんの人の命が宿っているのですね」 

 ともり始めた灯りを見つめ言うミュリエルの隣に並び、シリルは深く頷いた。 

「ああ。尊いな」 

 自分と同じ価値観を持つミュリエルの言葉が嬉しくて、共に見られたことが幸せで、シリルは転移の魔法陣がどれほど高価でも後悔は無いと清々しい思いで街を見つめる。 

「月や星に照らされる、街や王城もきれいですね」 

「うん。ミュリエルと見られて、本当に良かった」 

「はい。わたくしも、シリル様と一緒に見られて幸せです。連れて来てくださってありがとうございます」 

 手を繋ぎ、微笑み合って街を見つめ、王城を見つめて満天の星空を見あげる。 

 国の展望を語っていた会話も、やがて甘い雰囲気となり、ふたりを照らす月もその輝きを増していく。 

 

 すっご、幸せ。 

 

 そうして暫くミュリエルとの至福の時を過ごしていたシリルは、とあることに気づいて大声をあげた。 

「ああああっ!!!」 

「っ・・し、シリル様?」 

 余りの声の大きさに隣のミュリエルも驚きに小さく飛び上がり、きゅ、とシリルの手を握る。 

 そんな仕草も可愛いと思いつつ、シリルは青くなってミュリエルを見た。 

「帰りの魔法陣、貰っていない」 

「え?」 

「迎えも頼んで、ない」 

 たらたらと冷や汗が流れるのを感じつつ、シリルは素直に白状する。 

 

 ああ、僕の馬鹿!  

 詰めが甘すぎるだろ!! 

 

 ミュリエルに呆れられても詰られても仕方ない、と、とほほと肩を落としているとミュリエルがことりと首を傾げた。 

「ええと、つまり・・・歩き、ですか?」 

「ミュリエルぅぅぅ。ごめん」 

 情けなく眉を下げ頭を下げるシリルに、ミュリエルはにこりと微笑んだ。 

「大丈夫ですわ。王城まで歩く、のは大変そうですが、とにかく街へ行って、言伝を頼めそうな場所を探しましょう。宿屋や酒場では、そのような仕事を受けてくれる所もあると聞きました」 

 

 うう。 

 妖精天使が、頼もしい。 

 

 詰るどころか、きちんと案を出して来るミュリエルに感謝しつつ、シリルは真っ直ぐに顔をあげた。 

「いざとなったら、僕がミュリエルを負ぶうから」 

 せめて、と、とんと胸を叩き、シリルはミュリエルの手を取ってしっかり繋いで歩き出す。 

「歌でも歌いましょうか」 

 丘を下りながらふたりで歌えば、夜道の怖さも消えて行く。 

 

 

 

「まあ。ふたりで仲良く歩いて帰るつもりなのかしら。可愛いこと。でも、そろそろ迎えが必要よね」 

 その頃、王城では王妃が遠目を使ってシリルとミュリエルの様子を確認し、声は聞こえないまでも楽し気なふたりの様子に微笑みながら、そう呟いていた。 

 

 

完 

 

 

~・~・~・~・~・ 

 

読んでくださって、ありがとうございました♪



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