3 / 5
1-3
しおりを挟むしかし、そうは思っていても扉の向こうからは未だトマリの喚く声が聞こえる。面倒くさい、関わりたくない、という空気が僕たちの間に流れるが、今日に関しては放っておくわけにはいかない。
なぜなら今日はこの後、名家白金家の屋敷にて、トマリと同い年かつ白金家長男で次期当主であるレオンの生誕パーティーがあるからだ。
白金家とは、我が灰羽家と肩を並べる国内有数の名家である。手掛ける事業も似通っていて、昔からライバルとしていがみ合ったり同業者として切磋琢磨したりと、仲がいいのか悪いのかわからない、けれどいい意味で互いを重要視している関係性を家単位で築いていた。それは現在でも変わらずで、子どもの生誕パーティーに招待し合うくらいには仲良くやっている。
ただ今代は、いい関係を築いてる、だけではおさまらない縁が両家の間にできていた。それは、白金家長男レオンと、灰羽家三男トマリが、将来結婚を約束している婚約者同士である、というものだ。
前世の僕がいた世界では考えられないことだが、僕が生きているこの世界は男性同士でも子を成すことができる。そしてなんと、人体には魔力が宿っていて、それを放出することで魔法なんてものも使える。
男性が子を成すときはその人体に流れる魔力を利用し、薬でひと月ほどかけて内側から魔力を活性化さることで、男性でも子どもを宿せる体に作り変えることができる。子どもを産んだら元の男性の体に戻るので、もう一人産みたいとなったらまたひと月薬を服用し続けなければならないのだが、副作用はないので、跡継ぎ問題などが出やすいうちみたいな良家からはわりと重宝されている代物だ。そんな事情から、同性同士の結婚もごくごく当たり前になっている。
なので世間的にはレオンとトマリの婚約にはなんらおかしな部分はないのだが、灰羽家と白金家は付き合いは長いが今まで縁を結んだことなどなかった。それがどうして今代で縁を結ぶことになったのか。それは幼少期に出会ったレオンとトマリが一目惚れ同然に惹かれ合ったからだ。
将来結婚したいと言い出したのはレオンの方かららしい。溺愛して育ててきたトマリを嫁がせるなどまだ考えていなかった父は当然反対していたものの、トマリの希望と数度の話し合いの結果、結局婚約を結ぶことになったようだ。その辺の詳しい事情は兄さんから聞き及んだだけなのでよくわからない。しかし二人が惹かれ合って婚約したのは確かだ。よくある子ども同士の一過性のものだと思わなくもないが、婚約から数年経った今でも二人の仲は良好そうに見える。あのワガママ放題のトマリを、レオンは上手く扱っているようだ。さすがは白金家の次期当主である。
そして今日は、そんなトマリの婚約者でもあるレオンの生誕パーティー。僕と兄さんの着替えも終えて、そろそろ家を出なければ道の混みようによってはギリギリの到着になってしまう、という時間が差し迫っている。それなのに、トマリがまた面倒くさい癇癪を起こしてしまった。こうなっては使用人ではおさめることは難しい。
「仕方ない」
兄さんはもう一度ため息を吐き、金切り声がした部屋の部屋の扉をノックした。
「トマリ、カケルだ。入るぞ」
そう言って、兄さんは返事を待たずに扉を開ける。僕もその後に続いて部屋の中に入った。
この部屋はトマリの自室のため、勉強机やベッド、寛げるソファーとテーブルの他にはトマリの私物が所狭しと詰め込まれている。そしてトマリの服が収められているクローゼットの前で下着姿のトマリが蹲り、その傍に着替えを手伝っていた二人の使用人がいて、こちらを涙目で見上げてきた。
「カケル様、ススム様……!」
「すまない、トマリが苦労をかけたな」
僕たちにお辞儀をする使用人二人を部屋の隅に下げさせ、兄さんは蹲っているトマリの体を揺する。
「トマリ、またワガママを言ったのか。時間が無いんだから、用意してくれた服にさっさと着替えろ」
「……いやだ、あのきらきらじゃないと僕いやだもん」
トマリが顔も上げずクローゼットを指差す。
そこにはトマリの服がずらっと並んでいてどれを指さしているのかはわからなかったが、きらきらと言っているからおそらくはトマリが気に入っている装飾がふんだんに施された服のことだろう。
「あのなトマリ。今日はレオンの生誕パーティーだけじゃなく、ほうぼうへのお披露目の日でもあるんだ。それなのにトマリが目立つ服を着ていったら誰が主役か分からなくなるし、婚約者であるレオンに恥をかかせることになるんだぞ」
「……でも、僕はあれが着たいんだもん……」
「でもじゃない。今回ばかりは我慢しろ。時間もないんだから、さっさと着替えるんだ」
「…………」
兄さんが少々圧を滲ませた声色で諭す。本当はこんな回りくどく語りかけないで、無理やり起こさせて無理やり着替えさせれば終わる話なのだが、後々の両親が面倒なので兄さんはこうしている。変に優しくしてしまっているから、トマリも付け上がって僕たちの言うことは聞かないので最早為す術が見当たらない。
顔を上げないトマリを横目に、僕はクローゼットに視線を移す。
20
あなたにおすすめの小説
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
幼馴染みのセクハラに耐えかねています。
世咲
BL
性格クズな学園の王子様×美形のちょろヤンキー。
(絶対に抱きたい生徒会長VS絶対に抱かれたくないヤンキーの幼馴染みBL)
「二人って同じ名字なんだ」「結婚してるからな!」「違うな???」
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
魔法少女のモブ兄はヤンデレ魔導騎士の愛に息が出来ない
油淋丼
BL
生まれ変わった世界は、魔法少女がいる世界だった。
影が薄いモブ兄に生まれ変わっても、普通と変わらない生活をしていた。
やたら後輩に好かれる事以外…
何処かで見た事がある美しい後輩に毎日のように求愛を受ける日々。
なんで自分なのか疑問に思いつつ、だんだん絆されていきそうになる。
彼にはとんでもない秘密があった。
魔法少女アニメの裏の話は放送しちゃいけない内容だった。
魔法騎士の愛は重くて苦しくてきもちがいい。
モブだった兄は変態悪魔との戦いに巻き込まれる。
歪んでしまった黒髪魔法騎士×一般モブ兄高校生
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
かわいい王子の残像
芽吹鹿
BL
王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる