BLゲームの主人公なんだから攻略対象たちと仲良くやっててください

ネギマ

文字の大きさ
2 / 6

1-2

しおりを挟む

 そんな、冴えないサラリーマンの前世を思い出してから五年ほどが経った現在。僕は十歳、カケル兄さんは十三歳になっていた。
 父や家庭教師による厳しい教育も未だ健在であるがすっかり慣れてしまい、厳しい言葉を投げかけられたりするがもはやそんなもので僕の心が乱れることはない。兄さんも僕のように心の持ちようを学んだみたいで、辛い表情をすることも減っている。むしろ家庭教師を軽くあしらう術さえ身につけていて、ねちっこく説教されないようにと上手く立ち回っているようだ。
 家庭教師は度々「灰羽家に生まれたからには」とか「現当主様のように」とか「灰羽家を支えるものとして」云々ながーい説教をたれてくるのだが、未だ僕は兄さんのように上手いこと回避できない。兄さんが聞かないぶんを僕が聞かされている気がしないでもないが、まぁそこは僕の立ち回りが下手なだけなので兄さんに文句を言うつもりもない。むしろ相手を不快に思わせずにあしらう手腕を尊敬しているくらいだ。さすがは次期当主である。前世の僕も、兄さんくらい上手な躱し方を知っていたらもう少しましな人生を送れていたのだろうかと思わずにはいられない。

 とまぁそんな感じで、兄さんと僕は将来に向けて二人三脚で日々切磋琢磨しながら走っているわけなのだが……ここ最近、二人して頭を痛めている案件がある。 
 それは――。

「いやだ!僕こっちの服がいい!」
「し、しかしトマリ坊っちゃん。本日はレオン様の生誕パーティーです。主役のレオン様より目立つようなお召し物はマナー的にも……」
「マナーとかしらない!僕がこっちがいいって言ってるの!こっちじゃないといやだ!」

 扉の向こうから、子どもが泣きわめく金切り声と、使用人の困り果てた声がした。
 並んで廊下を歩いていた僕と兄さんは立ち止まり、顔を見合わせてから同時にため息を吐く。

「トマリのやつ、また癇癪を起こしているのか」
「そうみたいだね」
「はぁ……出発まで時間がないんだぞ」

 兄さんは呆れたような表情を浮かべて額に手を当てる。
 トマリとは、僕と兄さんの弟、灰羽家の三男坊だ。そして僕たち二人が頭を痛めている案件そのものでもある。
 トマリと僕の年の差は三つ。今年から僕たちと同じ学園に通い始めたばかりの小学一年生だ。
 灰羽家は、誰もが名前を聞いたことがあるくらい有名な家で、一応さまざまな事業を手掛けている「灰羽グループ」のトップでもある。父はその「灰羽グループ」の会長だから、それを継ぐ予定の兄さんや兄さんの側近をする僕の教育に力が入るのも頷ける。そして本来であれば、そんなお家柄に生まれた子どもは末弟だろうがなんだろうが、家に恥じぬようにと厳しく躾けられるはずだ。
 しかしどういうわけか、トマリは両親から大変甘やかされながら育てられている。
 両親はトマリが欲しいと言ったものはおもちゃ、ゲーム、アクセサリーなど、どんなものであっても買い与えたし、僕や兄さんの私物を欲しがったらそれを譲らなければ僕たちを「お兄ちゃんなんだから譲ってあげなさい」と叱った。僕の場合はおもちゃやゲームといったものが欲しいと強請っても必要ないと突っぱねられた経験しかないので、この時点で扱いの差には首をひねった。
 それから、トマリも僕や兄さんと同じように五歳から家庭教師がついたのだが、件の説教が長い家庭教師ではなく別の人だった。しかも父から厳しくしないようにとの指示があったようで、問題を一問でも正解すれば過剰に褒め称え、不正解でも折檻などは当然ながらないし、面倒くさいと授業をサボっても家庭教師や両親は諭すことなく放置している。両親曰く、自由にさせることで育つ個性もあるとのことだが、物は言いようだなとさすがに呆れた。
 そうやって、欲しい物は人のものだろうが手に入り、どんなことをしても誰にも叱られることなく周りから甘やかされ続けた結果、思い通りにならなかったら癇癪を起こし自分が世界の中心であると信じて疑わない傲慢でワガママなクソガキに育ってしまった。
 ここ最近は他人への態度もひどくなってきて、世話をしてくれている使用人へ暴言を吐いたり、同級生を見下すような言動をとっているとも聞く。さすがに看過できず兄さんと僕がトマリを注意したりするのだが、何せ叱られ慣れていないものだから泣き喚き出して全く話にならない。
 当然ながら、僕たちとトマリの関係性は決して良好とは言えない。トマリ自身も兄である僕たちより自分の方が両親から愛されていると自覚を持っているので、トマリは僕たちを下に見ている。そんな状態なので、僕たちの言うことを聞かないのは必然だ。
 しかし、父のあの溺愛甘々ぶりを見るに、トマリには家のなにかしらのことを任せる気はないのだろうと思う。だから、あんなのに無駄な時間を割くくらいなら見捨ててしまってもいいのではと、僕は一度兄さんに提案したことがあった。
 けれど兄さんは頷かなかった。
 それは決して弟への愛からではない。
 なにも成し遂げていないのに、さも自分が崇高な人間であるかのようなあの尊大な態度は、いつか絶対、なにか大きなトラブルを呼び寄せる、という懸念からだ。
 兄さんのその懸念にはさすがに納得した。
 先にも述べたように、灰羽家は国内有数の名家であり、「灰羽グループ」のトップである。そういった立場にある者は、人から恨まれたり誰かから足を引っ張られることも少なくない。今の父でさえかなりの粗探しをされているのだから、跡を継いだ際には兄さんも父以上に身辺を探られるだろう。
 そうなったとき、なにを仕出かすかわからないトマリは非常に危険だ。問題を起こしていなくても、足を引っ張りたい者はトマリに目をつけ利用するだろう。なにか問題が起きて、それがトマリが全面的に悪くても、責任を取らされるのは上の人、つまり父や兄さんだ。最悪の場合、失脚することになる。そうなったら灰羽家だけではない、灰羽家に仕える者や「灰羽グループ」に属している従業員たちにも多大なる迷惑、そして多大な賠償金もかかるだろう。
 僕はそこまで想像して、身震いした。露頭に迷うのだけは勘弁願いたい。
 というわけで、一刻も早くトマリという爆弾を処理し、どうにか更生できないかと諸々手を尽くしているわけである。
 が、先程の金切り声でわかるように、僕たちのその取り組みの成果は未だ得られていない。僕たちがトマリに厳しくする以上に、両親が甘やかしてしまうのだ。
 両親はとことんトマリに甘い。ホイップクリームもびっくりの甘さである。そんな両親にトマリをこれ以上甘やかすなと言ったって聞くわけがない。
 二人で対策を考えてもいい案は浮かばず、兄さんもそろそろ諦めかけてしまっている。かくいう僕も、これ以上は付き合いきれないとさえ思っているのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

処理中です...